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腹黒乙女と12の時代勇者様  作者: 朝月ゆき
【一章】 黄の乙女は始まりを知る
14/24

〜鎌倉の勇者様(5)〜


 最初から、好かれてるなんて思っていなかった。

 なぜなら、彼と出会ったのは今日が初めてで、お互いの素性もよく知れてないから。

 たった一日で友情や親愛が実るわけがない。


 だが、殺したいと言われた。


 そんな言葉を向けられたのは初めてだった。

 わざとあからさまにしている苛立ちと嫌悪を孕んだ目を向けられたのも。

 何もかもが初めてで。

 悲しいと思うより、まず、呆然としてしまった。


 (あーあ……)


 何でこんなに嫌われちゃったんだろう、とようやく戻ってきた思考が、なぜ自分が千夜に嫌われるはめになってしまったのかと原因を知り得るべく回想を促す。


 だが、あまりにも衝撃的な出来事が今日一日で多発してそちらに意識が行っていたせいか、彼に嫌われた理由となるものを記憶の渦から探し出すことが出来なかった。


 「何で、私を殺したくなったの?」


 人間、誰だって人に嫌われたくないものだ。

 他人に嫌われている事を気にしないようにしても、ふとした瞬間にやっぱり、気にしてしまう。

 特に、理香は負の感情を向けられる事を嫌う。


 だから、どうしてもそう尋ねずにはいられなかった。


 理由…?、と千夜が、とても恐ろしい事を言った本人とは思えない表情で小首を傾げた。


 「親の仇であるはずの敵に立ち向かう事も出来なくて、ちょっと脅しただけで怖気づいたからかなぁ?まあ、出会った時から震えて泣いてばっかりのつまらない女だなぁって思っていたんだけどね」


 つまり、出会った当初から理香に悪感情を抱いていたのか。

 そう理解した瞬間、心が凍りついた気がした。


 「でもね、竜たちと交戦になった時は君はちゃんと歯向かえていたから、あの時は好感を持てたんだよ?だけど、その後が残念だったね」


 そう言った千夜の漆黒の瞳に、暗い光がちらついた。


 (そんなに、私の事が嫌いなんだ……)


 ある意味すごいと思う。

 ここまで嫌われてしまうなんて。


 「そっか……」


 刃のような言葉を突き付けられ、知らず理香はそうこぼしていた。


 ああ、痛い。

 すごく辛い。

 とても悲しい。


 泣きたいほどに。


 でも。


 「……ふふふ」


 その濡れた笑い声が誰のものであったか。

 一瞬、その場にいた誰もが分からなかった。


 「ふふふ、そっか……」


 それが、理香のものだと気付いた千夜は急変した彼女を訝しげに見据え、理香…?と、反応を詰まらせた。


 「千夜、私の事がそんなに嫌いなら好きなだけ嫌えばいい。()はね」


 そこで言葉を区切り、理香はゆるりと立ち上がった。

 そして。

 人差し指を彼に向かって突き立てた。


 「でも、これから私は変わる!!逞しく、毅然とした態度をとれるようになる。冷静な判断ができるようになる。だからーー」


 理香は、暗闇に包まれるその場にふさわしくない、清々しいほどの笑みを浮かべた。


 「せいぜい今のうちに私の事を嫌っていなさい!!」


 千夜が呆気に取られたような顔になった。

 会話に介入することもなく、二人を完全無視とも言える態度で燃え盛る街並みを静観していた朝緋も、流し目を理香に送る。


 「は……?」


 初めて見た、意表を突かれたような顔。

 してやったり、と理香は悪戯めいた笑みを口許に刻んだ。


 「誰でも、人の一人や二人嫌いになるもんでしょ。だから、別に嫌われているって、泣いたって仕方ないでしょ。それに、確かに私はこの残酷な世界で一番ムカつかれそうな弱い性格をしている……」


 精神面にしても肉体面にしても自分は弱い。弱かったから、母親を守れなかった。親友を守れなかった。友達を守れなかった。


 自分だけが生き残った。


 それが、どんなに重い罪なのか。

 当事者である自分が一番分かっている。


 だから、永遠に胸に残り続けるだろう狂おしい罪悪感を心の奥底に納めて、彼らを決して忘れないようにする。


 それが、今の自分に出来る最大限の償い。


 でも。


 これからは。


 「残酷でこの世界で生きて、奴らと戦っていけるよう、強くなる!!」


 だから、この痛哭を。

 今は封じよう。


 「……ふ」


 彼女の宣言を聴いた千夜が、角ばった右手を顔面に当てた。

 そして。


 「ふふ……ははははははははっ!!」


 突如、面白いと言わんばかりに笑い声を上げた。

 理香を見据えたその目は愉しそうで。


 「理香、君はやっぱり面白いなあ!失望はしても、見捨てなくてよかったよ」


 今度は理香が虚を突かれ、息を呑む。


 「それでこそ、俺の主だ」


 そう言って灰色の髪を掻き上げ、千夜はどこか嗜虐的な笑みを浮かべた。


 「いいよ、俺が君を強くしてあげる。そして、俺を愉しませてよ、理香」


 近寄ってきた千夜が甘さを含ませた声でそう、呟いた。


 理香は思った。


 ああ、彼は妖艶な悪魔のようだと。



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