表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/20

10・泣いていいですか……。

 改めて、ん……? 改めても何も、まだ自己紹介がまだだった気がする。


 私の名前は、花咲はなさき千寿ちづ、二十四歳、独身、親親族共に不明、いわゆる孤児ってやつ。

 高校を卒業すると同時に、それまでバイト先だった個人経営の食事処がそのまま就職先となって、子どもいない大将夫婦が、「部屋が余ってるから住み込みでおいで」とお言葉に甘えて働いてんだけど、二年後には異世界転移で三年間行方不明となり、戻って来た時には、施設の養母おかあさんや懐いてくれていた子ども達、食事処の大将夫婦と食事処で一緒に働いている料理人のお兄さんが、それはもう滂沱の涙を流して抱き付いてきて、本当に心配かけていた事を改めて感じて落ち込んでいたものだ。


 こちらに戻って来る時は来る時で異世界で別れる人達の前で大泣きして、帰って来たら来たで大泣きして散々だったのを覚えている。


 それから二ヶ月位の間は異世界のあれこれが気になるし、アルウィン──未だに私をぎゅうぎゅうとしている人物──達の事が忘れられずぼんやりしていたりして、大将夫婦が当時のままに残してくれていた部屋で静かに過ごしていた。

 時折心配そうにやって来る二人のは顔は優しくて、「心が落ち着くまでゆっくりすればいい」と、二十歳をとうに超えてしまった私の頭をゆっくり撫でてくれたりもして。


 スマホでこっそり撮ったアルウィンや異世界の良くしてくれた人達の顔を見ていた時に、ふと思ったんだよね。


 ──もし次に会える事があったとして、その時にこんな姿を見せるのは嫌だな。私が去った後頑張ってれている人達にこんなんじゃ悪い──って。


 だから、気持ちを切り替えるために。

 信じて貰えないかもしれないけど、勇気を出して話す事にしたんだよ。

 スマホに残した異世界の景色やアルウィン達を見せたりして。

 そうしたら、疑うでも笑うでもなく。


「そう。そんな事があったの。頑張ったのねぇ。その分楽しい事も嬉しい事も沢山あったんでしょう?」


 そう言った養母おかあさんも。


「出会いも別れも、嬉しい事も悲しい事も、全ては一本の道になっているのよ。だから今、ちぃちゃんはここにいるのよ」


 そう言った女将さんも。


「そうだな。魂は巡っていてその先があるっていうなら、例え覚えていなくても魂も行く先も含めて全部が一本道だな」


 そう言った大将も。


「だったら、ちーも負けない様に頑張らないとね」


 そう言ったお兄さんも。


 みんな、私の話をじっと聞いてくれたんだ。

 きちんと話す事で心のどこかで折り合いがつけれた様な気がする。


 そして、私は以前のように食事処で働き始められるようになって十一ヵ月。

 季節は一巡して春の終わりを告げようかという頃。 


「約束を守りに来たよ。ティジュ、良く顔を見せて。君に会いたくて頑張ったご褒美に」


 頬に両手を添えられ、甘い言葉を掛けられ、卒倒しそうになっている。

 あまりにも突然すぎてアルウィンの名を呼んで硬直したまま金魚の如く口パクしている私と、目を細めてにこりと微笑むイケメン紳士なアルウィンと。

 ちらりと視界に入った苦笑しているもう一人の見慣れた顔。


 そして、そんな私達に声を掛けてくる人達がいた。


「あ、あのー! すみませんいいですか!?」


「ちょっとちょっと! 君達早くこっち来て!」


「そうよ! こんな所じゃ目立つわよ! 流石に! 再会っぽいけど! 気持ち分かるけど!」


「あーっ! もーっ! 仕方ねえな! とりあえず早く来いって!」


 見知らぬ帰還者なかま達に、それぞれ腕を引っ張られ背中を押され路地に入り更に脇道へ連れ込まれ、私は彼等の顔を見た。


「はー……っ、びっくりしたわーもー……」


「マジで……。心臓に悪すぎる」


 数人に囲まれそんな事を言われていると、


「とりあえず、そのイケメン二人撮ろうとしてたって言うかガチで撮ってたの、全部消しといたから」


 背後からそんな声がして振り返ると、イケメンインテリ眼鏡がそこにいた。

 インテリかどうかわからないけど!

 この人、能力持ちのまま戻ってきた人だ。


 しかも何だろう。


 何だろう……。

 このモヤモヤ感。


 イケメン、インテリ、美少女、可憐、ペット系男子に遊び人系等々。


「タスケテクレテ、アリガトウゴザイマス。ドウギョウシャサマガタ……」


 ロボット並みにカクカクしながらお礼をし、本当に人並み平々凡々な私は更に居た堪れなくなったとか。

 泣いていいですか……。


「ティジュは可愛いから。大丈夫」


 鼻血出していいですか……。

 っていうか、心の声読まないでーーー!!


「あー……ハイハイ、分かったからとりあえずそちらの彼……落ち着いて……」


「はぁーアタシもやっぱり残れば良かったかなあああ! リア充が目の前いるの辛いっ!」


 なんか、ごめんなさい。色々と。


「ま、なんでもいいけど。このままじゃ話も出来ない。どこか安心して話せるところに行こう」


 あっ。

 それなら!


 そんなわけで、私は今日明日は偶然にもお休みなお店へご招待する事にしてみます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ