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07


「リンクが完了致しました。ゆっくりと目を開いてください」


 聞き覚えのある合成音。ゆっくりと目を開くと、見覚えのある妖精が目の前で浮遊していた。

 妖精が嘲るように両手と肩を上げる。眉を吊り上げ、残念そうに首を左右に振った。


「ああ、焔様。死んでしまうとは情けない」


 どこかで聞き覚えのある台詞に焔が眉を顰める。


「あれれぇ?お気に召されなかったですか?では次からは違う台詞をご用意しておきます」


 妖精が体を少し斜めに捻って人差し指を立てた状態で腕を突き出し、軽くウィンクする。

 焔の眉が更に顰まり、眉間に強い皺が出来た。


「お前って、そんなキャラ設定だったの?」

「いえいえいえ、焔様のゲームプレイ中の脳波を読み取って、焔様にとって理想のキャラ設定に自動で構成されていくんですぅ」

「ほう。それが俺の理想の設定だと?」

「あれれぇ?お気に召されませんでした?」


 妖精が腕を組んで肩肘を立て、人差し指で顎を触りつつ、上半身をゆらゆらと揺らす。

 しばらく体を揺らめかせた後、目を数回瞬かせ、思い立ったように手のひらを合わせて音を立てた。


「ま、いいじゃないですか」


「よくねぇよ!」


 間髪入れずに焔が合いの手を入れる。


 妖精が頬を膨らませて俯き、その不機嫌さを顕にする。


「わかりましたぁー!次はもっと萌えっぽく。ロリっぽくしておきますぅー」

「ちょぉおおおおッ!!違うからっ!そっち方向じゃないから!」


 にまーっとした、あくどい笑みを妖精が浮かべる。


「むふふ。今の脳波。ゲットですぅ」


 やられた。何がやられたのか解らないけど……。やられた。



 目を点にさせて硬直している焔を、妖精はニヤけ眼で見つめる。


「でも、焔様。気をつけて下さいね。ライフポイントは後5ですよー」


 妖精の言葉に、焔は我を取り戻す。少しの間を置き、疑問を投げかけた。


「ライフポイントが0になったら……。具体的にどうなるの?」

「ゲームにログインできなくなります。飲料や食料はゲーム内でのみ購入出来ますので、オブラートに言えば、そのまま餓死ですねぇ」

「それは……オブラートに言ってるの?」


 妖精が目を丸くし、大げさに驚いた様な仕草を取る。


「ええっ!焔様、餓死に至るまでの詳しい経緯を知りたいのでしょうかっ!?とても残酷で、とても辛く、とてもとても長い話になりますが、焔様がそこまで言うのであれば、データベースからあらゆる情報を引っ張り出してお話致しましょうっ!」

「ごめん!俺が悪かった!」


 言葉だけで謝りながら、焔は思考を巡らす。


 餓死……か。水なら風呂場の水を飲めるだろうし、何も食べずに人間ってどれくらい生きていられるのだろうか。

「大体1~2ヶ月程度だと思われますよぉ」

 1~2ヶ月か。と、いう事は、ライフポイントが0になっても直ぐに死んでしまう訳では無く、その猶予の間に誰かがクリアすれば助かるって事なのか?

「誰かというよりは、どの勢力が。ってほうが正しいですが、概ねそうですねぇ」

 で、あれば。最後に制圧する領土は、殲滅とほぼ同時期に制圧が完了するから、その領土の人間も助かる……って事なのか?

「残念ながら、ロックが解除されるのは全領土を制圧した領民だけなんですぅ」

 くそッ……何とか。何とかならないのかッ!


 …………あれ?

「思考……読んだりできるの?」


 誇らしげに、妖精が胸を張る。「読めるのは簡単な事だけですけどね!」と、言葉を述べながら。


「…………」

「…………」


「そろそろ……。行ってもいい?」

「了解致しました!焔様が現在出られる場所は”大広場”と”篝火前”ですが、どちらに致しましょう?」

「じゃあ――」


 言葉を一度切る。


「篝火前で」


「了解致しました!焔様。どうかお気をつけて」


 溢れる光と共に道が現れる。

 光の指し示す先に、ゆっくりと歩みを進めた。


「ああ、そうだ!焔様!お洋服はサービスで直しておきましたので!」


 そういえば、と。焔は自身の服装に視線を移す。

 シャツの胸部分を鷲掴み、目を瞑る。微かに、確かに、姉の温もりを感じた。


 光の中に飛び込むように身を投げ出す。


 轟々とした炎が燃え盛る音と共に、熱気が体を炙る。

 篝火を中心に茜色に染まる中、中央に黒い人影が、太陽の黒点の様に存在した。


「よう、兄ちゃん。待ってたで」


 篝火の光が逆光となり、表情や仕草は読み取れない。しかし、その言葉には、重く、深い憤りと怒りを感じさせられる。


「ここは熱くてかなわん。ちょいっと、あっちまで来てもらおうか」



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