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僕らのきずあと

作者: 九条 隼
掲載日:2010/07/14

「あー、今日から1-9で生活する転入生を紹介する」

 気だるげに言った教師に、少数の生徒たちは前を見て首をかしげた。

 白衣を身に付けている教師は見慣れているものの、隣にいるニコニコと笑っている少女はなんだか懐かしいものだったのだ。唇で綺麗に弧をえがいているのは不快ではなく、むしろ好印象。長い黒髪とかわいらしい顔立ち。ピンポイントとされているかのような真っ赤の瞳はまるで血のよう――


「佐伯秋雨さんだー。小学校の低学年までここに住んでいたらしいから知ってる奴もいるかもしれないが、家庭の事情で外国にいた。昔住んでいたとはいえ変化が激しいからな、親切にしてやれよー」

――さえき、あきさめ?

 彼らは小さく呟くと一瞬硬直し、驚愕した。

 秋雨という珍しい名を持つ彼女――佐伯秋雨といえば無表情、無頓着、そんな言葉ばかりが思い起こされる。常につまらなそうな顔に加え、何事にも物を外から面倒臭そうに冷めた目で見ていた。そんな彼女が――

「笑って、る……?」

 呆然としたような小さくかすれた声が聞えた。誰もがそれを思っていたのだが声に出さなかったのは、やはり彼女のその瞳が恐ろしかったからだろうか。気持ち悪い目の色だと言われつづけられていた目は、今の表情とは違い変わらずの色で恐怖を覚えたのだった。

「よろしくなー」

 静かであまりいいとはいえない雰囲気を打ち消すようにいったのは、やはりムードメーカーの彼だった。


 ホームルームが終わった後といえば、大変の一言に尽きる。久しぶり、やらはじめまして、やらとりあえず彼女の第一印象は良かったらしい。昔の彼女への手ひどい罵倒は夢のように消え去っているのだった。

「佐伯さん、今度こそ一緒に卒業しようね!」

 ニコニコと笑う少女に、全員が同意するように笑った。

「もう高校ですからね……中退なんてしたら大変ですし」

 くつりと笑う秋雨に、周りも苦笑した。

「はじめまして、佐伯。俺、本條ルイナ、って言うんだ。よろしくなー!」

 ニコニコと笑っていたのは、太陽といわれつづけた彼だった。

 氷のようだと言われつづけていた彼女とは逆に、彼は太陽のようだといわれつづけていた。茶色い短髪に、透明度の強いオレンジの瞳。にこりと笑い返した秋雨に、ルイナは驚いたように言った。

「お前、目ぇ赤いんだな。めずらしい」

 悪意のないような言葉に、秋雨は苦笑して答えようと口を開いたときだった。

「……血みたいだ」

 囁くような言葉に、空気が凍ったような気がした。いままでの雰囲気が嘘のように、その場は静まり、全員が全員こわばった顔をしている。そして、言った本人を恐る恐る振り返った。

――ただ、一人を除いて。


「そうですね、昔からよく言われますよ」

 ニコリと笑って軽く流した彼女に、呟いた本人は彼女の前に出た。

「ふーん。……キモチワルイな、それ」

 無表情のまま言ったのは、背の高い一人の少年だった。表情を変えない―固まったようにも見える―秋雨のかわりに、彼女の事を知らなかった或いは、そんなことは微塵も考えたことの無い周りの極少数が彼を非難した。

「ちょっと、比井! サイッテー、なんてこといってんのよ!」

「失礼だってわからないわけ!?」

 冷たく強い言葉に、比井を見て驚いていたらしいルイナが宥めた。

「まあ、まあ、皆。落ち着けって」

 苦笑して、そうしてから哀しそうに笑う。鶴の一声、とはよく言ったものだ、まるで今の状況だと秋雨は小さく頷いた。

「な、比井ー如何したんだよ? おれ、キレーだと思うぜ、佐伯の目!」

「……突然変異か何かじゃないの」

 止まらない口に、ルイナは悲しそうにわらう。

「んなこと、言うなよ。そんなんいわれたら誰だって傷つくぜ?」

 な、といって比井と呼ばれた少年の肩を叩いたルイナ。そんな彼を見て、比井はその場を去っていった。――穏やかじゃない雰囲気だ、と秋雨は目を細めた。しかし、正直なところ彼女にとってはどうでもいいことだった。

「ごめんな、初日なのに嫌な思いをさせて。ほんとは、悪い奴じゃないんだ」

 去っていった比井を見てからそう言って代わりに謝るルイナに、秋雨は大丈夫ですよ、と先ほどと何ら変わりの無い笑みをうかべて答えた。



 ***


「ここ、付属校じゃないですか。ホンジョウ君は上がって?」

 ルイナは校舎を案内しながらも頷いてからルイナで良いと答えた。

「オレは弟と一緒に早房中から上がってきたんだ」

「へえ……俺もあそこに行く予定だったんですよ」

 ルイナは秋雨を見て、一人称が俺なんだな、と答えた。

「昔からそうなんです。こっちの方が威厳ありまくりじゃないですか?」

「はは! なんだ、それー。まあ格好良いけどな!」

 ニコニコと笑うルイナに、秋雨も小さく笑った。平均身長からも低い身長の彼女と平均身長からも高い身長の彼。その二人の姿はまるで兄妹だった。しかし彼からすれば、妹よりも「恋人」としてしまいたい――なんて、まだ無理だろうな。ルイナは小さく笑った。

「妹がいたらこんな感じなのかなー」

「そうですねえ、呼び方は何が良いですか? お兄ちゃん、兄さん、……格好いいのは兄貴、ですが」

「お、なんか極道っぽいなぁ」

 クスクスと笑いあう一見穏やかな二人は、最後の案内場として屋上へ向かった。


「ここ、実は立ち入り禁止なんだよなー」

「入っちゃってますよ、事後報告ですよ」

 少し狼狽した秋雨にルイナは変わらず笑って、バレなきゃ大丈夫だとだけ答えた。そして秋雨の小さな抵抗も無意味に、ルイナは笑ってフェンスへと寄って行った。

「ほら、すずしーだろ?」

「……そーですね」

 ふん、と鼻で笑ってから秋雨は答えた。


「あ……?」

 ふと、ルイナが秋雨に目を向けた時だった。

――風にそよいだ黒髪によってさらされた左の首筋。制服で見え隠れする引かれた一線の古傷。消えようとしているものの一生のこるであろうその古傷。おそらくは深かったのだろう古傷。驚き目を見開くルイナは目を擦りもう一度そちらを見た。うそだろ、なんで。血濡れた近所の兄の姿がフラッシュバックした。そして、心ここにあらずというように唖然とした幼馴染の姿も。

「どうかしましたか?」

「……いやー、なんでもねーや!」

 間抜けに口を開けるルイナに、秋雨は彼を見返す。真っ直ぐに異端の目とあったが、彼は笑った。そうですか、といって先に屋上を出て行く秋雨の背中を見て、ルイナは溜息をついた。

「見間違い、か……」

 そして、情けねえと顔を覆うのだった。


 ***



 はらりとさくらが舞って、彼は目を閉じた。

 目の裏に残る淡い桜の色はそれでもやはり「あか」と称されるようなものに近くて、比井は歯を食いしばった。

 桜が舞う“紅が散る”――それは、まるで「   」を許すなという暗示をかけているようだった。

 許すな、絶対に。決して、許してはいけない。あいつを奪った「   」を。アイツを殺した異端者を。

「ゆるしては、いけない」

 ぜったいに。


「……ゆるす、ものかっ」

あかに紛れて、悲痛な、叫びにも似た呟きが舞った。

――それが不安定な自分自身への暗示だということには、気がつかずに。



 ***


「……本当、ごめんな」

 唐突に切り出したルイナに、秋雨は首をかしげた。

 突然言われたので、何のことだかわからなかったのだ。

「比井のこと」

 今までずっと忘れていて気にしていないかのような様子に、ルイナは情けなく笑う。少し考え、思い出したかのように秋雨は笑った。

「ああ……だいじょうぶですよ、あれくらい。よくあるんで」

 本当に気にしていなかったようだった。ぎり、と奥歯をかみ締めたルイナを、彼女は見る。

「どうかしましたか?」

「……不安定なんだ」

 意味がわからない、とまでは口にしなかった。彼のその困惑には何処かやりきれなさも窺えた。けれど、口に出してはけないのだろう。彼女は口を噤んだ。

「ごめん、ですまない事位解ってる。お前は、あんなこと、言われたくなかっただろうし」

 ルイナは苦笑して、泣きそうな情けない顔で続けた。


「オレだって、フツウじゃない眼の色だし」

 好きでこんな容姿に生まれてきたんじゃないしなあ、と泣き笑いをうかべた。

「俺は別段気にしませんが……君はその容姿が気に入ってないんですね」

 まっすぐに見てきた秋雨に、ルイナは驚きながらも小さく笑って肯定した。それはそうだ、昔からこの目の色は大人たちから嫌な眼で見られてきたのだから。そんな考えをあざ笑うかのように、秋雨は笑った。

「……だから、君の世界は狭いのですよ」

「え?」

「好きじゃない容姿、それを真っ向から否定し、拒絶することによって、その容姿から来る「なにか」を否定しようとする。……だから、きみは、弱い、まま」

 はっきりとゆっくりと、子供に言い聞かせるように言い張った秋雨に、ルイナは冷や汗をたらした。ふわりと笑う彼女の後ろ舞い上がってきていた桜が、赤い赤い血に見えた。

「君は、弱い……笑って全てを流す。それはいいことかもしれませんが、悪いことでもある。笑ってすますな。笑って流すな。……真っ向から、受け止めなさい」

 威圧。畏れ。恐怖。――一番大きく感じるのは、悟り。そして、かすかに見え隠れする淡い慈悲、慈愛。


「君は、純粋で幼いまま。ゆえに、周りにどう対応していいのか解らない。何時の間にか「笑顔」という名の仮面を貼り付けるようになってしまった。そしてまわりは近づいてくる。そんなの、空しいだけでしょう?」

「周りの共有してくる「人物像」を実現しなくてもいいんですよ。君は君であり、他の誰でもないのですから。君が誰かのために偽る必要なんて無いのだから、仮面なんて捨ててしまっていい、それでかまわないんです。――たとえ周りが君を否定しようと、それを後悔せずとも良いのですよ」

 綺麗に笑った秋雨に、ルイナはうなずいた。

 ぽたり、と頬から滑り落ちた滴が地に落ちて、静かに着地した。



 「あの日」から、今までのように自然に笑えることが出来なくなった気もする。

 周りにはいっぱい心配されたし、迷惑だってかけた。だから、「仮面」をつけ始めた。大丈夫だよ心配すんな、そう言わなくても、まわりが気を張らなくても済むようになればいいと思った。毎日毎日、その「仮面」をつけることで迷惑を掛けなくなるのならばいいと思った。実際、周りは心配しなくなったしいつも明るく気さくになったおかげで色んな人にあえた。――だからこそ、苦しかった。

 今まで通りの「自分」よりも、仮面をつけた「じぶん」の方がいいのだといわれている気がした。

 付け続けるのと比例して増えていく、広がっていく人脈。気付けば回りには昔よりもずっと色んな人がいたけれど、ケンカしあえるくらい近くにいる「親友」はいなくなってしまった。

 そして、「本当の自分」がわからなくなった。

 仮面をつけすぎたのだと、気付いた。仮面をつけて、自分のしたいことさえもわからなくなってしまった。ただ、自分の手の上にあるのは空しさと仮面だけ。――もう、どうすることも出来なかった。

「本当はな、ほんとは、知ってたんだ……。こんなことになるって。それでも、それでもオレは臆病だから」


「仮面をとって、それで何かを失うことなんてできなかったんだよお……っ」

 情けない自分。だからあのとき、助けることはできなかったのだ。そして自分は彼を見捨てて距離を置き、今もこうしてのうのうと生きている。――後悔したって、何も変わらないというのに。




「……しょうが、ないですね」

 涙を流す彼を見て、秋雨は小さくつぶやいた。その声は、誰にも聞こえない。



 ***



 彼は、暗い夜道に一人いた。

 いくら高学年になったからといってまだ小学生の彼が深夜と呼ばれるこの時間に走りまわっているのは少し奇妙な話だ。けれど彼――比井宗也には理由があった。

 千隼兄さん。

 彼を、捜しているのだ。


 最近、近所の兄貴分である千隼の様子がおかしい。日に日にやつれてく様子は、幼いながらも彼にもしっかりと伝わる。一体、千隼兄さんはどうしたのだろう、何かに巻き込まれているのだろうか。働き詰、というイメージもあるがなんだか自分に対して少し冷たいイメージもある。

 親は自分に無関心。唯一頼れる兄さんまで失ってしまったら、どうしよう。一人になったら、どうしよう。ぐるぐるとマイナスな思考を繰り返す彼の目の前に、一つの長い影が見えた。


「チハヤ兄さん……?」

 目を輝かせた彼の前には、日本人顔に、とって付けたような赤い目をした一人の男が立っていた。彼は戸惑った。自分は人を間違えてしまったのだ。だから、目の前の男は虚ろな瞳で自分を見ている。――また十一の彼にとって、「麻薬」という言葉はそこまで詳しく知れるものではなかった。

「ご、ごめんなさいっ」

 居心地の悪さを感じた彼はすぐさまぺこりと頭を下げて、逃げるように去ろうとした。


「――ははは」

 ポツリとわらった男に、彼は振り向いて足を止めた。月光が彼の真後ろにきて、彼の顔が、赤以外の色が、みえた。

「え……?」

 なにかを投げられて怪我をしたかのように、彼の頭部は赤く腫れ、血がたれていた。目を伝い頬をつたい首をつたい、それは白いシャツを赤く染め上げている。頬には殴られたかのような痕もあったし、かれは困惑した。なんだろうか、この人。なんだか、いやな予感がする、――怖い。

「いたん……っていうなら」

 低く太い声に、かれは絶望と苦しみそして悲しみを感じた。

「ばけものと――いうなら……」

 ギラリと鋭く光る「ぎん」が見えた。ああ、駄目だ嫌な予感がする。足が震える。けれど彼には、もう何をすることも出来なかった。彼の足は棒のように、地面に吸いつかれたように動かない。

「その通りに……その通りにしてやるっ」

 宗也! 目を固く瞑った彼の耳に、兄の声が届いた気がした。


――人生初の、とても重たい衝動だ。微かな鉄の臭い、暖かな感触、そしてそれに矛盾した、覚めた脳。

 はじめだった、こんなに泣きたくなったのは。けれど彼はそれどころじゃないことに気づいていた。状況を理解しようとすれば、自然と体は震えた。見たくないのかもしれない、しかし怖いわけではない。寒いわけではない。それはきっと、困惑していたからだったと思う。

「チハヤ、兄?」

「そうや。だいじょうぶ、か?」

 呻いて苦痛のためいきをついたのは、確かに彼だった。荒く呼吸を繰り返し、時折苦しそうに唸る。そして、どくどくと首筋から背中にかけて血は流れる。

「宗也……泣いてい、るのか?」

 絞るようにいった彼の声に比例して、アカはなおも広がっていく。押し止めようとはするが、幼い彼にはどうすればいいのかがわからなかった。けれど、血が彼の手から逃げまとうように命が手からこぼれていく様は理解できた。

「に、にいさっ」

 色褪せていく視界。その中で、彼は見つけてしまった。

「う、あぁぁっ」

呻く男は理性を失ったかのように暴れたてる。そして、もう一度「ぎん」を振りかぶった。ぶつん。幼い彼の思考は、そこで途切れた。



 目が覚めてまず見たのは、白い場所だった。白いシーツに白いベッド。清潔な色が、彼には赤く染まって見えた。夢だろうか。震える手で目をこする。そして、安堵した。どうやら、それはただの錯覚だったようだ。


「宗也……?」

 目が覚めたのかと情けない顔でいったのは、幼なじみのルイナだった。太陽色の目が、不安げに揺れていた。珍しく片割れの弟をつれていない。一体どうしたのだろうか。そんな疑問は、頭が完全に覚醒すれば消えていった。

「にいさん、千隼兄さんは!?」

 一瞬よぎったのは、夢だったのだろうかという疑問。いや、夢ではない。すぐに理性がその思考を遮った。ずくずくと痛む体中は、彼を現実から逃げさせまいと主張していた。そしてその焦った様子に、ルイナは苦虫を潰したように顔を歪めた。

「チハヤ、は……」

 戸惑って、そして唇をかむ。そのようすは、彼が都合の悪いときにやる仕草で。

「な、あ、どうしたんだよ?」

 震えている声に気付かないフリをして、ルイナは彼を見た。

 自分は卑怯だ。うすうす感づいているくせに、それなのに、ルイナに、生きているとそう言ってほしいと。嘘でもいいから言ってほしいと思っている。そして――ルイナに、汚れ役を買わせようとしている。彼に千隼の状態を言わせようとしている。

 自分は卑怯だと、彼は罵った。

「チハヤは、もう、目を開けない」

 まさか、と宗也は首をふった。信じられない、信じたくない。けど、ああやっぱりそうだったのか――彼は、そのことばから逃げるように走り出した。いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだ。なにも、考えたくない。俺のせいだったのか、全部――? いや、違う、違う違う違う違うっ。


 そこはやはり、病院だった。白を主体とした雰囲気の中で、彼は必死になって走り回っていた。となりの部屋、そしてそのおく。札を見て回り走っても、彼には見つけることができなかった。

 彼が気付くと、目の前は霊安室だった。どくり。心臓が大きく脈打った。なんで自分はここにいるのだろうか。体中が震え、拒否している。しかし、一度深く息を吸って、彼は扉に手を掛ける。ちがう、ここにいるのは兄ではない。ちがう、違うのだ。安心しろ、大丈夫だ。違う――

 ちがう、はず、だった。


「いやだ、うそだろ……?」

 ぼそりとつぶやいて、彼は骸と化した兄を見つめた。

「嘘だって、いってよ」

 彼の目の前には、死んでしまったとは思えないほど綺麗なままな、眠っているような。


 兄さん、が。

「う、うううううっ」

 これもすべて、「いたん」のせい? 異端、イタン、いたん……しゃ?


「いた、んしゃ」

 悔しい、寂しい、淋しい、怖い、辛い、――認められない。――憎、い。


「宗也」

 かたり。扉の近くで音を立てたルイナにも気がつかず。

「そう、や……っ」

 彼は赤色を、嫌いはじめた。そして、一人になり始めた。


 ***




「……ナカナオリをしたいんですね」

 簡単にいえばな、とルイナは苦笑した。流れで秋雨を巻き込んでしまったようだ。そして彼女は勘弁してください、と苦笑した。

「ハグでもしたらどうですか?」

「うーん、できたら苦労はしねーってー」

「ばっか、外国で頬ちゅーは挨拶ですよ?」

 あははうふふと笑いあう二人は、学食にいた。ルイナの注文したカレーライスに、秋雨の注文したサンドウィッチ。その二つが机に並べられていた。

「って、それ以前の問題ですよね。俺、ボーイズラブって苦手で……まあいいですけど」

「え?」

「あ、や、なんでも……」

 顔をそむけて手にした昼食を口に入れた。

「それにしてもお前、よくそれでもつよなあ……倒れたりしねえ?」

「そうしたらもっと食べますよ」

 それもそうだ、とルイナは苦笑する。

「どうするべきか……うん、とりあえず頬ちゅーしてみるか!」

「セクハラってサツにつかまっても俺は助けられませんから」

「ええーたすけてくれよー。……てか、捕まるか?」

 くだらない会話を続けていたかとおもえば、秋雨は黙った。

「どうした?」

 首をかしげるルイナに答えず、立ち上がる。そして、皿だけが乗せられているトレイを持ち上げ歩きだす。

 片づけに行ったらしかった。ルイナは秋雨の唐突すぎる様子に首を傾げたものの、まあいいかと再び昼食に手を付けた。

「どうかしたの」

 いきなりかかった声に、ルイナは勢い良く振り返った。そこにいたのは弟。

「よっ、ルーヒ!」

「誰だそれは」

 瓜二つのあどけない顔は、正反対の表情をしていた。つまり彼はまぎれもなく本條ルイナの双子の兄弟なのだ。

「ごめんごめん、ルイヒ。相変わらずクールなのな」

「お前が五月蠅いんだよ、馬鹿」

 ひっで、とルイナは苦笑した。茶色の髪にオレンジの目。まったく同じ容姿を見て、ルイナは小さく尋ねた。

「……ルイヒ、さあ。お前、その目の色嫌いか?」

「別に。俺は異端者云々に何とも思ってないしね。なによりこの目の色だからこそ、ってのがあるだろ。むしろ感謝……だね」

 珍しく長いセリフだな、とそれを聞いて笑った。五月蠅い、と再び口にしたルイヒはふと首をかしげる。

「さっきの……あれ、新しい彼女?」

「ははっ、ちげえよー。トモダチ!」

「女が? ……珍しいね、熱?」

 そうかもー。けらけらと笑うルイナに、ルイヒはため息をつく。きっと何を言ってもこの先かわされてしまうだろう。――転入生、佐伯秋雨。名前を口の中で呟く。

 彼女の噂は、二つ離れた彼の教室にまで届いている。黒髪黒目の美少女。絶世の、と言うわけではないだろうがそう言ってもいいかもしれない美貌。実際、彼ら二人は色んな所をふらふらしていたが、今まで見た中で彼女が断トツで綺麗だと思う。

「女遊びのくせに」

 ふん、とため息をつき秋雨が座っていた、ルイナの隣の席につく。

「なんだよ、つまらなかったから遊んでただけだろ」

「そこが性格悪いんだよ。……お前、この先佐伯秋雨に惚れるよ」

 ジョウダン、とルイナは笑う。確かに彼女は魅力的だと思う。さっきだって「恋人」にしたいだなんて思った。しかし――今まで「遊んできた」女子のように手を出す気はない。手を出してはいけないと、本能が告げる。

「なんでそう思うんだ?」

「……あれはきっと、俺達を「理解」できる」

 肩をすくめたルイヒにそか、とルイナは笑った。そうかも、と。そしてルイヒは心の中で小さくため息をつくのだった。また――逃げられたのかもしれない、と。

「お、アキサメー!」

「……叫ばずとも聞こえますよ」

 こんにちは、とルイヒに礼をして秋雨は二人の正面の椅子に座った。彼女の手には、黒い携帯電話。ちゃらちゃらと何かをつけるわけでもなく、ただありのままのシンプルなデザインだった。

「うっわ、かっけえなその携帯」

「シンプルがいちばんですよね」

「……新作?」

 尋ねられ、秋雨はうなずいた。そして初対面の人物と話したことに気づき、名乗る。そしてそれを聞き、ルイヒも名乗るのだった。

「双子ですか?」

「おう!」

「見てのとおり」

 ふうん、と秋雨は呟いた。

「実は三つ子でしたー……なんてオチはやめてくださいね」

「流石にないって!」

 けらけらと笑うルイナに、ルイヒは立ち上がった。

「ごめん、生徒会室行かなきゃいけないんだ」

「でえっ? 生徒会室う? 危ないな、どうかしたのか?」

「書類提出するだけだよ。多分あの人には会わないさ」

 会うだろうけど。そう思いながらも必死に止めるルイナをすり抜け、手を振る。またねと言われた秋雨はけだるげに手を振り、その反対の手で携帯をいじり続けるのだった。

「生徒会長には気をつけろよ……」

「――うん」

 兄の小さな忠告に、ルイヒはうなずき秋雨は小さく首をかしげるのだった。


「なにかキケンなんですか?」

「ん? ああ、まーなあ。結構わかんない人だよ。仕事とかちゃんとしてるあたりは尊敬するけど。いっつもぼーっとしてんの。サボりとか見ると殴られるぜ。ちなみに一昨日は6人病院送り。決め言葉は「朽ちろ」! きいつけろよ?」

 ええ、とうなずきかけて秋雨は止まった。お前さっき立ち入り禁止のとこに誘わなかったか。それは口に出せなかった。

「叩くだけで危ないんですか?」

「いや、たたくって程可愛くねえって。不良狩りが得意なんだ、あの人。俺が小六のとき……だったか? なんか暴力団乗り込んで壊滅させたとかなんとかで。その噂本当らしくて無駄に強えし」

 なるほど。秋雨は首を傾げながらも頷いた。どっちだよ、と笑って肩を叩いてくるルイナを鬱陶しがりながらも、ふと尋ねた。

「さっきから女生徒の目線が痛いです。何故だと思いますか?」

「ああ、オレと一緒にいるからだろうな。俺、結構女好きって有名なんだぜっ」

「お前最初と性格ちげえじゃねえか!」

 がん、と秋雨の右手が正面のルイナの頭に直撃した。まったくなんてやつだ、女の子が好きだと? 同類じゃないですか。……いやいやいや、女好きじゃありません、庇護対象なんです。って、俺は何やってるんです。

「そう怒るなってー」

「怒ってません、あきれているんです」

「てか、敬語なくなったよな、いま」

「え?」

 何の話ですか。秋雨は綺麗に笑うのだった。



「失礼します」

 こんこん、とノックをして返答されたのを確認するとルイヒ扉を開けた。一年七組本條ルイヒです、と名乗れば、話は聞いてるよ、という返答をされた。

 華奢に見える体に、高い身長に長い手足、切れ目がちな紺の目と凛々しい眉、さっぱりとした綺麗な顔立ち。――生徒会長志賀野馨本人だ。低すぎない、アルトとテノールの中間ほどの声は相変わらず退屈だとでも言っているようだった。

「バイト云々の話だろ、其処に置いといて」

 そこ、と指差されたのは恐らく処理済みであろう大量の書類がのっている机だった。綺麗に山積みにされている様子を見ると、彼は幾分か几帳面なのかもしれない。

「あと、君1-7なんだろ? 担任に死ねって言っといてよ、アイツこの前俺が提出した書類破りやがったんだ」

 そしてガキ臭い。しかしルイヒは無表情を保ち、わかりましたと答え、律儀にも担任に伝えるのだった。



 ***



「比井ーっ」

 甘ったるい声に、比井は背筋を凍らせた。手に持っていた書籍が滑り落ちる。恐る恐る彼が振り返ると、大きく手を振りこちらへ走ってくるルイナが見えた。

 な ん だ あ い つ !!

 手から落ちた書籍など目もくれず、彼は教室から飛び出した。そしてひとり残ったルイヒに、秋雨がため息をつく。

「……ちょ、なにやってるんですか」

「いやあ、愛を表現するには遠くから駆け寄ってくのが一番かな、と……」

 今までそれで女の子をオトしてきたのか嘘だろおまえ。あきれてため息をつく秋雨に、ルイナはおかしいなあと頭をかいた。バカなことを言うな、と秋雨は肩をすくめた。

「だめですよ、そんなことしたら。犬や猫を思い出しなさい、奴ら、だいたいはわざわざ目線を合わせてやんなきゃ怖がるんですよ!」

「え、そうなのか? そっか……じゃあまずちょっとかがまなきゃなあ」

「あとじわじわいかないと怖がります、焦らずに行きなさい」

「いや、それも怖いと思うんだけど……」

 二人そろってあれこれ話す姿に、クラス一同はほんの少し、比井に同情するのだった。



「比井っ」


「比井ー」


「比ー井ーっ」



――なんなんだ、あいつはっ。

 彼は眉をひそめ真っ青になった顔を両手で覆った。なんだ、まじでなんだ。まるでキチガイじゃねえか! あまりの恐ろしさに手が震えた。ある時はかがみながら近づき、ある時は茂みの中から顔を出す。そしてある時は行き成り真後ろから声をかける。

 なんだあいつ、人間かよっ。なんでいる場所知ってんの?

「……しにそうだ」

 はあ、とため息をついて保健室のベッドで横になる。見るからに顔の青い比井を見て、保険医も心配したのだろう。精神面でも身体面でも疲れた。彼はもう一度重くため息をついた。

 しゃっ。勢いよくカーテンがひらかれる音がした。奴か、奴が来たのかっ。閉じてた目を開けずに、比井は体勢を変えただけにとどめた。きっと、寝ているものだと思うだろう。そう考えたのだった。


「――一年九組、比井宗也だよね」

 ぴたり。

 世界が、止まったかのように思った。




「朽ちろ」




 ***


「はあ? 生徒会長がいない?」

 素っ頓狂な声をあげたのは、ルイナだった。そしてその隣には、ジュースを飲む秋雨がいる。こくり。うなずいたクラスメイト―確か、彼岸といっただろうか―は少し青い顔をしていた。

「ああ……それで、その。機嫌悪そうに保健室に入ったのを見た奴がいるって……」

 がしゃんっ。ルイナは彼と同じくらい顔を真っ青にして、イスから立ち上がる。そして、彼の存在を忘れてしまったかのように走り出すのだった。



「ありがとうございました」

 にこりと笑う秋雨に、彼岸はヘラリと笑って首を振った。

「いやいや、これくらいどうってことないですって。――それにしても秋雨さん。随分と思いきった事、するんですね。志賀野馨に比井宗也のガセを流すだなんてさー」

 くすり。秋雨はわらう。秋雨の顔も、彼岸の顔も、青くはないし焦ってもいなかった。

「使えるものは使うタチなんですよ……。特に、使いやすい人はね?」

「ははっ。相変わらず流石ですねえ、秋雨さんってば」

 面白い奴。彼は笑った。

「あなたの演技も、相変わらずなかなかうまかったですよ」

 それでは。ジュースを手に持ったまま、秋雨は立ち上がり歩きだすのだった。


「また、お願いしますね。請負人さん」

「はははっ、御贔屓にー」




――がちゃんっ。

 勢いよく開かれた扉に、彼は振り返った。ふわり。柔らかそうなその黒髪が、揺れる。

「比井っ」

 入ってきた人物に目を細めた彼を見向きもせずに、ルイナは崩れ落ちた比井に駆け寄った。どろり。赤い血が、ルイナの手に付着した。

「てめえ、……っ」

 どくり。目の据わったルイナを、彼は冷めた目で見つめた。彼は武器など手にしていない。――それもそうだ。彼は、肉弾戦を得意とするのだから。

「志賀野、馨ううっ!」

 冷めた目に涼しげな横顔。悪びれた表情など見せない彼を、ルイナは睨みつけた。なんでなんでなんでなんでっ。ぎり、と唇をかみしめた。

 がしゃんっ、ばきん。殴りかかったルイナを軽やかによけて、彼は体勢を崩す様を足でひと押しした。体当たりされたことによって割れるガラスに、ルイナは体を切る。

――ぱきん。ガラスとはちが何かの割れる音に、彼は眉をひそめた。

 ゆらり。立ち上がったルイナから、彼は目をそらさない。変な気配だ。彼は思った。昔、幼馴染に教えられた言葉が思い出される。


――いいですか? 気配が変わった時は、それから目をそらしてはいけません。そらしたら最後、お前は……。


 にこり。彼女はことばを切って、結局口には出さなかった。そして、まだ「園児」だった彼はその幼馴染から一歩後退した気がする。お前より危ない奴はいねえよ。一歳年下の幼馴染は、今の彼以上に危険人物だった。



「――」

「……?」

 小さくぼやいたルイナに、彼は首をかしげた。ぶわ。生ぬるい空気を悟り、部屋の緊張感が増した。そして、オレンジ色の目をきらめかせ、ルイナは再び口をひらき――


 かちゃん。

「っな、」

「……!」

 足音もなく気配もない存在が、扉を開けた。気を張り詰めた二人が気づかないなど、ありえなかった。そしてそんな動揺によって、張りつめた気は緩む。

「おや、お邪魔でしたか?」

 ふむ、と秋雨は息を吐いた。なんで来たんだ、と叫ぶルイナと唖然とする彼。なんだ、なんでここにいるんだよなんでなんでなんで。目を見開き秋雨を凝視する彼の姿は、ルイナには見えなかった。

「なんで来たんだよ、秋雨!」

 言ったルイナに、彼は構えていた手を下した。そして、はっとして目の前の彼女を見つめる。

「――転入生、ってもしかして」

「ええ、そうです」

 くすくすくす。秋雨は空気を壊したことを気にも留めずに二人の間を通り、崩れ落ちている比井を持ち上げた。そして、ぱしぱしと体をたたく。

「骨は折れていないようですね。鳩尾一発プラスふっ飛ばされ流血ですか……まあ、大した傷ではないですね」

 うんうんとうなずき、ルイナに手渡す。そして、彼の襟首をぐいと掴み、その場から一歩一歩遠のいていく。

「好機はあげましたよ。――あとは、好きにしてくださいね」

 それでは、と言って掴んだ彼を引っ張り、彼女は一度だけにこりと笑い、部屋を出た。





「――どういう、つもり?」

「さあ……どういうつもりでしょう?」

「もしかして、俺を利用したの?」

「さあ……利用したのでしょうか?」

 襟首から手を離し、秋雨は笑いながら歩く。そして、一歩遅れて彼はそのあとに続いた。きりがない会話。きっと彼女に何を言っても無駄だろう。彼は小さくため息をついた。

――佐伯秋雨。彼女は彼より一つ下の、彼が唯一心を許した幼馴染だ。そして、彼が唯一畏れ唯一従う人。

「ため息なんて……幸せが逃げますよ?」

「お前が近くにいれば逃げるどころじゃないよ、消え去ってくから」

 そうですか、と彼女は笑った。ふわり。彼と同じく柔らかそうな黒髪が揺れた。

「……いままで、一体どこにいたわけ?」

 かすれた声に、彼はすぐに口を噤んだ。

 彼女は、彼の中学入学式の前日、姿を消した。――さびしそうに笑った彼女の母に、彼は聞くことはできなかった。溜まっていくストレスを解消するため、暴力団に乗り込み見事傷一つせずに潰してみせた。それでもおさまらなくて、以来ずっと暴れまくっていた。

「ああ、イタリアです。トマトおいしかった」

「ふざけろ」

 心配したってのに、と言おうとした彼を袖をひっつかみ、彼女は唐突に右折した。

「ちょっと、そっちは……」

「生徒会室でしょう、知ってます。――あんみつ食べたいんです」

「何言ってんだ!」

 彼の抵抗など気にも留めず、秋雨は階段を上ってく。

「大きくなりましたね、きょーちゃん」

 ふと、思い出したように微笑んだ秋雨に、彼は戸惑いながら赤い顔をそむけた。

「……そりゃ、あ。五年もたってるしね」

「そうですね。まさかこんなにムサくなるとは思いませんでした」

「なんだとてめえ!」

「……。口が悪いですよ」

 ばっと振り返った彼に、秋雨はぷは、と噴出した。其処は変わらないようですね、笑った姿に、彼は苦虫をつぶしたように顔をゆがめた。そっちこそ変わらない、高校生以上はムサっ苦しいというあたり、全く変わっていない。


「……なんで俺は駄目だったの?」

「何がです?」

 なんで置いていった、と彼は地面を見つめた。園児の時から一緒に行動をしていた、園児の時から一緒に遊んでいた。なのに、彼女は姿を消した。――連れていってくれれば、と彼は何度一人ごちたことだろう。何回も何回も彼女の名前を呼び、何度も何度も彼女の跡を探した。彼女はきっと、それを知っていたし想像がついていた。

「そりゃあ……連れていったら大変なことになりそうだったんですよ。まったく、たった四、五年じゃあないですか、ガキくさいことを言わないでください」

「ガ、ガキくさ……っ!?」

 固まった彼に、秋雨はやはり笑う。あはは、と悪びれる様子もなく、上り終わった階段を左折した。

「……それにしても。あんなのに構うとは思わなかったよ」

 あんなん、と言われて秋雨は小さく笑った。嫉妬ですか、と尋ねればちちちちがう、と焦った反論が返ってくる。くすくすと上品に笑われ、彼は眉をひそめた。

「面倒事は、嫌いだろ?」

「まあ、嫌いですねえ。けどまあ、巻き込まれたら抵抗はしませんよ。きょーちゃんもそうでしょう?」

「……アキさあ、いいかげんその呼び方やめてくれない? だれだよきょーちゃんってきの字も入ってないんだけど」

「カオル――「馨」はキョウとも読むんですよ?」

「そんくらい知ってるし」

 彼はため息をついた。そして秋雨が足を止めたのを見て、同様に止まる。そして生徒会室に入った二人は、昔のように談笑するのだった。




 ***



「宗也、話があるんだ」

「……何?」

 秋雨と志賀野馨が生徒会につき談笑をはじめてから二時間後。比井が目を覚ましてから三十分後。諍いが解決してから四分後。首をかしげた比井に、ルイナは真剣な表情のまま佐伯秋雨に謝れ、と言った。その言葉に比井は止まり、沈黙する。しかし、ルイナはそれを気にせず続けた。

「お前がいくら憎んでたって、佐伯秋雨にあたるのは筋違いだろ?」

 言われて、比井は小さくうなずいた。そう、自分は彼女にあたっていた。彼女がたまたまあいつと同じ目の色だからと、関係のなかった彼女を巻き込みそして非難し罵倒した。不安定なのを隠すために彼女を貶した。


「佐伯秋雨はきっと――被害者だ。その珍しい眼の色によって、いろんなことを体験してきたし、傷ついてきたと思う」

「だから、宗也。――お前は、謝るべきだ。違うか……?」

 昔のように力なく笑うルイナに、比井は呟いた。



「……違くない。わかってるから、わかってるよ」





「明日、朝。……ちゃんと謝る」

「おうっ」

 そして翌日。彼らは自分たちによって巻き込まれた彼女に何かを奢るということで許されたのだった。





「昨日食べれなかったからあんみつ、食べにいきたいです」

「りょーかい、任せろ!」

「佐伯、……ありがと」

 その日から、仲違いしていたはずの比井宗也、本條ルイナ、それから転入生の佐伯秋雨という珍しいグループが出来上がった。




(僕らのきずあと)

(忘れないけれど、大切にしていくから)

こんにちは、九条 隼です。

まずは、この画面を開いてくださりありがとうございます。随分前からあたためていたお話ですが、実はまだ続きがあります。一応は短編でシリーズとするつもりですので、よろしければ読んでみてくださいね。


秋雨と馨の昔話、ルイナとルイヒの秘密、秋雨の秘密、そして後輩を交えた話、彼岸の話――

まだまだ足りない部分はありますが、「僕らのきずあと」はとりあえず終了です。ありがとうございました。

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