19・魔改造するからなぁ。
「じゃーんっ! 美優&瑠香特製手料理でございまーすっ。美優と二人で頑張りましたっ」
「はーい、愛情たっぷり入ってますー!」
二人仲良く戻って来て、次々に料理を並べていく。
タイプは違うけど、同い年だし帰還者同士だし、「ちゃん」付けが抜けてそんな掛け合いをするくらいには仲良くなったっぽい。
こういう機会ってありそうでないしね。良い事だ。
テーブルに並んだのは、オムライス・オニオンスープ・サラダ・蓮の金平・大根の煮物・鶏肉の甘辛餡かけ・果物という折衷料理。
ついでにフライドポテトなんかも用意されてて、ちょっとテンション上がる気がするんだけど……。
「おおー。なんかすげぇなー」
「美優、凄かったんだよー。ていうか、オムライス絶対無理ーって思ってたけど、あれなら出来そう!」
「ふふっ。無理にフライパンでコロコロしなくても大丈夫だったでしょ?」
「うんうん!」
オムライスのふわとろはコツを掴めばすぐに出来るようになるんだけど、一回苦手意識を持つとなかなか上手くなれないシンプルだけど奥が深い料理だよねぇ。
卵焼きなんかは、そこに調理の技術が詰まってるって言うくらいだもの。
シンプルな料理って意外と曲者なのが多いし。
「そうだ。アルウィンさんユランさんは、こちらを使って下さい。多分これは世界共通だと思うので……」
差し出したのは、ナイフ・フォーク・スプーン。
あー、そうだ。
何故かこれは世界が変われどほぼほぼ共通なんだよねぇ。
「「温かい内に召し上がれ!」」
女の子二人の可愛い合図に、「いただきます」で一斉に箸を付ける。
「料理だけでも、異世界なんだと良く分かるね」
「うん。私もあっちで初めて食事した時物凄く戸惑ったよ。日本食が食べたくて意地になった事もあるし……」
「それで調理法に色々あるんだと初めて知ったのだけど、作れそうで作れなかった時のティジュの落ち込みようは見るに耐えなかったから」
「う~……。だって……結局もどきしか作れなかったんだもん。調味料とか全然違うし、作ろうと思っても失敗ばかりだったし」
「やはり、料理に手を付けるのはもはやテンプレですよねぇ。オレも米を見つけたと思ったらもどきだし、味噌作ろうと思ったら気候が合わずに結局腐らせたり。煮る焼くはあっても炊く蒸す炒める揚げるはありませんでしたね……」
「炒めるはあるのに揚げるがない不思議なのよねぇ。一歩手前で止まってるからもの凄くモヤモヤしたの」
「揚げ物……あれは衝撃的でした……」
「ユランってば、一口食べて固まってたものね……」
「毒でも食べたのかと皆思ったからね。確かに衝撃は受けたけれど……」
懐かしい思い出です。
私達からすれば揚げ物如きで? って思うんだけどねぇ。
「やっぱり同じ反応をする方は、そちらの世界にも居たんですね……。わたしの所では炊く・揚げるはなかったです……。お披露目した瞬間、皆さん固まってました。ゲテモノを見たくらいの勢いで……」
分かる。
そんな反応の人もいたよ!
「俺んとこは、蒸す・炊く・揚げるがなかったなぁ」
「茹でるはあるのに湯がくが無かった。あと千寿さん達の逆で、揚げるはあるのに炒めるがなかったんだけど! ヤバくない!?」
「「「「あー、湯がく……」」」」
「「「「「はああああ……」」」」」
いい具合にハモった!
「千寿さんみたいに料理に携わってるなら説明も出来るんでしょうけど、わたし達みたいな一般家庭水準だと煮る・炊く・茹でる・湯がく・湯通しとか感覚的な物で捉えてるから、いざ説明しようとして余計混乱させてしまったりとか。ありませんか?」
「あ、それ俺だわー」
「アタシもー……」
仲間がいました! と、ハイタッチ。
分かるけど。
「だけど、茹でるがあって湯がくがないし、揚げるがあって炒めるがないって。おかしな食文化の発達の仕方じゃない?」
「でっしょ!? 炊くがあって煮るもなかったしー。醤油はあるのに味噌がない!」
瑠香ちゃんが、今思い出してもモヤモヤする! と足をバタバタさせている。
「一番イラっとするパターンだなぁ」
って、醤油あったんだ!
にしても。
食に結構みんな悩んでたんだなぁ。
「醤油や味噌もだけど、揚げ物って無性に食べたくなるのよね」
「「「「うんうん」」」」
「揚げ物って、結局油はやっぱり……?」
「「「「ラード!」」」」
ですよねー。
手っ取り早いし、ラードは美味しいからね!
炒めるがあるって言っても、お肉から油を出してるってだけだものね。
「あ、でもわたし、気合で植物油作りました! 値段はお高くなりましたけど……。ラードは美味しいのは分かるんですけど、やっぱり取り過ぎるとアレですから……」
「手法が原始的になればなるほど、量産出来ないですからね」
圧搾だけだと時間もかかるし取れる量は少ないし……。
「そうなんですよね。ですけど、あっちでの発案者はわたしですから! 発案者特権で常に美味しい植物油ゲットです!」
キラキラとしたその瞳が眩しいよ、美優ちゃん。
「ティジュの言っていた通りだね。こちらの世界は食にうるさいって」
「特に日本人はなぁ。他国の料理魔改造するからなぁ」
うんうん。
食だけじゃないけどね。魔改造するのは。
「魔改造?」
「あー……他国の名物料理を自国民の舌に合うように味付け変えるのはまだ優しい方で、これはこの料理ですよってのを確実に残してあるくせに全く別の料理に変わってたりするんだよ……。で、別物に生まれ変わった料理がちゃっかり国民食なってるんだよな」
「ラーメンとかですよねー……」
「あぁ……あと、カレーとかもですねぇ……」
「そもそもカレーって、スパイスとかハーブを使った料理全般の事なんだよ?」
「えっ! そうなんだ!?」
そうなんだよ、瑠香ちゃん。
私もつい最近知ったんだけどね……。
「あら。啓介君がカレーなんていうから食べたくなったじゃない。晩御飯はカレーにしましょうっ。どうせならこのままみんな食べて帰ったらどう? きちんと親御さんには連絡するのよ?」
と、そんなお母さんの一言により晩御飯が決まりました。