4話
タカミたちのギルド入りの話です。
どうぞ。
「えー!?ら、乱入!?」
「そ、乱入。」
謎の大型魔物に襲われ、必死の逃走の後になんだかわからないが助かったのは一昨日のことだ。
リトルハーブから林までは、馬車で一日もかからないが、
大型魔物に遭遇したエミが信号銃を落としてしまったため、
ギルドの馬車を呼べず、クエスト期間を過ぎても戻らない俺たちの様子を見に来た馬車が来て、やっと帰ってこれたというわけだ。
すぐにララの所に来なかったのは、
クエスト受付とは別の場所で、
警告もなかったのに乱入されたことに対する謝罪等を受けていたのと、
疲れたので宿でゴロゴロしていたというので、二日間潰したからである。
無論、俺はゴロゴロしていただけでなく、
レストラン『マッシュー』に
『キノコステーキのキノコソースがけキノコのソテーを添えて』
を食べに行ったぞ?
そんなこんなで、今日はララに報告に来た訳だが…
「なんで乱入なんてするの!?
そんな報告受けてないわよ!
大体、ギルドの探索班は何をやっているの?
たとえ不確かな情報でも無下にはできん!
って、いつも言ってたのはあなたたちじゃないの!」
と、めんどくさいことになっている。
さらに、
「そーよそーよ!
大型魔物がいるっていうのは噂になってたんだから、
いったいぜんたいどうして調査に行かないわけ?」
「だから言っておいたのに…」
と、ララの二人の姉、リリとルルが会話に加わってきて、
俺は諦めて三人の会話を見ていることしかできなかった。
ちなみに、立ち去るという選択肢は、この三人の前では消滅する。
「なになに?ルルまた探索班に物申したの?」
「別に物申した訳じゃ…
ただ…………」
「「ただ?」」
「…し…進言しただけ…」
「ふぅん…」
と、リリはにやけながら言う。
会話が盛り上がっていたが、ここで…
「すいませぇん…」
という、とてもいや、とてつもなく小さな声が会話を終わらせてくれた。
(これで俺もようやく解放される!)
と、俺は喜びに満ち溢れた。
ちなみに、その声の主はというと…
「あの…クエストを…」
「あ、すいません!」
どうやら、俺と同じ下級の魔狩者のようだ。
「じゃあ、俺はそろそろ。」
「あ、うん、またね!」
俺はララと別れ、およそ一年ほど前のことを思い出していた。
およそ一年ほど前のこと。
俺たちがまだ、さっきの少年くらいの頃だ。
俺たちは、今滞在している町『リトルハーブ』へとやってきた。
リトルハーブという名前の由来は、
この町の周辺には、多くの種類のハーブが生息していることと、
そのハーブの大半が、葉の小さな種類であることから来ている。
それらのハーブは、このリトルハーブの名産だ。
で、俺たちはそのリトルハーブに、
ギルド入りをするためにやってきた。
その前にも、『ドーガ』という火山の町に行ったが、
相手にされなかった。
何故かというのは、俺たちがまだ10才にもいかない子供であったというのもあるが、もっとも大きな理由がある。
それは…長くなるので、今はやめておこう。
で、相手にされなかった俺たちはリトルハーブへ向かった。
ドーガの回りにも他に町や村があったが、
ドーガと同様の理由で、訪れることを諦めた。
で、3年ほどかけてリトルハーブにたどり着いた。
そんなに距離はないが、魔物が彷徨く場所を子供だけで横断するのは危険だったため、慎重に安全確認をしながら進んだため、時間がかかってしまった。
そして、リトルハーブへたどり着いた俺たちはというと、
それまでの3年で溜め込んだ金銭で宿を借り、その翌日にギルドへ向かった。
「えっとえっと、ギルドの登録だよね?」
「はい」
「あぁ!」
「はぃ…」
「じゃあじゃあ、この書類に…って、字読める?」
「えっと…」
「じゃあ、あたしが読んだげる!」
「へ?」
「あ、ララ!仕事はどうしたの!」
「平気平気!今食堂は空いてて、人手は足りてるから!
それで、書類は?」
「まったくまったく、しょうがないんだから。これよ。」
「えっと…」
「それじゃあそれじゃあ、登録事項の確認をするね?
まず、タカミくん。
人族で、両手剣使い。」
「あってます」
と、確認に対して返事を返す。
「次に次に、エミちゃんは、人族で。
武器は投合槍。」
「…」
このころは引っ込み思案だったエミは、俺の影に隠れて無言で頷く。
「最後に最後に、ユウキくんは、人族の大剣。
これで大丈夫?」
「おう!」
ユウキは昔から元気が良い。
このように、ララに助けて貰って、無事に登録を済ませることが出来た。
それから、登録を済ませ、リリがどこかへ行ったときに、
「本当は聞いちゃいけないんだけど、どうしてギルドに入ったの?」
と、ひそひそ声で聞いてきた。
タカミ「予想は付くと思うけど、俺たちは孤児なんだ。
だから、生きていくためにはギルドに入るしかなかった。」
この世界で、孤児がギルドに登録して職を得ることは珍しくないため、
そこは驚かなかったようだ。
「でも、魔狩者じゃなくても…」
タカミ「それは…」
「子供だからって、誰も相手にしてくれなかったから…」
「!?」
俺はこのとき驚いた。
他人の前じゃあ滅多に喋らないエミが、ララの質問に答えたのだ。
「そうだったんだ…
ともかく、これからよろしくね!」
「よろしく…」
「よろしくな!」
「あぁ、よろしくな」
思えば、この日を境にエミは変わったかもしれない。
それも良い方に。
そんな昔のことを思い出しながら、俺は帰路についた。
「…」
そんな俺を、興味深げに見る視線には気づかなかった。