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腹黒乙女と12の時代勇者様  作者: 朝月ゆき
【一章】 黄の乙女は始まりを知る
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〜安土桃山の勇者様(7)〜


海を思わせる道だった。

波一つ無い、静寂でどこかさみしい海を。


そこを、ある一人の青年が悠然と歩いていた。


穏やかな青の上にきらめく長めの銀髪。

柔らかそうな印象を受けるアクアマリンの目。

長身かつ細身な体躯。なびくのは、藍色の衣。

優しげで細面な顔は非常に整っており、穏やかな気質を感じさせる。


「ーーやっと来たな。待っていたぞ、鎌倉の勇者」


辺りに、誰かの厳かな声が響いた。


銀髪の青年が微かにまなじりを寄せ、静かに顔を上げる。


「……誰でしょうか?」


「神ってやつかな?」


そう答えた瞬間、青年の前に何かが落下した。

青年の柔らかな目元が微かに細められる。


彼の視線の先には、青い石らしき物。

青年のいる海のように濃い道よりもさらに濃厚な色をした石。


「……これは何です?」


「ラピスラズリ、と言う石だ。くれてやる」


姿を一向に現そうとしない声がそう言い、青年は何の感情も浮かんでいない顔をしたまま、足元に転がっているラピスラズリを片手で拾い上げた。


「ーーこれから、お前にはとある時代に行ってもらう。お前にとってーーああ、他の者にも当てはまるな。お前たちにとって未来に当たる世界だ」


「未来の世界……」


「興味深いだろう?というより、まず実感が湧かないだろうな。俺は、お前達の想像もつかないような事をすることができる。俺にはある目的があってな。お前にはその目的を果たすための駒となってもらう」


「……」


青年は、青の空間に響く声に表情を動かすことはなかった。


「ほう?驚いたりしないのか?」


「私に心という物はありませんから」


「お前の過去、が関係あるみたいだな?感情も消え失せる悲惨で酷すぎる過去。俺は何でも知っているぞ」


「……余計なことは言わないほうが身の為ですよ」


感情がないと言われた青年に一瞬だが、冷たい光がよぎった事に声の主は気づいたのだろうか。


「そのようだな。まあ、俺はお前の過去とか知ったことじゃないが」


どこか、飄々とした声音だった。本当にどうでもいいと言わんばかりに。


「ーーその話はもういいとして」


声のトーンが変わった。

青年の耳朶を打ったのは先刻のものと違って、ひどく冷淡で厳かだった。


「お前には、今言ったとおり、俺の目的を果たすための道具となってもらう。ーー単純なものだ」


青年は、声主の一方的で身勝手な進行に特に気分を害した様子は見せなかった。ただ、無表情に声が響く中、どこへともなく目線を向けるだけだ。


「お前がこれから行く平成時代ーーそこで、あるものを集めてもらう。そしてーー」


やがて、声主の言葉を静聴していた青年がゆっくりと頷いた。


「その依頼、受けましょう」



***



敵は無慈悲だった。

ーーいや、“感情”というものがこの敵にはあるのだろうか。

敵の鋭い牙が、疾風のごとく動き回る千夜を捕らえようと操られるが、かすりもせず、千夜に翻弄されているようにも見えた。

その為か、徐々に敵が激しく咆哮する回数が増えてきた。


「でも、攻撃はまったく効いてないんだけどね!」


どうしたらいいんだろう、とやけに余裕あり気に駆け、たまに様々な箇所に剣を振り落とす千夜に、理香は呆れながらも、どこか酷く高揚していた。


(すごい…っ!)


無邪気な笑顔の裏で鋭い目をした千夜は、敵の攻撃からひたすら逃げているように見えるが、どこを攻撃すべきか、急所的なものは果たしてあるのか、冷徹に見極めようとしている。

さすがは、戦国の世と言われていた安土桃山時代から来た戦士というのか。否ーー単に、彼が戦闘に長けていて、冷静沈着な性格をしているからなのか。


どちらにせよ、すごいものはすごい。


例え、安土桃山時代より、戦闘の分野で発展した平成の兵器が通用しなかった敵なのに、それに勝る動きを見せる千夜が異様だと思っても。

敵に絶望し、憎しみを抱く理香にとっては、そんなことはどうでもよかった。とにかく、敵を穿つ力が欲しい。


「私も負けていられない…っ!」


目の前の強大な敵を見上げる。


恐怖を、憎しみを、悲しみを戦う力に変えろ。

死ぬ物狂いで戦え。女子高生の相沢理香は捨てろ。


さあーー


(戦えっ!!)


意気込んで、敵をもう一度見上げようとした時だった。


「え……?」


目の前に広がった光景を誰が理解することができるのだろうか。

誰が、敵がその場に長い首を伏せているわけを知ることができるのだろうか。

誰が、敵がまるで理香に忠誠を示しているみたいだということができるのだろうか。


『グルル……』


その場が危険な場なはずだということも忘れ、身動き一つとらず、放心する理香に、竜のような姿を模した敵のリーダー格であるだろう敵の一体が、彼女にどこか切なげな鳴き声を発した。


そして。


『ようやく見つけました。我らが理香様』


敵たちが、力強く咆哮をあげた。


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