やくざ者の災難
事件から早一週間がたった。
本邸の改修はまだ終わっていないが、一応の平穏を取り戻したと言える。
寝起きは第一兵舎で行い、兵の訓練も前の雰囲気を取り戻しつつある。料理はミランダやアリア、他料理経験のある兵士が行い、問題も起きていない。
プロ並みとはいかないまでもまあまあな味もある。
そんなこんなで、父上に代わっての行政は、一番の私の仕事となっていた。
今は朝九時ごろ。
エリザベータは仮設書斎―――――第二兵舎の二階に机と椅子を運んで作らせた8畳ほどの中部屋―――――に籠り、今日も書類と睨めっこしていた。
「あ~、つーかーれーたーーーー・・・・。」
手を前に突き出し、だらんと机に突っ伏す。
昨日は3時間しか寝れなかったのだ。
ヤクザも真っ青なブラックぶりである・・・。
工事費用に、顔合わせ、税管理・・・
資料の精査だけではなく、修復までしなければならないのが、大きな負担となっていた。
「死ぬ・・・間違いなく過労で死ぬ・・・・」
心からの声であった・・・が、そんなことなど知らぬと扉が入室を求める音を出す。
――――――――コンコン・・・コンコンコン
「入っていいわよ・・・・。」
上半身を起こし、衣服を整えると私はそう告げた。
ガチャリと扉が開かれ、二人の人影が顔を出す。
一人は漆黒の燕尾服をすきなく着こなした老年の執事―――――セバス・チャン
もう一人は白い騎士服を着た白髪のイケメン―――――レインハルト
セバスは両手に白手袋をはめ、レインハルトは白い文様を刻まれた白刀を下げている。
「セバスにレインハルト・・・珍しい組み合わせね。何の用?」
「はっ、下でアルバート領警の方がお待ちでしたので、急ぎ取次ぎをと・・・。レインハルトはその護衛です。」
軽く礼をして、端的に伝えるセバス。
エリザベータはそれを聞き、勢いよく席を立った。
「サツだって!?ガサ入れか!くそ、頭が居なくなった途端にこれか!」
幼少期より無意識のレベルにまで刷り込まれたヤクザの血が、エリザベータの口を勝手に動かす。
最早呪いである。
当然のことながらレインハルトとセバスは目が点になった。
「え、・・・サ、サツ?」「ガ、ガサ・・・?」「か、かしら・・・。」
トリオのように繰り返す二人。
正気を取り戻した私の顔は真っ青になった。