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一般前衛冒険者の憂鬱  作者: 呉ヰ


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3/3

『生還者』

3話目。映画のパロディも入れつつ、かつ、わかりやすいようにする事を意識しましたがここもいまいち満足していない…

 翌日、シグは都市鉄道の駅に赴いた。切符の購入が目的だったが、その前に近くの酒場に入って情報収集に移った。




「1週間後から旅行に行こうと思っている。半年くらいそこにいるつもりだから住みよい街を紹介してくれ。できれば、海のあるあったかい地方でな」


「…兄ちゃん、金はあんのか?」




 俺が話しかけたのは情報屋。駅前の酒場で昼間から酒盛りをしているあんぽんたんに金貨を1枚投げつける。デコちんにクリーンヒットし、情報屋がのけぞる。




「長生きしたけりゃ、口を慎むことだな」


「痛ってぇな、この野rうおっ、金貨!」




 酔いも冷める勢いで驚く情報屋。俺は向かいの席側のテーブルをドンと叩き、情報屋を凄む。篭手が相まって大きい音がなったわけだが、この酒場では日常茶飯事であり、気にするものもいない。




「お前…キメてるだろ。チクられたくなけりゃ、とっとと教えな」


「な、なぜそれを…いやいやそうじゃなくて、旦那、冗談ですから、へへ…そう怒んないでくださいよ」




 コイツの舌、血色が悪く変色している。物質使用の証拠である。俺は卓上のカトラリーからナイフを手に取り、テーブル越しに腕を伸ばして男の皿に乗っているオーブンでこんがりな七面鳥のレッグを切る。スルスルと肉を切り裂き、ゴリゴリと音を立てて骨までも断ち、そのまま両断。情報屋はゴクリと喉を鳴らす。




「りょ、旅行でしたら今だと、サントールがおすすめですぜ…」


「だよな、んなことは知ってんだよ。あとはチケットが安く取れれば世話ねぇのにな。なぁ?」




 情報屋は少しぽかんとした表情を浮かべていたもののハッと意図に気づき、だらだらと汗を流しだす。ここは『ダンジョン:天突く塔』を囲む都市『ロッセベルト』。年がら年中寒いことで有名である。この街で汗をかく手合いは鉱夫と冒険者と隠し事がある奴だけだと相場が決まっている。




 それに加え、場の空気が変わった。昼間から喧騒が絶えないこの酒場で、少なくともここら半径5メートル以内の温度が急に下がったように感じた。




「…いや、いやいやいや。旦那ぁ…勘弁してくださいよ〜…ホント。無理ですって」




 そういってると、酒場の厨房に繋がっているであろうドアから3人の男が出てくる。どいつもこいつもコックとは思えない格好している。胸当てをつけていて、腰には短剣や魔法拳銃。明らかに裏の人間だ。鉄道を牛耳っている連中に値引きしてほしかっただけなのだが、どういうことだ。早速後悔してきた。




 酒場で馬鹿騒ぎしている連中は相も変わらず気にした素振りを見せない。これが『日常』なのだろう。




 こうなったからには仕方ない。




 三人の用心棒のうち、一人だけマークした。真ん中の銃持ちは手練である。徒手格闘でも手は抜けない相手だ。万一戦いになったら真っ先に殺そう。そんなことを考える。




「俺は金貨1枚払ったぞ。それに見合ったサービスを提供してもらおうか」


「この期に及んでまだ言うか、兄ちゃん。マフィア相手に強気なのは確かに良い手だが…足りない。…あぁ、お前さんの言う通り、金は足りてる」 




 情報屋は金貨を親指で弾き、キャッチする。金の確かな輝きをみながら、こちらを指さす。




「じゃあ何がって? 強さだよ」




 一斉に銃口やら剣先やらを向けられる。俺は神経を研ぎ澄ませる。


 正面に立つ銃を向けてきている男に集中する。ボサボサの長髪、細身の男で前髪が邪魔で顔がよく見えない。視線も見えないのはかなりの痛手である。


 指や腕の筋肉の動き、呼吸のリズム、情報屋の目線、微細な魔力の放出・操作、あらゆるものに目を向けながら、話し出す。




「まぁ、待て。俺らは明日生きるために仕事してる。あんたらもそうだろ? 殺して得られるものも少ない。話し合いでおさめよう」


「命乞いするにゃ遅すぎだ、冒険者」




 これまでの態度が180°変わってニヤッと不敵な笑みを浮かべる情報屋。ぶん殴ってやりたい気持ちを抑えながら、首元に左手をやる。




(ふん。しゃあなしだな)




 俺は無抵抗の意として、右の手を上に上げたまま、首からIDタグのチェーンを外し、魔力を込めてテーブルに置く。2枚の銀製のドックタグがカチャカチャと音を立てながらテーブルに横たわる。


 シグのタグ用のチェーンにはドックタグ2枚の他に月光石という珍しい石の勾玉がついていた。情報屋はその情報を見逃さない。『当たり』のカモだと確信し、早速金の使い道を考え始めてさえいた。


 タグに込めていた魔力が反映され始め、『柄』が浮かび上がる。




「お、自分は柄持ちってか? 良いね〜。イタイね〜。死んだら意味無いでちゅよ〜…」




 情報屋がタグを手にとってよく見る。




「ってか! 2-7オフスート!? 柄の意味分かってる?あんた?『最弱』だぜ、ギャハハハ!」


「!?、ッ……」




 余裕かましている情報屋とは裏腹に、真ん中の男はその柄を見るやいなや焦りながら銃を下ろす。そのまま地面に落とす。そこで、俺が今まで上げていた手を下げる。


 手練れの男は滝のような汗を流している。こいつもまた、鉱夫や冒険者といった手合いでは無いだろう。目が合うと余計に顔色が悪くなる。自然と口からその柄の『本当の意味』がこぼれる。




「…死地からの生還」


「詳しいな。あんた。…あぁ、同じ穴の貉か」




 なんとなくだが手練れの男の出自が伺い知れた。




「その、なんだ…悪かった。知らなかったんだ…勘弁してくれ」


「今後はこいつらが口外しないように見張っとけ。…こいつらが生きてればな」




 男は何か言いたげにするも、言い淀む。


 情報屋と他の二人の用心棒は何が起きたのか理解できていないようで、唖然としている。




「その…兵役お疲れ様」




 男はそう言うと高価な魔導拳銃を拾いもせずに、出口へと足早に歩いていく。その後ろ姿にいたたまれなくなってそれとなく声をかけておく。




「お前もな」




 テーブルにはシグのIDタグ。2枚のタグにはトランプのような魔力の刻印が浮かび上がっている。片方にはスペードの2、片方にはハートの7。




 情報屋はというと、未だに一番の腕利きがフォールドしたことに動揺を隠せなかった。




 なぜ、奴が去った?




 この場で一番強いカードは奴だった。




 それでも奴がこの柄を見た途端に踵を返した。




 何かある。こいつはただの冒険者なんかじゃない、2-7オフスートなんかじゃあない。




 生命の危機に近しい警鐘が脳内に鳴り響く。




「わ、分かった。融通すれば良いんだな?」


「賢い選択だ。俺は賢いやつは好きだぜ。殺す手間が省けやすいからな」




 そういいながら、両方から未だに向けられている剣を篭手のままで握りつぶす。残った用心棒の二人は刃が潰れてぐにゃりと歪んだアーミングソードに唖然とするしか無い。  




 元来、アーミングソードというものは、鋳造との相性がめっぽう悪く、そのほとんどが鍛造で作られるものである。もちろん男たちが持っていたアーミングソードも鍛造による代物だった。


 そのそれなりに高品質な鍛造の剣を篭手越しとはいえ素の力で握り潰すというありえない力加減に連中は驚きを隠しきれない。それに関しては鋳造の剣でも普通あり得ないのだが…




 兎にも角にも、情報屋も男たちも最早生きた心地がしなかった。




「…持ってけ。これさえありゃ魔導機関車でどこに行こうが金をせびられることは無いだろうよ…フリーパスってやつだ。それにプラスで金積めば富豪用の席にでも案内されるだろうな」




 情報屋は首に下げていた金属のタグを手渡してくる。


 


 それをシグは受け取って簡易鑑定を行った後、自分の認識票のネックレスに加える。


 冒険者タグ2枚に月光石、フリーパスとジャラジャラになった所為でシグは少し嫌な顔をしつつもやむなしと首につけ直す。




 冒険者タグより一回り小さく、鈍色のタグが首元で揺れ動く。


 実のところ、シグは鉄道会社のバックにいるマフィア連中が鉄道の利権を握っているために、『特別割引』をお願いしただけであり、フリーパスを貰えるだなんて思ってもなかった。


 内心ラッキーと思いながらも多少の還元はしてやろうと口を開く。




「…レードマイラは2週間以上使用していると舌が赤黒く変色し、爪や歯も茶色に変色して次第にぼろぼろになる。衛兵どもにヤクを疑われたくなけりゃ、食事の仕方には気をつけろよ」




 俺は情報屋に指差しながらそういう。




「……」


「あばよ」




 だんまりな情報屋を尻目に酒場から去る。いつの間にか人目を集めていた。酒場に乱雑に並べられているテーブルから、こちらをうかがうような視線が何十も飛んでくる。




 出入り口の一歩手前でくるりと振り向き、酒場の連中を見渡す。


 そこには恐怖があった。連中はマフィアの腕利きを退けた冒険者を怯えた目で見ていた。




(あいつらどんだけ権威あんだよ…)




 そんなことを考えながらそそくさと外に出ると、先程銃を向けてきた腕利きの男が待機しているのが目についた。




「…シグ・フィアルスか?」


「あぁ」


「…大戦での戦いぶりは聞いている。連中には俺からきつく言っておくからどうか勘弁してくれ」


「情報屋の口を縫うのは骨が折れるぞ」




 暗に口止めなどできないと伝える。シグが首から下げている月光石は、エルフの集落と懇意にしている証拠である。シグはマフィアの嗅ぎ回りによって、ユリアやユリアの故郷に脅威が迫ることを危惧していた。




「その場合は俺が始末する」


「なぜだ?」


「何がだ?」


「なぜ、そこまでする?」




 男は長い髪をかき上げる。髪で隠れていた耳が顕になる。尖っている、エルフの耳だ。




「あんたの柄を見てビビったのは確かだが、それ以前にあんたは褪せてない月光石を持っていた。正式にハイエルフの加護を受けている証だ。我々は、加護を受けてるものに助力せねばならない。エルフとして、それが信仰だから」


「そうか。じゃあほどほどによろしく頼むよ」




 シグが興味なさげに話を切ったものだから気分はいいものではないが、それ以上話すこともないので、男は口を閉じる。


 手練れの男は酒場へ戻っていった。どこの村の、どのハイエルフからもらったのか、などという野暮な質問はせずに。一見ひどく不器用な会話のようだったが、分別が分かっている者同士が探り合うようにして会話するとこうなるものだ。




 エルフはどんなマフィアの一員だとしても、その前に『エルフ』である。


 自分の生まれた村や集落こそ最優先であり、出身は違えどエルフであれば必ず手を差し伸べる。


 ハイエルフともなればどこの村や集落の生まれであっても信仰対象に変わりない。そのハイエルフから信頼の証を与えられている人を助けることなど当然に等しかった。




 当然、エルフの村での信仰対象が村から出て、活動するということはありえない話である。


 シグは久々に村の外で自由に暮らしているユリアの異常性を体感した。

こちらは結構気まぐれで更新していきますので、忘れた頃に閲覧履歴を遡ってみるくらいの感覚で良いと思います。

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