四、裏事情
まほこと美華が帰った後、青田は元木から一発殴られた。
殴られた理由が分からず元木を睨むが、坂下の呆れた視線は元木ではなく青田に向けられていた。
「お前、馬鹿じゃねえの?何で高澤の名前を挙げんの」
「は?」
元木が言っているのはゲストとなる女子を決めた時の事。
相変わらす訳が分からないといった青田に今度は坂下が頭を軽く殴る。
「馬鹿野郎。お前は福田が好きなんだろ。他の女子の名前言ってどうすんだ」
そもそもこの企画が出来たのは青田のまほこへの片想いからだった。
高一の頃からまほこに片想いをしている青田。元木と坂下は事あるごとに青田から相談を受けていた。割と真剣にアドバイスなどしていたつもりだが、状況は一年前から全く変わっていない。原因の一つとして、まほこが色恋沙汰にあまり興味がないという事がある。
そこで元木が考えたのが今回の企画。
もちろん青田のためだけにするわけじゃない。元木は周りからも有名なプレイボーイで、本人もそれは認めている。相手を惚れさせたら勝ちの企画、元木自身も楽しめる。
この企画を二人に話した時、青田はすぐに食い付いて来た。ただ、まほこには手を出すなと言われたがそれではつまらないので、元木は自慢の饒舌を活かしうまく丸め込んだ。
坂下はあまり乗り気ではなかったものの、結局参加している。それに、本人は否定しているが坂下も元木に負けないくらいプレイボーイだと言われているから、結構この企画は楽しいだろう。
そんな裏事情にも関わらず、青田はまほこ本人の前で沙衣の名前を挙げた。
「だってさ、高澤とまほこってタイプ似てねぇ?冷たい所とか、美人なとことか。間接的に、まほこが好みって事伝わるかもしんねぇじゃん!」
「女子はそういうの嬉しくねぇの。しかも福田と高澤は別だろ」
元木は失敗に全く気づいていない青田をもう一度叩きたくなった。
「それよりもよ、俺は福田が沖田の名前を挙げた事の方が問題だと思うぜ」
坂下が口を開いた。
沖田と言えば、がり勉でもないのに成績が良くて、話しも面白くて、誰にでも優しい、正に好青年だ。青田や元木達とは似ても似つかない。
「もし福田のタイプがああいう奴なら、可能性ないんじゃねぇか?」
「・・・確かに?俺達とは間逆のタイプだからなー沖田は」
元木はまほこが沖田と言った時に少しだけイラッとした。別に沖田が嫌いな訳ではないのに。
「でもさ、でもさ。まほこも不良じゃん?沖田とは合わないって。てか、そうじゃなきゃ俺泣くよ?」
内心相当のショックを受けた様子の青田。確かに片想いしている子のタイプが自分と間逆だったら、辛いものがあるだろう。
「つーか、タイプとかの前に青田はもっとしっかりした方が良いんじゃねぇか?」
「無理っしょ?青田だし」
「・・・泣くよ?」
企画の隠された裏事情。そして裏には裏がある。