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腹黒乙女と12の時代勇者様  作者: 朝月ゆき
【一章】 黄の乙女は始まりを知る
8/24

〜安土桃山の勇者様(6)〜

ーー耳を(つんざ)くような無数の雄叫び。


躊躇うことなく、荒廃した建物を後にし、夜になり始めている空の下に千夜は現れた。


(これが、人類の敵か……)


一言で言うと、敵は巨大だった。

元々千夜が小柄だという所以での感想ではない。どんな背丈を持っていようと、必ずそう思うに違いない。

人間をはるかに凌駕する巨体に、それぞれ色は異なっているが、大きな翼。

さながら、竜のようだと言っても過言ではない。


(こいつらに、剣は通用するの?)


巨軀を持っているゆえ、攻撃はしやすい。だが、その大きな体を包む(うろこ)を果たして、斬り刻めるのか。

ーー答えは、おそらく否だ。


ならば、どこから攻撃すればいい。


(……弱点は、あるのかなぁ?)


目を眇め、ゆらりと剣を構えた時だった。

気配を消していた千夜が殺気をあらわにすると、近くにいた敵が唸り声を発した。


「きなよ、俺の獲物」


柔らかく微笑み、その瞬間、体を跳躍させた。

獰猛な赤い目をした敵の一匹が、千夜に牙をむいた。

そんな敵のようすに少しも焦ることなく、彼は疾風のごとく敵の足、胸元、そして長い首をつたい登り、すかさず剣を翻した。

ーーが。


ーーキィィィン!!


まるで、強固な鉄に攻撃したような衝撃音だった。

尋常ではない。こんなに硬い鱗など。


「まあ、でもどこかしら急所はあるよね」


なんて楽観的な考えだろうと自分でも思う。

そんな簡単に、相手が教えてくれるわけがない。

ーー否。


(教えられてもこまるよなぁ)


弱点などがあったら、一瞬で片がついてしまう。それではちっとも面白くない。


素早く動き回る千夜に、苛立ったらしく、敵は鋭い咆哮を放ちながら再度、彼におそいかかった。

千夜の背丈の三倍はあるに違いない牙を振り下ろしてくる敵に、千夜はどこか妖艶に笑った。


月光が闇の中で軽やかに踊る千夜を照らし出した。


(だって、たくさんの血が見れないんだもの!)


再び、金属の衝突音が闇夜にこだました。

周囲にいた他の敵達が、凶暴な目で千夜を取り囲み始めた。


千夜は、登っていた漆黒の翼を持つ敵のもとから身軽に地面に着地した。

そして、優雅な動きで立ち上がり、自分を囲う数十体の敵を前に笑い、鋭利にひかる剣を構え直した。



***



キィィィン、と刃のぶつかる音が、この荒廃した建物の中まで聞こえた。


「ほんとうに、戦っているの?」


ありえない。たかが人間一人でたおせる相手ではないと言うのに。事実、幾数、幾百、幾億という命は数日間で消し去られてきた。

あらゆる部門で発展したこの時代。なのに。呆気なく人類は衰退していった。


ーー本当は知っていた。


日本の国民は、数日間で全滅したという事を。

理香を一人残して。


なぜ、自分だけが生きのびられたのか。

なぜ、自分が敵を前にして殺されなかったのか。

なぜ、自分を見た瞬間に敵は首を垂れたのか。


それは知らない。考えたってちっともわからない。

ただ、これだけはわかる。


(奴らは、敵。憎むべき敵。殺し尽くすべき敵)


だって、理香の大切な人たちを無惨に殺したのだから!


「報いを受ければいい……」


暗い笑い声と共に理香は、千夜の元へ駆けだした。



***



「ちょっ、本気?理香ってば」


突然、荒れ狂う敵達の前に姿を現したと思ったら、あろうことか、理香は懐に隠していたらしいナイフを手にした。そして、そのまま彼女は敵の足元に切りかかったのだ。


(なんて、無謀なんだ)


かの時代で、裏の剣豪と名を()せた自分でさえ、正直に言うと苦戦しているというのに。

ましてや、彼女は全くの素人に違いない。

ナイフの構え方、攻撃のスピード、身のこなし、どれをとっても、彼女は武術の無経験者であるという事を明確にしていた。

だがーー。


(面白いなぁ)


初めて出会ったかもしれない。

激しい憎悪と悲壮を抱きながらも、真っ直ぐに敵へと恐れることなくたちむかっていく少女など。

いや、本当は恐れているのだろう。

しかし、清々しいまでに恐れや怒り、そして悲しみを刃に変える姿に、千夜は一時、ここが戦場であることを忘れ、高揚し、また、目を奪われてしまった。


(気にいったよ……)


汚れた自分にふさわしい主だ。

破滅の乙女。




ーー暗い執着が芽生えた瞬間だった。



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