長官と令嬢
馬車に揺られること30分ほど。
我々はアルバート邸に着いた。
「うお!でっけ~。いったい何人住んでですかねえ?」
ジャック・クレーバー・・・私の補佐官の一人が、緊張感のない声を上げる。
こいつは所謂本能型の刑事だ。優秀ではあるのだが、如何せん頭が悪い。言動も悪い。顔はまあ・・・俺よりはいい。
私がギロリトジャックを睨むと、残り二人の俺の補佐官、カイムとエレナがすかさずジャックを諫めた。
「ジャック、ガキみたいな真似はよせ。」
「みたいって言うよりまんまガキでしょ?」
いつもと同じ四人の会話だが、やはり幾ばくか表情が硬い。
あんな噂のある貴族の屋敷だ。それも仕方ない・・・はうっ!腹が・・・
☆
私はレインハルトとセバスを連れ、応接室へと来た。そしてゆっくりと扉を開いた。
中はテーブルをはさんで二つのソファーが置かれており、その片方に一人の刑事が座っている。その後ろに三人の若い刑事が――――とは言え30くらいはあるが――――男、男、女の順に起立していた。
右から順にジャック、カイム、エレナである。
私を見て立ち上がろうとする長官を手で制し、対席に座り、双方挨拶を済ませた後――――――――
エリザは話を切り出した。
「それで今日はどういった用件ですか?見ての通り我々は今忙しい。手短に済ませてくれると非常に助かるんだが・・・。」
「も、もちろん。そのつもりです。」
「で、何の用だ?」
ダメだ。サツを前にするとどうも友好的に話せない。
ここは多少文脈が可笑しくても、しっかりと敵意の無いことを伝えるべきか・・・
私はカツンとティーカップを置いて、前を見据えた。
「その前に長官殿。我々としては貴殿等と友好的で実利ある関係を結びたいと思っている。もちろん双方にとってだ。どうだろうか?」
(情報交換をしようじゃないか?その方が楽だろ?)と言ったのだが分かってくれただろうか?
ヴィーンは顔を青ざめる。深呼吸をするように、一つづつ念を押すように言葉を紡ぐ。
「本気で・・・仰っているのですか・・・?」
「不満か?」
「い、いえ・・・。ですが・・・・。」
やはりヤクザと協力は出来ぬか・・・
今はヤクザじゃないはずなんだが、経験の勘か・・・私の本質を見抜いたらしい。
中小企業の課長みたいな顔して、なかなか有能だな・・・
だが、それ故に協力する価値がある。
エリザベータは友好的な笑み(ヤクザスマイル)を作った。
「ふっ、なかなかどうして見どころがある。しかし、安心しろ。お前の心配するようなことは起きないよ。私は只協力したいだけなんだ。」
「っ・・・・!どこまでやるおつもりか?」
「?・・・可笑しなことを聞く。最後までに決まっているだろう?なあなあで終わらせるのなら初めから手など出さんよ。」
「・・・・お話は分かりました。しかし、事が事。今すぐに返事は出来ません。しばし考える猶予を。」
目をつむって何とかその言葉を絞り出す長官に、私もその程度ならいいだろうと了承する。
「――――――――しかし、時は金なりと言う。あまり遅いと我々だけで片付けてしまいますよ?」
――――――――――――――――なっ!!
――――――――バリーン
二人の声のみが響く静寂に包まれた部屋の中。
突然金属が割れる音が響く。
「ミランダ、片づけを。」
ティーカップが床にぶつかり割れる音だった。
私はミランダに片づけを命じ、そろそろ終わりにしようと音頭を取る。
「ではまた後日、色よい答えを期待しています。長官殿。」
こうして警察との初顔見せは終わった。