第三十六話 東京って いまは まだ ない というか ぬまじゃんここ
あああああああ(落下中)
人間って極限状態になると時間がスローに感じるらしいですね。
いやおそすぎだろ。
まあでもだからといって体が速く動くわけではないから、
堕ちるしかないんですけどねえええ(絶望)
あ、下……沼? 池?
よし、しなないぞ(願望)
なんでこう、さっきまで足が↓だったのに、
もうすぐ水没ってときにひっくりかえるんでしょうか。
犬神家ってこうなってたんですね(絶望)
村人「おい、坊主が貴重な水源に頭から突っ込んでるぞ」
オネガイタスケテ とんとんとんつーつーつーとんとんとん(SOS)
村人「坊主だろうと、こいつは村の敵だ。
水が無くてどれだけ死んだと思ってんだ」
マッテタスケナイデ つーとん つーつーつー(NO)
スミマセンスミマセン イヤホントスミマセン。
あれ、ちょっと……ああ、疫痢か。なるほどな。
すまん、ちょっと黙れ(マントラ)
なるほど。よし、ちょっと村に案内してくれるかな。
あと病気の人全部集めて。
病気じゃない人と隔離して。
いやいやいやいや、焼かねえよ。
焼くくらいならわけねえからさ、心配すんな。
そうそう、ちょっとな。
原因なんとかしないと解決にはならんが、
死なないようにはな。それくらいなら。
エイヤ トウ ぽわわわわわ(効果音)
よし、これで少しは大丈夫じゃな。
あの日のことを、村の誰も忘れられない。
渇水でため池は干上がりかけ、疫痢で子どもが次々倒れ、
村はもう終わりだと誰もが思っていた。
そんなときだった。
空が裂け、光が走り、何かが落ちてきた。
次の瞬間、水柱が上がった。
「……坊主だ……!」
村の唯一の水源に、頭から突っ込んでいた。
怒号が飛び、絶望が広がった。
だが、その坊主は泥まみれのまま立ち上がり、
ため池の水を指先で触れ、静かに言った。
「……疫痢だ」
その一言で、村の空気が変わった。
怒りが爆発しようとした瞬間、
坊主は片手を上げた。
風が止まり、空気が震えた。
胸の奥に響くような“音にならない響き”が広がり、
誰も声を出せなくなった。
坊主は村へ向かって歩き出した。
「案内せよ。病の者のところへ」
逆らえなかった。
村に入ると、坊主は患者を一目見ただけで言った。
「病の者と、そうでない者を分けよ。
隔離せよ。急げ」
その言葉に、村人たちは凍りついた。
「……焼くのか……?」
誰かが震える声で言った。
疫病の者を焼くのは、この土地の“最後の手段”だった。
坊主は振り返り、淡々と言った。
「焼くなら、そもそも分けぬ。
分けるのは……生かすためだ」
その一言で、村人たちの膝が抜けた。
焼くための隔離ではない。
救うための隔離だ。
患者が集められると、坊主はその中心に立ち、
両手を合わせた。
「救いきれぬ。だが、死なせはせぬ」
低く、深い響きが空気を震わせた。
患者たちの呼吸がわずかに整い、
苦しげだった顔が少しだけ和らいだ。
完全に治ったわけではない。
だが、死の淵から一歩だけ戻った。
村人たちは息を呑んだ。
「……助けた……?」
「いや……まだだ……」
「じゃあ……どうすれば……」
坊主はため池の方角を振り返った。
「原因は水だ。水脈が腐っている。
病を断つには、まず水を正さねばならぬ」
その背中を、誰もが見つめた。
あの日、空から落ちてきた泥まみれの坊主を、
村人はこう呼ぶようになる。
――空海さま、と。
第三十六話
東京って いまは まだ ない
というか ぬまじゃんここ
おわり
次回 第三十七話
水を探せ
ダウジンガーに おれはなる!




