15・納得せざるを得ないなぁ
さて、ここでお父さんが疑問に思った様です。
当然だよねぇ。
啓介さん達が何の疑問もなく、しかも初対面だというのにすんなり話について行くどころか、さらっと話した異世界の事も理解して頷いているんだもの。
お父さん達も異世界の話は私から聞いているからと言っても、掻い摘んで話しただけで深く納得したような周囲に小首を傾げている。
「なぜ君達がなんの疑問も持たないのか、僕は少し分からないんだよ。僕の頭が固いのかな? 千寿からはそういう世界の話は聞いていたけれど、この子が嘘を言っている目ではなかったから、そんな事もあるのだろうと思っていた程度なんだよ。アルウィン君やユラン君が実際に目の前に現れて、ようやくといった感じなんだけどね。まだ気持ちが少しついて行っていないというのも正直な所でね。君達は不思議には思わないのかな?」
「あっ。そうだよなぁ……。うーん……。別にこの場合はルール違反ってわけでもないと思うんだけどどうだろう」
「わたしは別にいいと思います! 話さないのはなかなか理解して貰えないのと、最悪、頭がおかしくなってしまったと精神科へ連れていかれたりするからで、理解してくれる人であれば問題ないんじゃないでしょうか」
「美優ちゃんに同意ですね。それに決して成功した人ばかりではないから、大っぴらに言わないというだけですからね」
「アタシもー。異世界あるって友達に言ったとしてもケラケラ笑い飛ばす様な感じの子ばっかりだから言わないだけで。理解してくれる人、それも大人だったら身近にいてくれるだけで安心するよ」
それなら、と貴志君がそのまま話を続けてくれる様で、任せる事にする。
「福都さん、綾深さん。実は、千寿さんだけじゃないんです。異世界に行ったのは。俺達も異世界から戻ってきた人間なんです。アルウィンさんやユランさんは、異世界から人が来るというのは普通の認識みたいだから、複数の世界が存在しているのは理解しているのだと思います。その世界の一つ、ここ地球という世界では、異世界から地球に戻って来れた人の事を帰還者或いは出戻りと総称して呼んでいます。帰還者はここにいる俺達だけじゃなくて、他にも沢山いるんですよ」
「それじゃ、あなた達もちぃちゃんと同じだったのね。複数って言ったわね。あなた達はちぃちゃんとは違う世界に行ったの?」
「はい。先程も言った通り世界は他にも沢山あります。ここにいる帰還者は全員違う世界にいました。そういうのも何となくですが分かるんですよね。本当になんとなくですよ。あぁ、そうだ、異世界に触れた魂同士で惹かれあうというか? うーん……表現し辛いですけど、直感的な物って言えば良いのかな? とにかく異世界に行った人同士だと、この人は同じ世界に行った人だとか別の世界に行った人だとかも、分かるんです」
「聞けば聞くほど、理解しにくくなりそうな話ねぇ。でも、そうね。貴志君達が嘘を言っているかどうかくらいはちゃんと分かるわよ? これでも人様を相手に商売しているもの! それにしても、異世界って本当にあるのねぇ」
私の話を嘘だとは思われていなかったけど、それでも心のどこかでは本当にあるのかな? くらいには疑問だったと思う。
「逆に異世界からやって来た人もいますよ。原理というか俺達が異世界へ行く方法と同じ感じでやって来るんです。彼等の事を、転生や歪みを渡ってきた人全てを含めて、俺達は『来訪者』って呼んでるんですよね」
「ち、ちなみに、わたしは異世界にいた時ほどではないですけど、アルウィンさん達の見た目を変えてくれたあの社会人の人みたいに能力──スキルっていうんですけど、多少使えるんですよ!」
ちょっとお見せしますね。と、少し萎れてしまった花瓶の花に手を翳すと、今摘んで来たかの様に瑞々しさを取り戻したものとなった。
「うわぁ! 美優ちゃん凄いじゃない!」
「えへへ。向こうにいた時は、範囲は決まってましたけど、辺り一面花を咲かせる事も出来ました。こっちに戻ってきたら、対象に手を添えて美味しくなぁれとか元気になぁれとかその程度ですけど、それでもそうやってお願いしたものは、美味しい実がなったりさっきのお花みたいに元気になってくれるんですよ」
お父さんは、目の前で見せられたスキルに関心を向けて花をじっと眺めていたかと思うと、
「こうやって見せられてしまうと、納得せざるを得ないなぁ」
なんて、お母さんと顔を合わせて苦笑してる。
「こういうのって大っぴらにやった所で騒ぎになるだけですから、わたしみたいにちょっとでも能力残っただけの人達ですら滅多な事で口外しないです。そもそも魔素や魔力がない=魔法は空想! って感じですから。じゃあなんで能力使えるの? って事になるんですけど……。
いわゆるパワースポットとか霊峰富士とか、神力があると言われている場所の多くは魔素が微妙にあったりするんですよね……。神社なんて最たるものです。
魔法の世界に行った人の多くは少なくとも魔力という存在に触れるわけで、中でも魔力量が多かったりすると微妙に能力が残る事が多いです。それで、周囲のパワスポの影響も手伝って使えるようになってしまったと、そんな感じですー」
「魔法の世界に行って幾ら魔素や魔力の存在を感じれても、魔力無しの能力無しだったりするとこちらに戻れたとしても普通の人なんですよね。帰還者が分かるという以外は。あ、絶対じゃないですよ。なんか知らないけど向こうでは何のスキルもなかったのに、戻ってきたら使える様になってたっていう謎現象もちらほら。ちなみに俺はこっちでは何の能力も使えないんですよね」
「私、異世界行った時のスキルは言語能力と人よりほんの少し多い程度の魔力くらいで。こっちに戻ってきたらほんの少しのメジャーな外国語が分かる程度に残ってたかな。特に英語は便利! あはは」
「それでも千寿さんも凄いじゃないですか。英語圏の海外旅行とか楽しそうです!」
「いいなー。アタシも外国語喋りたーい」
「外国のお客様もいらっしゃるから、役には立ってるんだけどね」
「千寿が急に外国語を話せるようになっていたのも、そのスキルとやらのおかげだったんだね」
「うん……。微妙な感じだったし、スキルの事まで言っても流石にこれは分かり辛いかなぁと思って……」
「そのおかげでお店も助かっているんだもの。スキル様様ね」
お母さん……。
そんな羨まし気に欲しそうな目をされても、譲渡のしようがないのよーっ。