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13・早口言葉じゃありませんよ。

「初めまして。アルウィン・セイル・シェルファウラレイクと申します。彼女の事に関して、さぞ心痛な思いをされた事かと。早く帰還させたいと思っていたのですがままならず、三年もの間留める結果となってしまいました。まずはこの通り謝罪を」


「ユラン・マルケイドと申します。アルウィン様の乳兄弟で護衛兼側近をしております。主同様、私からも心よりお詫び申し上げます」


 と、ようやくこの二人を紹介することが出来たんだけど。


「な、ながっ! 名前長っ!」


「何の早口言葉かと思ったよ……」


 うん。

 瑠香ちゃん、貴志君、早口言葉じゃありませんよ。


「ア、アルウィン……セイ……セイファラ……?」


 お母さん、名前ごっちゃになってるよ!


「ユラン・マルゲリータ……?」


 お父さん、ユランがピザになってる!


「アルウィンで構いませんよ」


「私もユランと呼んで下さい」


 お父さんもお母さんもほっと胸を撫で下ろす様子が丸分かりで、二人とも苦笑している。

 日本人だもの! 長い横文字なんて無理だよね!


「アルウィン君、ユラン君。君達が詫びる事は何一つないんだ。千寿を帰すために時間を割いて協力して下さったと聞いているよ。千寿が突然いなくなったあの日から、諦めきれずに探し続けた三年は本当に長く辛かった。二度と会えないのかもしれないとも思った日もある。だけどね、こうして娘と再び一つ屋根の下で過ごせるようになったし、一人心細かったであろう千寿を助け守って頂いた事に、心から感謝しているんだよ。本当にありがとう」


「もし、会う事が出来るならずっとお礼を言いたいと二人で話していたのよ。普通に考えても叶う訳もないのにおかしな話でしょ? だけど、会えてしまったわね。ふふっ。ちぃちゃんの事だから、どちらも大事で選べなくてとても悩んでいたに違いないわ。戻って来た時の落ち込み様といったら尋常ではなかったもの。あなた達がきっとちぃちゃんの背中を押してくれたのね。私からもお礼を言います。アルウィン君、ユラン君、千寿の事本当にありがとうございました」


 お父さん、お母さん、本当に心配かけちゃった。この世界から消えた日から戻って来てからもずっと。

 深く頭を下げる二人を見て、鼻の奥がツンとした。


「私達もお二人に会えて嬉しく思います。優しくて温かくて料理がとても美味しくて幸せになれる自慢のご両親だと聞いていたので、彼女だけでなくお二人にも早くお会いしてみたくてこちらに来てしまいました」


「おかげでこちらは隈が出来まくってましたけどね。扱き使われたなんて露程も思っておりませんとも。まぁ、私もお三方にはお会いしたかったので頑張りましたけども」


「ユラン、一言多いよ」


「気のせいですよ」


「ふふっ。仲が良いのはいい事だわ。でも、面と向かって言われると恥ずかしいわね」


「そうかい? 娘がそう思ってくれているなんて、僕は嬉しいよ。千寿、アルウィン君、ユラン君、ありがとう」


「どういたしまして」


 そんな他愛ない話をしながら、空気が和んだところで、


「シェル……なんでしたっけ……」


 美優ちゃんは何気に名前呼びに奮闘していたらしく、もう一度口にしようと試みたものの思い出せなかったようで、コテンと首を傾げている。


「シェルファウラレイク、です」


「あ、そ、そうでした……。シェルアウラレイク、シェルワウラレイク……シェルラウラレイク……っと……」


 微妙に言えてない!


「美優ちゃん、シェル『ファ』ウラレイク、だよ」


「あっ……うぅ……ごめんなさいぃ~……」


 可愛い!

 ほんと可憐な感じな子だし、言葉に詰まっておどおどしてる感じとか憎めない!


「そっそのシェウラルクレイクって」


 あ、また言えてないっ。そして残念、四文字遠ざかった!


 アルウィンも目を細めて笑っていて、ユランは必死に笑うのを耐えて肩を揺らしている。

 ウンウン。こう、小動物がわちゃわちゃあたふたしてる感じって可愛いよね! 見ていて飽きない。


 誤魔化す様に、コホンと咳払いする美優ちゃん、ほんのり顔も赤いし何やっても可愛い。


「えっと、なんだか、宗教っぽいっていうか、神聖語っぽいっていうか、そんな感じですよねっ」


「美優ちゃん、凄い! なんとなくで分かったの?」


「わわっ……。ち、千寿さんっ。って、当たっちゃいましたか!? わーい!」


 思わず手を握ると、美優ちゃんは驚きつつも当たった事に素直に喜んでいる。

 可愛いなぁもうっ。


 すると、ユランさんがにこりと嬉しそうに微笑みました。

 ユランさんも、イケメンだから似合うよねー。


「私達の国は、昔、長きに渡り日照りが続き作物が育たない時期がありました。火の神ラザルディシスが、この地が住み易く、少しばかり眠りに入るのに丁度いいと居座ってしまったせいだと言われています。

 本来、火の神が人々が困窮する程長期に渡り一所に留まる事はなく、いずれも火の恩恵が有難いと崇められていたのですが、その時ばかりは違いました。

 余程居心地が良かったのでしょう。深く眠ってしまった事が原因で水はどんどん干上がり、人々が水に苦しみ疲弊しきっていきました。

 その様子に心を痛めたシェルファウラという水の女神が、枯れぬ水を与えようと女神の涙を山や干上がった川に落としていったと伝えられています。

 一番日照りが続き酷かった地には、他よりも濃い神力のこもった涙を落とし湖を作りました。その湖のある地が現在の王都シェルレイクです。国名と王都を同じとするには不都合がありますから、国名を縮めたものが王都名となりました。

 シェルファウラレイクとは、先人達が女神と自分達を救ってくれた湖に感謝の意を表し忘れぬようにと付けられた国名なですよ。

 火の神に悪気はないのは分かっていますし、火の神のお陰で受ける恩恵も多大ですから。とは言ってもやはり喘ぐ程となると、救ってくれた水の女神の方に心が傾くのは仕方のない事です。

 後に火の神は水の女神にこってりと怒られ、神が人々に頭を下げて回ったと言う逸話もあるんですよ」


 私が行ったのは、時折だけど神様が直接関わってくる事のある世界。

 でも、私の世界では滅多に人前に姿を見せる事はないから、伝承みたくなってるけど神様は確実にいるって分かっているし、今の伝承も実際にあった事だと確信はしているみたい。

 

 ユランさんの説明を聞き、帰還組はバッとアルウィンとユランそして私に集中的な視線を忙しなく向けてくる。


 気付きましたよねー。

 そりゃそうだよねー。


 お父さんとお母さんは、そんな皆の様子に驚いている様だけど。

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