腕時計の奇跡
久しぶりに書いて見ました。
よろしければ最後までご覧ください。
僕の名前は阿部和樹。ごく平凡な高校生活を送る予定だった男。
「それでは4月15日の朝礼を始めるぞー」
今日は4月15日。先生が言うのだから間違いない。でも万が一という可能性もあるので、一応周囲を見渡してみる。
朝の当番が黒板に書いた日付、携帯、サイドボードに掛けてあるカレンダーなど、自分の席から日付を確認し、今日が4月15日であることを確認できた。
何故こんなに今日の日付を確認するのか。
皆にとっては高校1年生最初の4月15日だろうけど、俺にとっては『10回目』の4月15日だからだ。
普通の人なら、このループ地獄から脱出したいに思うだろう。だが俺は違う。この日をループしているのは偶然なんかじゃない。自ら起こしているから必然というべきか。
キーとなるアイテムはこの左腕にしてある古びた腕時計。
この腕時計は、訳ありの骨董品の収集をしているお爺ちゃんが高校の入学祝にとくれたもの。
訳ありというのは『若返り薬』『未来が見える鏡』『水が酒に変わる壷』など、都市伝説に出てくるようなものばかり。そして、この腕時計は『時が戻る腕時計』
お爺ちゃんから時計を貰った時に「くれぐれも時間を無闇に戻すでないぞ」と言われたのを覚えている。
あの時はまさか、こんなとんでも機能が付いてるなんて夢にも思っていなかったが、同じ日を3回繰り返したんだ。これはもう"本物"と断言していいだろう。
先生が両手でパンッと鳴らし、皆の視線を集めた。
「注目! これから授業始まる前に席替えするからなー。まだ入学したばっかだし、最初はクジで決めるからな。不満は言うなよ」
先生は教壇の下から黒い箱を取り出した。
「全員引いたら番号の入った席図を貼るから、とりあえず出席番号準に引きに来い。まずは安部からだな」
俺は席を立ち、黒い箱に手を入れた。
神様。どうか俺を"若宮理沙"の横にしてください。その為なら、何回でも何百回でもこの日をやり直します。
心の中で何回も唱えながら引いた番号は1番だった。
「おー。出席番号1番の奴が1番を引くなんて持ってるじゃないか。でも、1番だからといって廊下側の1番前とは限らないからな」
席に戻り、引いた番号を見つめた。
同じ日を繰り返しているのに2つ疑問がある。
何故か引く番号がいつも違うこと。もう一つは、黒板に貼り出される番号の入った座席図の番号も毎回違うこと。
この2つさえ毎回同じなら、俺が何回もこの日をループする必要なんてないのに……。と思っていると、クジの1番最後である若宮理沙の番が来ていた。
俺は、幼稚園の頃に大失恋をした経験を今まで引きずっており、恋人なんて作ろうとも思わなかったし、好きになることもなかった。そんな俺でも、入学早々に若宮理沙に一目惚れをしたという事実に自分でも驚いている。
若宮理沙が引き終わり、先生が教壇の下に隠していた座席表を黒板に貼り付けた。
「2学期も席替えをやる予定だが、とりあえずはこの席で1学期を過ごせよ。では、移動開始!」
俺の席は……廊下側の1番前。つまり席が替わっていないということになるが、俺の席なんてどこでもいい。肝心なのは隣の席である25番を持っている人が誰なのかということだけ。
古びた腕時計を見ながら若宮理沙が隣にくることを願った。
「よろしくね!」
俺も挨拶をする。
「こちらこそ、よろしく」
目に入ったのは、屈託の無い笑顔を見せる若宮理沙だった。
「えっ……」
思わず声を漏らしてしまう。
「ん? どうかした?」
「べ、別になんでもない」
「もしかして、私が横に来たら嫌だった?」
悲しげな表情を見せる若宮理沙。
「そんなわけないじゃん!」と俺は全力で否定した。
「なら良かった」
彼女の笑顔を見ると、今までの精神的な疲労がすべて吹き飛んだ。声に出したい気持ちを胸にしまい込み、これからの事を考えていた。
「はぁ~。やっと終わった~」
若宮理沙も何か疲れている様子だったので声をかけた。
「疲れてるみたいだったけど、そんなに席の移動が大変だった?」
「違うよ。実はここだけの話なんだけど……」
彼女の顔が耳元にきたので思わず緊張した。
「私、和樹君の横になるために、この日を何回もやり直しているの」
「えっ?」
「驚いたでしょ? 信じるも信じないのも貴方次第!」
某名探偵が犯人を指差すように、彼女は俺に指を向けてきた。
チラリと視界に入った彼女の腕時計は、俺がつけている腕時計と瓜二つの古びた腕時計をしていた。
読んでいただきありがとうございます。
評価頂けると喜びます!