一、たいくつ
福田まほこは片手にケータイを弄りながら、家に向かって歩いていた。ケータイを弄る目的は特になく、何となく画像を見たり、メールを読み返したりしている。決してその行為が楽しい訳ではなく、単なる暇つぶしだ。
(あー。暇)
待ち受けの画像でも変えようかと色々見ていると、画面がメール受信中に変わった。定額制ではないので、まほこは急いで通信を切る。(誰だろう?)そう思いながら受信のフォルダを開く。
[受信 青田 芯]
青田芯。何でか良く分からないけど高一から結構仲が良い男子。今は高二の五月だからもう一年以上の付き合いだ。青田との関係を言葉にしたら「悪友」が一番当たっていると思う。
青田は顔や雰囲気は格好良いのだが馬鹿だ。大した事じゃないだろうと思いながらボタンを押す。
[暇だろ〜?]
青田らしい遠慮のない文書だ。
[は?]
それだけ打って、送信する。二分も経たない内に返事が来た。
[今、元木と坂下といんだけど、俺達も暇なんだよな〜]
元木拓也と坂下亮。青田とよく一緒にいる男子で、クラスを不良と好青年の二つに分けたら間違いなく不良の分類に入るような奴ら。もちろんそんな二人とつるんでいる青田も不良組だ。まほこ自身もそうなので、それは別に気にならない。
見た目は格好良いし、坂下なんかは結構まほこの好みのタイプに当てはまる。しかし、二人ともプレイボーイで有名だ。
受信したメールを読みながら歩いていると家についた。一旦ケータイを閉じて鞄にしまう。インターホンを押すと母親がドアを開けてくれた。「ただいま」「おかえり」とだけ言葉を交わすとまほこは自分の部屋に向かった。
メールの返事をするか、先に制服から着替えるか少し迷った末、ケータイを弄る。
[ふうん。それで?]
暇なら勉強しろよ、と思った。元木と坂下はまあまあの成績だけど、青田は相当酷い。まほこ自身は平均を少し超える程度。成績が悪いと親が色々うるさくなって面倒くさい。平均を超えている今は多少帰りが遅くなっても何も言われないので楽だ。
着替え終わらない内にまたケータイが鳴る。通信だけ切って、メールは読まずに着替えを済ませる。今日は土曜日で午前授業だった。もしかしたらこれから出掛けるかもしれないので、ジーンズを履き、お洒落なTシャツに軽いパーカーを羽織った。ケータイを開く。
[なぁなぁ。面白い企画あんだけど、参加しねぇ?]
面白い企画。あの三人が集まって出来た企画。一般的に見て下らない企画だと言うことは間違いないだろう。関わるだけ時間の無駄なような事かもしれない。
(・・・だけど)
[良いよ。詳しい事教えて]
何となく退屈な日常。その中で与えられた暇つぶし。それを断る訳がない。