赤の世界Ⅱ
『神様?それはどういうことだねガーボン。説明したまえ』
『えっと、白蛇や白狐などその類いのカミサマは全て白いです。しかも、目が赤い。この白髪さんもそうです。なので僕はカミサマなのではないかと…』
そうガーボンが言うと、皆が一斉にどっと笑いだす。
すると笑いながらダルマンが口を開く。
『ガーボン、それはないだろう。だって我ら人間が一番偉いのだからな。それともなんだ、お前は神とやらを信じているのか?』
ダルマンのその言葉には、明らかに嘲りが混じっていた。
ガーボンは恥ずかしさのあまり顔を林檎のように赤くし、伏せている。
(これが…人間?こんなのが、私と同じ人間なの?)
(醜い。醜すぎて目も当てられない。)
同じ種族のことをいつまでもゲラゲラ笑っている様子は、見るにも耐えなかった。
出来れば目を閉じ、そのまま暗闇へと逃げてしまいたかった。
でも、私は。
この現実から逃げたりなんかしない。
「……貴方たちは」
「同じ人間を嘲笑するのがそんなに楽しい?」
しん、と静まり返る人々。
「醜い。今の貴方たちの様子はこの一言で済む。」
「ゲラゲラ、ゲラゲラといつまでも下品に笑って。貴方たちの口は、嘲笑するためだけにあるの?」
私がいい終えるとダルマンが顔を怒りで真っ赤にしながら叫ぶ。
『え、えぇい黙れ! 侮辱だ、お前は取り返しのつかない言葉を口にした! 人間様を敵に回した! 死刑だ、死刑にしてやる!』
ダルマンがそう言うと、先程まで静かだった人々がまた騒ぎだす。『死刑にしろ』『いやそれだけでは足りぬ、拷問をしろ』。中にはそんな言葉も混じっていた。
――あーあ、やっちゃったね。
ふと、そんな言葉を耳にする。この声は確か、暗闇の中で聞こえていた声だ。
(…なぜここに貴方が?)
――まぁ、それは置いておこうか。どうするの?赤の人間は、君のことを殺そうとしているけど。
(そうね。でも私を殺して何になるの?)
――それは、人間によくある一種の気休めさ。気にすることないよ。
(そうだ、私は…殺されたらどうすれば?)
――大丈夫。君は殺されても死なない、不老不死さ。けど…
(けど?)
――あぁいや、何でもないよ。それより何か聞こえないかい?
確かに、本当に小さくだけども聞こえる。沢山の音。不吉な、音。
ヒュルルルルという音がだんだん大きくなり、音が鮮明に聞こえたのと同時に地面は激しく揺れ、赤の世界は真っ二つに割れる。
私の意識はそこで途絶えた。
最後に見えたのは赤い空に点々と浮かぶ、黄色い戦闘機と、
真っ赤な、血。
――赤い世界は傲慢過ぎた。
――なにもかも、自分達のものにしようとしたのだ。
故に滅びた。
あぁなんて、悲しい結末なんだ。