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17・痛い事だらけの呪文の様な歌。

「確かに帰還者は世界規模で言うと多いけど、その辺を歩いていて一日に二・三人、それもまばらに出会えばいい方だなよなぁ。大学で一人見かけたけど、学年も専攻も違うから滅多に会わないし」


 そう言われても、ここに五人もいるんだから実感沸かないよね。

 コテンと首を傾げたお母さん。


「えーと、地域にもよると思うんだけど、やっぱり都心とか拓けてる地域が比較的多いのかな。あと、ある種の専門職が多い地域とか。いる場所にはいるしいない場所にはいないって感じかな。いても一人とか二人程度だと思う」


 例えば、食に貪欲な地域でそういう人達が固まってると、食の知識が広まるし深まっていくから、食文化を広めたい異世界に適応した人だって現れやすくなる。

 その地域の中で選ばれてって感じって言えばわかるかな? 後は地方でも被服に特化した有名な学校があってその中からとか。


 私はノーマル転移で、空間が歪んで足を踏み入れてしまっただけの運が悪かったタイプなんだけど、そういうのも発生しやすい場所とそうでない場所があるみたいで。神隠しの逸話が沢山ある所とか霊峰って言われる場所なんかは特にそうらしい。そして、都心の様にありとあらゆる人種が集まりごった返しているような場所も歪みやすい。

 でも、確率の問題なだけでどこでも起こる可能性はある。じゃないと、なんでもない帰り道で急に見知らぬ場所に飛び出るなんてないものね……。


「そうなのね。でも、そんな風に一人で知らない場所にいって不安だったでしょう? 無事に帰ってきてくれただけでも本当に嬉しかったのよ。でも、みんながみんな戻って来れるわけじゃないのかしら?」


「そうですね。確かにそう言う人もいます。彼等に関しては一概に何とも言えないそうです。戻れない事が幸か不幸かはそれぞれあるみたいですから」


「そう……。せめて幸せであるように願うくらいしか出来ないのね……。色々思う所はあるけれど、ちぃちゃんが戻って来れたのは、アルウィン君達のお陰なのかしらね」


 そう。

 私が戻って来れたのは、どうにかしてアルウィン達が帰還を手助けしてくれた事。


 異世界人が迷い込んでくるのは日常の事として広く認識されていたおかげで、帰還の手段が失われず帰還のヒントもきちんと文献に残されていたけど、それ以外の方法を技術として確立させてくれていた事が大きかった。


 魔術召喚ならぬ魔術送還だね。


 ただ、元の世界に戻るための照準を調整するのに苦労した。

 地球には魔法という概念はあるけど魔素の量が圧倒的に少なく、そもそも魔素があるなんてことを知っているのは一部だけ。

 しかも、地球人そのものに魔力を循環させる機能が無いに等しいので魔法なんて使えない。

 じゃあ、地球に魔素なんていらないじゃんってなるんだけど、神様の通り道だったりこっそりふるらふら降りてきたり、その土地を守るために必要だったりするそういった場所に穢れは毒にしかならないから、うっすらと魔素を散らしているのだそうだ。

 そういった場所がパワースポットと呼ばれる場所。


 そんなわけで、うっすらとした魔素では強引に世界を超えるには不十分。確実に帰すための魔力を魔法陣に溜める時間も相当かかったし、私自身や私物から地球の存在がどこにあるのか把握するのにも苦労した。

 魔力を溜めても確実に帰るための最適な時期というのがあって、それが異世界転移してから三年後だったというわけ。


 三年の間に優しい人達に出会って、異世界での生活に慣れて、あれやこれやでアルウィンと恋仲になったりしたけど、やっぱりこちらの世界の事、特にお父さん達の事が忘れられなくて心配で帰る決断をした。


 相当辛かった。

 どちらも大切で大事で、過ごした時間なんて関係なくて、どちらにも思い出が沢山あって、どちらも選べなくて。

 でも、その背中を押してくれたのはアルウィン。

 日に日に落ち込んでいく私に、一日でも早くティジュに会いに行ける様にするから待っていて。と私が落ち着くまで撫でてくれていたんだっけ。


 それで決心はついたのだけど、やっぱりいざとなると魔法陣の手前で足踏みをした。


 道標となる魔力が込められたトパーズとエメラルドの宝石は、アルウィンの瞳の色。

 それをぎゅっと握りしめたまま俯いてしまったら、動けなくなってしまったんだ。

 

「ティジュ。チキュウでは、約束する時どうするの?」


 私は、無言でそっと小指を出してアルウィンの小指を絡ませて、小さな声で言ったの。


「ゆーびきーりげーんまん、うーそついたらはーりせーんぼんのーます。ゆーびきった……」


 当然、アルウィンはその文句に目を丸くする。もちろん、周りにいた人達も口をあんぐり開けている。

 そりゃそうだ、痛い事だらけの呪文の様な歌だもんね。


「ふふっ。これは絶対に守らないと大変な事になりそうだね。それなら、ティジュがちゃんと待っていてくれる様に私とも約束して? ゆーびきーりげんまん、うーそついたらはーりせーんぼんのーます。ゆーびきった」


 私の真似をして呪文を唱える。

 違和感ありまくりで、思わずぷっと噴き出した。


「アルウィンが言うと、物凄く違和感だよ」

「そう? これ呪文として確立できないかな? 後で作ってみようかな?」

「うわああ……。それ絶対止めてー!」


 本当に出来そうだから怖い! マジで止めてー!


 指切られた後に一万回拳骨……はする方も痛いだろうから、それ相応の痛みを一万回与えるようにするんだろうな。更に針が千本現れて強引に飲まされるとか、ガチで作られたら本気で怖い!

 あれ? 指切りだけじゃ納得いかなくて拳骨が追加されたんだっけ?


 ジトーっと半目で見返していると、ふふっと微笑んだアルウィンに優しいキスを落とされた。


「アルウィン! 待ってるから、絶対!」


 最後にぎゅっと抱き着いて、時間だと言われ背中を押されるまでわんわん泣いて。


 ……今思うとめっちゃ恥ずかしい……。

 しかも周りの目があると言うのに!


 指切りげんまんとか子どもかっ! 指切りの後にキスされて抱き着くとか!


 思い出すと色んな意味で恥ずかしくなって、変に顔が赤くなってしまったのは仕方ない事だと思う。

 そういう事にしておこう。

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