11・割烹 綾福
「あ、それなら家にきませんか? そこの路地を抜けて五分程なんだけれど」
「おっ。それなら近いしいいと思う。みんな予定がなければこのまま行くけどどうだろう」
「オッケー。どうせいつもの面子でいつものカラオケだしー。ちょっとライン入れるー」
「わ、わたしも、大丈夫です!」
「オレも、問題ないですね。関わった以上ちょっと気になるが本音です」
「あー、自分は無理だな。仕事中で外回りやってるんだ。もうそろそろ行かないとマズイ。っとその前に……」
周囲の写メを消してくれた能力持ちの帰還者さんが、アルウィン達の目と髪色をさっと変えてくれたおかげで、イケメン度合いは変わらないものの少しばかり違和感が減った。
そんなわけで突如として暗黙のルール(基本声を掛けない)がこの場においては崩壊したわけだけど、問題なさそうだしいいよね? ね?
ここで別れる人達ともみんなで連絡先交換して一旦別れ、残った帰還者は四名。
「えーっと、アルウィンさん、だったっけ。あと後ろの人名前分かんないけど、後で自己紹介すると思うし今はいいか。とりあえず、気持ちは分かるけど落ち着いて後で話そう。こっちに来たって事はある程度の時間はあるでしょ? それに、訳わかんねぇ状況だと思うから。合わせて説明するよ」
「うん、そうだね。すぐに戻れるという訳でもないから、問題はないよ。早々にティジュの住まいへ行けるのはとても嬉しい。楽しみだよ」
アルウィンが私の頭に手を乗せて、極上の笑みで何やらのたまいます。
「はい、ご馳走様ー! さ、行くわよー」
美少女が、パンっと両手を叩いて合図する。
それに合わせてぞろぞろと移動を始めたわけだけど、黒髪も違和感ないなー……。
そう。
社会人で外回り中なイケメンインテリ眼鏡さんが、仕事に戻る前に目立たない様にと幻覚の魔法を掛けてくれた。
アルウィンは黒髪黒目、もう一人は茶髪に黒目。
違和感ない。
むしろ東洋系イケメンに変身した。
「えっと、私、お店で働いてて住み込んでて性格には私の家ではないんだけど、そこの大将と女将さん、それと養母さんとお兄さんに、異世界の話をしているから聞かれても大丈夫だから……」
「えっ、ほ、本当にですか!? 凄いです!」
「ただちょっと……、逆のパターンもあるっていうのは言っていないから驚かれるかも……」
「大丈夫でしょ? 信じてるかどうか知らないけどー、話は聞いてくれてくれてるんだったら、それだけでも話が早いしねー」
「そうだな。俺もそう思うわ」
大丈夫かなー。
物凄くドキドキする。
でも、五分なんてあっという間。
早々に着いてしまった。
「えっ、ここ……? お姉さん、ここで働いてるの!? マジで!? ヤバくない!?」
「割烹 綾福!」
「本当に入って大丈夫ですか?」
「うおー、緊張するー」
それぞれの反応を聞きつつ、苦笑する。
そう、私が働いているお店は、店内はこじんまりとしているけど趣があって、予約制の割烹なんだよね。
ちなみに、お子さんには申し訳ないけれど落ち着いた中で料理を楽しんで貰いたいから、中学生未満の同席はお断りしている。
七名が座れるカウンターと四名掛けのテーブルが三つ、六名が最大の座敷が二部屋で、座敷は一日一組まで。
お品書きはフルコースの種類が描いているだけで、料理そのものはその日仕入れた食材で作る完全な大将任せで、値段も時価。
座敷は完全に和食フルコースのみで、他は定食一択。どちらも内容は大将任せ。仕入れの状況で変わるからね。
座敷以外でフルコースを頼む場合は、予約時に言わないと受け付けないのがこの店のルールだけど、座敷以外のフルコースは一週間に一組あるかないかなので、結構ゆったりとしている。
ちょっと高級っぽいけど堅苦しさは然程なく、大将と女将さんの人柄で和やかな感じなんだ。
バイトしていた時は、もっぱら皿洗いがメインで大将や女将さんが必要な物を指示した時に材料を取り出したりの簡単なお手伝いをしてた。
今は皿洗いをメインに、料理を運んだり、簡単な料理を教えて貰いながら作ったりもしている。教えて貰うって言っても見て習うって感じだけど。
「こっちはお店用だから居住区には裏門から入るよ」
案内しながら、カラカラカラ……と、軽い引き戸を開けて中に入ると丁度大将が部屋から出てくるのと同時だった。
「ただいま」
「お帰り。ん? お客様かい?」
「うん、えっと……あの、ね……」
「いらっしゃい。千寿が人連れてくる初めてじゃないか。とりあえず、上がって頂きなさい」
年齢も雰囲気もバラバラの不思議な組み合わせの人達を連れて来たにも関わらず、お父さんは嬉しそうに目を細めてそう言った。