特別編(大晦日~正月編)
投稿ミスによって、1日遅れてしまいましたが、特別編です。
ストック貯まってきたので、書かせていただきました。
あぁ、掃除なんてつまんねぇ!
「ほら!タカミも手伝いなさいよ!」
「うるせーな、掃除なんてやりたくねーよっと!」
腰を下ろしていた手すりから飛び降り、どこかで遊んでいようと走る。
大晦日、どこの町でも家でも店でも大掃除を行い、新年を迎える準備をする。
この教会も例外ではなく、今まさにここに住む子供たちが大掃除を行っている最中だ。
「こら、どこ行くのよ、待ちなさい!」
エミが追いかけてくるが、駆けっこはみんなのなかで一番速い俺に追い付けるわけないもんな!
「これるもんなら追い付いてみろ~!わはは~!」
そうだ!
今は親父も姉ちゃんもいないし、外に出てみるか!
「タカミ!外に出ちゃいけないって言われたでしょ!」
「大丈夫大丈夫!ちょっとくらい平気だよ!」
「ちょっと、タカミ待ってよ!」
そうして、俺とエミは、外に出てはいけないという言い付けをやぶり、外に遊びに行ったのだった。
「ねぇ、もう帰ろうよ…」
「なんだよ、冒険みたいで楽しいじゃん」
「でも、お姉ちゃん言ってたよ?
『そとにはこわーい魔物がいっぱいるから、絶対に勝手に出ちゃ駄目だよ』って」
「だから大丈夫だって。
ちゃんとナイフ持ってきたし、エミだって昨日『ヒート』の魔法使えるようになったんだろ?」
「でも…」
「そんなに言うなら、一人で帰れば良いじゃんかよ」
「や、やだよそんなの!
ひ、一人じゃ怖いよ…」
「まったく…じゃあちゃんと着いてこいよ?」
「うん…」
ガサッ
「「へ?」」
二人揃って、音のした方を向く。
そこには…
「グルルル…」
「あれって…」
「し、声を出すな…
あれは確かキルドッグだ…
刺激しないように静かに離れよう…」
「う、うん…」
そうして、ゆっくりと静かに、キルドッグから目を離さないように後退りをする。
ゆっくり…ゆっくり…ゆっくり……
……パキッ
「あ…」
エミが声を出す。
そんなエミの足のしたには、踏まれて折れた枝があった。
「ガウ!!」
「何やってんだよエミ!」
「ご、ごめん!」
こうして、キルドッグから脱兎のごとく逃げ出した俺たちだったが…
「ここどこ?」
「うちから大分離れちゃったな…」
「私達帰れるの?」
「…」
「ねえ、タカミ。
私達迷子になっちゃったの?」
「うるせぇな!エミが枝を踏んだりしなければ迷子になんてなんなかったよ!」
「そ、そんなこと言ったって、怖くて足下なんて見れなかったもん!
もとはといえば、タカミが外に出たのが始まりでしょ!」
「着いてこなきゃよかったじゃん!」
「それはタカミが言い付けを破ろうとするから!」
「なんだよ!結局俺のせいなのかよ!」
「だってそうでしょ!タカミはいつもそうやって勝手なことして…」
「「「「グルルルゥゥ…」」」」
「「え?」」
「キ、キルドッグ…」
「それも、いっぱいいる…」
「と、とにかく、戦って、隙をついて逃げよう…」
「う、うん…」
俺は持ってきたナイフを
エミはヒートの詠唱を一単語ずつなぞるように唱え始める。
ヒートは、火属性の現象をメインとする魔法の基本の基本で、手のひらの上に小さな火種を作ったり、風属性を混ぜて温風を発生させたりする魔法だ。
「……!ヒート!」
詠唱を終えたエミは、手のひらの上に火種を作り、それをキルドッグの方へ投げる。
その火種が顔に当たったキルドッグは、驚いて逃げていった。
「ようし、俺も!」
エミに負けじと、ナイフを降りながら近づき、威嚇してキルドッグを追い払う。
そんなこんなで、半数ほど気絶または逃がしたころ。
エミは、消費が消費でないと言われるほどのヒートを使い続け、幼い体に見あった少ない魔力が底をつき、
疲労もたまっていた、
タカミは、ナイフ振り回し続けていたことで、腕に力が入らなくなっていた。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ…ふぅ…」
腕が疲れてきたな…
このままじゃやられちゃうよ…
どうすれば…
どうしよう…もうヒートも使えなくなっちゃった…
体もだるいし…
そんな思考を描いていたとき、一体のキルドッグの頭が体と分離した。
二人がそちらを見ると、背の高い男が立っていた。
「大丈夫か坊主ども…」
青髪の彼は両手に長いとも短いとも言えない中くらいの長さの剣を構えていた。
その剣は、刃が青く光、柄には黒い鱗が張ってあり、なにか気のような物が感じられる。
「ほら坊主、そのナイフはもうボロボロだ。
こいつを使いな…」
そう言って、その彼がタカミに渡したのは、彼の持つものとは違う、鉄製の刃に柄。
その柄には布という、なんともシンプルな1対の剣だった。
「ありふれた両手剣だが、お前には充分だろう」
「両手剣?」
「そうだ。
両手に持ち、舞うように切る素早さ命の武器だ。
見た感じ、速さはありそうだ」
両手剣…素早さ命か…
上等だ、やってやるよ!
「さて、そっちのお嬢ちゃんにはこれだ」
彼がエミに渡したのは、液体の入った小瓶だ。
「マジックポーションSだ
子供の魔力ぐらいなら回復仕切れるはずだ。
その魔力でこいつら追い払え」
なんだかわかんないけど…
えい!
マジックポーションSを飲み干し、再びヒートの詠唱を開始する。
数分後。
キルドッグは数体を残して逃げ出した。
その数体は、突如現れた男によって、首と胴体がまっ二つだったが。
「さて、お前らこの辺に住んでるのか?
送ってやるから案内しろ」
「あ、あぁ、近くの教会に…」
「…」
「教会…そうか…」
エミはタカミの後ろに隠れてしまっている。
よって、タカミが案内するのだが、歩き始めるとエミはタカミの腕にしがみついていた。
「いい加減他人になれろよエミ」
「で、でも…」
「人には慣れた方がいい。
大人になったら困るぞ…
俺のように冒険者になったとしても、ギルドの人間との付き合いがある。
最低でも、話せるようにはなれ」
「だってさ」
「うぅ…」
「まぁ、無理に話そうとしなくていい。
じきにな」
「そういえば、さっき借りた武器…両手剣だっけ?返すよ」
「それなら構わん、持っていけ。
俺にはこっちのがあるし、坊主には両手剣があってそうだ。
将来冒険者や魔狩者になるなら、両手剣を使うといい」
「魔狩者かぁ…」
「さて、見えてきたな。
あれがお前らの住む教会か?」
「そうか、じゃあ、俺はここで別れることにするよ」
「あの…」
「ん?」
「えっと…ありがとうございます…」
「サンキューな!」
「なに、気にするな…昔の俺を見てるみたいでおもしろかった…
じゃあな」
気づいたら夜も開けていた。
帰りついた俺たちは、他の皆の笑うなか、シスターの姉ちゃんにこってり絞られたのだった。