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腹黒乙女と12の時代勇者様  作者: 朝月ゆき
【一章】 黄の乙女は始まりを知る
23/24

〜平安の勇者様と昭和の勇者様(4)〜








 「──【月乙女(つきおとめ)】、竜神騎士団団長サレイド、ただいま帰還致しました」


 静かな夜の中に、純白の柱宮殿が一つ建っていた。大きな雲と雲から覗く微かな月光が、柱と柱の間に射し込んでいる。

 降りゆく雪をそこから見つめる女性がいた。白銀のエンパイアドレスを纏った彼女が振り返ると、そこには、一人の男が片膝をついていた。


 「お帰りなさい。事はもう伝わっているわ。あなた……【相沢 理香】を取り逃がしたようね」


 女性の漆黒の瞳に険が宿る。それを感じた男は地に立てた拳を強く握りしめた。


 「申し訳ありません。私が未熟なばかりに……」


 「顔をあげて、サレイド」


 冷たさも暖かさもない淡々とした声が、男性に緊張をもたらした。男性──人型をとったサレイドが面を上げる。その先には、再びこちらに背を向けた女性が一人。


 「────『四竜の卵(しりゅうのたまご)』が何者かによって奪われたわ」


 「な……っ!!」


 金の目がこれ以上なく大きく見開かれた。

 四竜の卵。

 それは、竜神族を構成する四つの種族が各種族からより力のある竜を選び出し、結びつけた結果に産み落とされた卵だ。

 四つの血を継いだ竜は、最凶かつ最強の力を秘める伝説の竜となる。


 その卵が、サレイドが留守にしていた間に消えたというのだ。


 「卵を守護していた者達は皆殺しにされていた。あれは、残忍な殺され方だったわ。けど、そんな事より問題は卵」


 部下の死を僅かたりとも惜しまない彼女は、冷淡な瞳でサレイドに命じた。


 「サレイド、もう一度チャンスを与えるわ。『四竜の卵』を取り返してきなさい。無事取り返せたら、【相沢 理香】の件はチャラにして、降格させないであげる。──わかったわね?」


 「────はっ!!」


 内心で、サレイドは深く安堵した。

 彼女はまだ優しい。【相沢 理香】の件で失態を犯しても、サレイドの降格は考えていたが────『死』を命じるつもりはなかったらしい。

 もし、これが彼女の兄だったら、自分は呆気なく殺されていただろう。

 たまたまこの場に彼女の兄がいないことに自分の運の良さを感じると、サレイドは踵を返した。






 「陽炎(かげろう)、出てきて」


 宮殿内に再び静けさが戻ると、女性──【月乙女】は夜の闇にそう呼びかけた。

 すると、何処からともなく陽炎と呼ばれた者が背後に現れた。


 「あなたに、お願い(・・・)したい事があるの」


 白を基準とし、薄緑の意匠が施された狩衣に長羽織を纏った長身の男。陽炎の名を持つ彼はその顔を白い布に隠しており、どんな顔をしているのか理解することができない。唯一分かるのは、彼の肩下まで伸ばされた銀髪が毛先にかけて赤くなっているということだ。

 彼女が彼に命令ではなく『お願い』と言った理由には訳がある。陽炎は、『何でも屋』。依頼(・・)しか受け付けない男。そして、依頼に見合った報酬がなければ動かない男だ。


 「………………」


 返答はない。

 だが、その代わりに彼の顔を覆う布地に、文字が現れた。


 「『報酬は?』……そうね───『秘伝の魔道書』はどう?」


 満足したらしい。


 「『依頼は?』……ああ、きっとあなたにとっては簡単なことよ」


 彼女の瞳が暗みを帯びた。


 「【相沢 理解】にこれを渡してきて」


 手渡された物、それを布越しに見つめる素ぶりを見せた陽炎はやがて、頷いた。


 月が欠け始める────





 ***







 「これ、着てみて!!」


 雪が静かに舞う中、期待に溢れた声が発せられた。


 「なにこれ……」


 手渡された物を見るなり、千夜は目を丸くした。それは朝緋と先刻出会った名無しの男の子も同じであった。二人とも、千夜のように理香から手渡された物を凝視している。


 「これは、私の時代にある『洋服』ていう服。あなた達が着ている着物、よく見たら雪で濡れていたから、この男の子の服を持ってくるのと一緒に引っ張り出してきたの」


 理香の説明に、千夜は手渡された洋服を広げた。漆黒の長袖シャツに白の長ズボンだ。


 「へぇ……初めて見る形だ。どうやって着ればいいのかな?」


 (こういう時、相手の育った時代が違うって困るよね……)


 同じ、時越えの勇者である朝緋も表情は相変わらずとも、青のワイシャツと黒のズボンを広げる手の動きから、戸惑いを感じた。

 二人に着方を教えると、そのまま他の部屋で着替えるよう促した。

 ふう、と一息ついた理香は視線を下に移した。


 「ほら、君も着替えよう?」


 着替えるのを躊躇っているらしい男の子の小さな背を優しく叩く。千夜と朝緋と一緒に着替えておいでと言う理香に、男の子は何度も首を横に振る。


 「お姉さんにきがえさせられたい……」


 「へ……?」


 意表を突く言葉に、思わず理香は目を見開いてしまった。

 男の子はもじもじと恥じらっているようだ。頰が微かに赤い。そして、それでいて蝋燭の火に照らされる金の目はどこか寂しげだった。


 (もしかして……)


 理香は、男の子と視線を合わせるようにその場にしゃがみ込むと、男の子の冷たい手を両手で包んだ。

 浮かべたのは、優しい笑み。


 「───分かった。お着替え、手伝ってあげる」


 男の子が嬉しそうに笑った。理香は、その笑顔を見て確信する。


 (やっぱり、寂しかったんだね)


 母親にここで待つよう言われた彼は、ずっと一人でこの寒い中母親を待っていた。どのくらい待たされているのか分からないが、理香達がここにやってくるまで孤独だったのだろう。それも、こんなに幼い。寂しくて当然だ。

 だから、人肌が恋しくなったのだろう。

 ほんの数日前まで理香も彼と同じ気持ちだったから、彼の気持ちがよく理解できた。


 「よし、じゃあ万歳してね」


 「うん……」


 理香は男の子の上衣を脱がせると、さっと代わりの長袖シャツを着せ、その上からある物を着せた。それは、ふわふわした白のポンチョ。


 「う〜ん、かわいい!よし、これもプラスしちゃえ!!」


 と、戸惑う男の子の頭に、猫耳カチューシャを付けた。


 (うん、完璧!!すっごくかわいい)


 もはや、理香の頭に彼が男の子だという認識はないのだろう。目が完全に可愛いものを見るものへと変わってしまっている。


 「理香〜、着替えたよ」


 「……」


 着替えた千夜と朝緋が部屋に戻ってくると、思わず、といった感じで理香は感嘆した。


 「美形は、ラフなファッションも格好良く着こなせるんだね……」


 「ん?なに?」


 不思議そうに瞬きする千夜に、理香はなんでもないよ、と笑った。

 二人は、平成の人達ではないはずなのに、不思議と洋服が似合っていた。日本人が持つ訳のない色素の髪が、日本人らしさを消してしまってるからなのかもしれない。

 ようふく、って着心地がいいねと呟く千夜に理香は苦笑する。


 「ごめん、本当はこの子みたいに保温性のあるコートとか貸してあげたかったけど、サイズが合うものがなかったから……悪いけど、それで我慢してね」


 そう謝ったが、千夜はこーと?さいず?と首を

傾げている。


 (そうだった……英語とか外来語とかこの人達には伝わらないんだった)


 こういう時、『コート』や『サイズ』を何と説明すればいいのか悩む。自分の語彙力の無さが悔やまれる瞬間だ。

 

 「……理香さん」


 うーん、と考え込んだ時だった。朝緋が、理香にアクアマリンの瞳を向けて来た。


 「どうしたの?」


 「……少し、外に出てきます」


 「へ?」


 突然の言葉だった。


 「何か用があるの?」


 「……気配を、感じるだけです」


 意味深に窓越しに雪が降る外を見つめる彼を、理香は怪訝に思った。気配とは、と尋ねようとした理香だったが、なぜか返答を避ける様に朝緋は素早く外へと出て行ってしまった。


 「どうしたんだろう……」


 「あー、やっぱり朝緋君も気づいちゃったんだ」


 「どういう事……?」


 不安そうに理香に抱きついてきた男の子を慰めると、理香は千夜に問いかけた。

 後頭部で腕を組んだ千夜は、意味ありげに微笑んだ。


 「感じるんだよね、外から。────俺たちの敵の気配を」


 理香は大きく目を見開いた。

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