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プロローグ


 幾重にも重なった葉が深緑の天井と成り、日の光を覆い隠す。

 巨人の如き樹木、人のように影を成す草々。それらが鬱蒼と生い茂る中、複数の人の塊が駆け抜ける。

 闇と静寂が支配する森の中。草木を掻き分け、踏み鳴らす音が静かにこだまする。

 森を侵食するように。人の塊は黒い影と成り、木々をすり抜け走り続ける。勢いを落とす事無く、ただ、前に。

 深緑の天井から零れ落ちる僅かな光りの雫だけが、その存在を微かに照らす。


「二番隊、三番隊、左右に展開。四・六番隊は俺の部隊を援護、五番隊は後方から支援を続けろ!」


 先頭を走る塊の中央で、一人の少年が発する怒声にも似た声が、森の静寂さを破壊するように響き渡る。

 少年の発した言葉が他の塊を形成している個々の耳に入ると同時に、二つの大きな塊が左右に散る。


「もう少しで首都だ。気を抜くなよ」


 前方を見つめる少年の目が険しくなった。


「――ッ。……やはり。易々と行かせて貰えないか」


 少年の前方。木々のざわめきと、多数の人が駆ける足音が鳴り響く。


「四・六番隊は一番隊、五番隊は三番隊に合流せよ。ここは、俺が引き受ける」


 一つの塊を残し、残りの塊が四散する。

 その動きに合わせ、前方で鳴り響く音が大きく広がる。


「流石に対応はしてくるか。一番隊、前方の敵隊に突撃するぞ」


 残された塊が、進む速度を加速させる。


 前方に点在する人の影。腰に差した剣の柄に手を当てる。激突の瞬間。それは、起こった。


 空気が揺らぐ。おぼろげな、陽炎の様な。

 一筋の光が走る。直後、大きな炎が渦を巻き、辺り一面に広がる。

 木々が軋めく悲鳴を上げ、その身を巨大な炬火へと変貌させる。

 幾多もの光源が照らし出す中、草を踏む音が小さく鳴る。一つの人影。炬火に照らされ、姿を現す。


 炎の揺らぎにより、その身に纏う陰影を揺らがせ、男は佇む。


 少年が剣の抜き、男が剣を抜く。


「炎――か」


 遥か後方より、限界に達した一本の樹が最後の雄たけびを上げ、崩れ落ちる。

 大地が微かに揺れる。二つの、大地を蹴る小さな音が響く。




 どれくらいの時間が経ったのだろうか。数秒。数分。数時間。

 幾多の打ち合い、応撃を繰り返し、最後に残された二人は、終わりが近い事を悟っていた。


 少年が剣を握る手に力を込める。刀身が淡く光り、噴出すように炎が現れる。炎は次第に大きさを増し、瞬く間に少年の全身を包み込む。


「――まさか、貴様だったとはな」


 最後の一撃。


 大きく一歩を踏み出す。大地を蹴る力を徐々に強め、速度を速める。

 応じるように、男も動いた。


 二つの剣が描く光の軌跡が交差し、甲高い金属の衝突音が鳴り響く。


 ――少年の持つ剣が衝突部分から砕けるように折れ、刀身が空を舞う。

 大地を裂く微かな音と共に、刀身が大地に突き刺さった。


 呆然とする少年の目前で、男が剣を構え直し、その剣を――振り下ろした。


 一本の矢が、緑色の残光を残し、少年と男の間に割り込む。


 矢の軌道を目で辿る。一人の少女が、樹の枝の上に佇んでいた。奇麗な小麦色の髪を熱風に靡かせ、弓を構えながら。

 少女が二本目の矢を番え、弓を引き絞った。鏃の先を、男に向けて。

 緑色の光が少女の周りに螺旋状に発生し、風を纏うように弓に集約する。

 その様を凝視する男の表情が驚愕に満ちてゆく。



「さよなら。私は、まだ死ぬ訳にはいかないの」



 少女の透き通るような奇麗な声が空気を伝う。とても奇麗で、とても冷たい声が。


 ――矢が空気を裂く奇麗な音が響く。


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