その男主人公
(SIDE:アルフォンス)
平民街。とある一画。
太陽が丁度真上に差し掛かり、正午を知らせる鐘が何時も同様に鳴り響いている。
そこは露店や個店が立ち並び、多くの人影で行きかっていた。三歩歩けば人にぶつかる程の混みようで、獣人、エルフ、只人、冒険者から商人、甲冑を着た騎士まで、種々折々の人がおり、その各々が慣れた足取りで人込みを気にした風も無く歩いていた。
だからだろうか?
その男は酷く目に留まった。
着ている服は何の変哲もない、平民代表のような赤い服。
腰には少しばかり値が付きそうな、長剣を下げ、漆黒の髪は短くそろえ、清潔感を感じる様相だ。
顔はかなり整っており、日本人モデルと言えば納得できるハイレベルである。
しかし、いや逆にそれ故に、さらに男は悪目立ちしていた。
一言で言ってしまえば、「田舎者」。
きょろきょろと落ち着かない様子で辺りを見回し、初めて都会に来た田舎者のように、その人混みに面食らっている。どこか目的地があるのだろうが、そこがどこだか分からないといった感じだ。
男の名前はアルフォンス。彼自身は知らない話だが、ガンガンソードのゲームの主人公である。
男は自身の状況を分析して、やれやれと頭を掻く。
「参ったな~。これは迷子ってやつか?なあ、オッサン。」
「いきなりオッサン呼ばわりとは失礼な奴だな。あと、急に。なあ、とか言われても知らんよ。」
答えたのは40後半ぐらいの露店商人。
彼は平民服を着て、迷惑そうにアルフォンスを見上げている。
しかし、オッサンにはオッサンの言い分がある。
「店前で、そんな辛気臭い顔されたら客が寄って来なくなるよ。買う気がないならとっとと失せな。」
「辛気臭いのはお互い様だろ?」
「本当に何なのキミ。失礼極まりないよ。」
アルフォンスは、都会はシビアだなぁと内心溜め息。
「そんな事はどうでもいいが、ルルカナってとこ行きたいんだ。どう行けばいいか分かるか?」
「どうでも・・・って、はっ・・・・?」
こいつは何を言ってるんだと言う風に、オッサンは顔を固まらせた。
アルフォンスはそれに不思議そうに頭をかしげる。
「どうかしたのか?」
「どうかしてるのはお前の頭だ。ルルカナってのが、どこか分かって言ってるのか?」
「もちろんだ。『犯罪都市ルルカナ』―――この世で最も治安が悪い場所、だろ?」
「そうだ。あそこは警察すら手が出せない無法地帯。そこまで分かってて、・・・自殺志願者か?」
「そんな風に見えるのか?」と、アルフォンスは肩を竦めて見せる。そして。真剣な、懇願するような面持ちで、オッサンを見据え、
「頼む。金が必要なんだ。行き方を教えてくれ。」
「いやだな。これでお前さんが死んだら俺のせいみたいじゃねえか。あそこは命が紙ぺら一枚の価値も無い場所だ。金欲しさに行くような場所じゃね。」
「あんたが教えないなら、俺は他の奴に聞くだけだ。」
強く言い切るアルフォンスに、露天商は、はあ、と溜め息。
別にこのまま無視してやってもいいのだが、生来の人の好さが、それを咎める。
どうしたものかと天を仰ぐと、ふと、ある会話を思い出した。
「そう言えば、兄ちゃん。アルバート家が大幅な人員募集をやるみたいだ。金が欲しいなら行ってみたらどうだ?」
「人員募集?下働きかなんかか?」
何の身元の証明も出来ない者の未来は商人か、農民か、よくて貴族の下働きになるかだ。
しかし、それでは足りないからアルフォンスはルルカナに行こうとしていたのだ。
下働きで満足できるはずがない。
冒険者や傭兵と言う手もあるが、あれは下積みが一年は必要だ。
今すぐ大金が必要なアルにとっては、その一年は致命的だった。
「いや、俺が聞いた話じゃあ、騎士団員の募集みたいだぞ。腕に自信がある奴なら、出自は問わ無いらしい」
「聞き間違えか?出自は問わないと聞こえたが。」
「そう言ったんだよ。種族も出自も問わないらしい。」
「それは面白い話だが・・・」
平民からしてみれば、これ以上ないほどのチャンス・・・。
だが、当のアルフォンスの声は渋い。
冒険者や傭兵と同じく、今すぐ金が必要なアルにとってはそれでも足りないのだ。
「悪い。情報は有難いが、やっぱダメだ。俺は今すぐまとまった金が必要なんだ。」
きびつを返し、その場を去ろうとするアル。
露店の店主は慌てて止めた。
「ああ!ちょっと待て!話はまだ終わってねえ。アルバート新伯爵のお眼鏡に叶えば特別恩赦が出るらしい。」
「本当なのか・・・?」
「噂だが、信憑性は高い。宣伝紙も出回ってるって噂だ。」
「・・・・それが本当ならば願ったりかなったりだが、・・・いや、ありがとう。いい話を聞けた。」
アルフォンスは軽く会釈をし、ルルカナ改め、領都へ向かうことにした。
アルフォンスの足取りは軽い。
あの日から、碌なことが無かったが、今日は付いている。
運気が回ってきたか?
何か良いことがありそうだ。
「おい兄ちゃん!領都は、そっちじゃねえ!反対だ!」
前途は多難だった。