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第14話:無限人のアイドル・前編

「「「「「「「良太~♪」」」」」」」「「「「「「泊まりに来たわ~♪」」」」」」」

「「「「「「「良太~♪」」」」」」」「「「「「「泊まりに来たわ~♪」」」」」」」


 音響装置が壊れて暴走するかのように、同じ声が次々と間断なく響き渡る――そんな光景が、『無限旅館』の駐車場から建物にかけて延々と続いていた。

 バスの中から降り続けるのは、全く同じ姿形をした美女の大群。

 全員とも艶やかな長い黒髪をたなびかせ、フリフリのアイドル衣装を身に着け、笑顔で旅館の建物めがけて押し寄せ続けていた。

 そして、玄関を入った先にある無限の空間もまた、際限なく押し寄せる無数の彼女の大群で溢れかえっていた。


「せ……狭いっ……!!」


 ラッシュアワーの満員電車よりも混雑する空間の中で、良太は無尽蔵の女体の中で悪戦苦闘していた。

 何とか駐車場から玄関へ案内したのは良いが、後から後からやってくる彼女たちの勢いに完全に呑み込まれ、身動きするのも一苦労の状態になっていたのだ。

 しかも、その『美女』たちの姿は、良太にとってあまりにも見覚えがあるものだった。

 当然だろう、『無限旅館』を貸し切る形で次々にやってくる客は、全員とも彼の母であり、アイドルとして一世を風靡したという関本(せきもと)美門(みかど)だったのだから。

 

「うふふふふ♪」うふふふふ♪」うふふふふ♪」うふふふふ♪」うふふふふ♪」うふふふふ♪」うふふふふ♪」うふふふふ♪」…


 前後左右どこを見ても、アイドル衣装に身を着け、魅力を全開にさせている母の大群。

 あまりにも無茶苦茶な空間の中で、良太はあっという間に大量の母によってぎゅうぎゅう詰めになってしまい、恥ずかしがったり興奮したりする暇もないまま圧倒されてばかりだった。


 一方、そんな彼とは対照的に、無数の女将=仙台千代たちは、そう言った状況に慣れている事を示すような優雅な仕草を見せながら、果てしなく押し寄せる良太の母を相手に笑顔で業務をこなし続けていた。


「「「「お客様、お名前をどうぞ♪」」」」「「「「関本美門です♪」」」」

「「「「お客様、お名前をどうぞ♪」」」」「「「「関本美門です♪」」」」

「「「「お客様、お名前をどうぞ♪」」」」「「「「関本美門です♪」」」」

「「「「お客様、お名前をどうぞ♪」」」」「「「「関本美門です♪」」」」…


 フロントにずらりと並んだ女将たちと次々に押し寄せる無数の良太の母によるチェックインのやり取りが、果てしなく繰り広げられていた。

 濁流のような無数の母の肉の海の中でその様子を何とか垣間見た良太の耳に、大量の女将たちによる指示の大合唱が響いてきた。


「「「「「「「それでは良太さん、お客様をお部屋に案内してください♪」」」」」」」」


 その声が聞こえた途端、良太の周りを取り囲みながら数を増やし続ける母たちが嬉しそうに語り始めた。


「「「「「「まあ、良太が案内してくれるのね♪」」」」」」「「「「「「お母さん、とっても嬉しいわ♪」」」」」」」

 

 歓迎の声で埋め尽くされる中、良太は母の濁流に半ば巻き込まれるかのように、夥しい数の『客』の誘導へと向かった。


「え、えーと、10029号室はこちらです……!299484728号室はこちらの突き当たりになります……!それから3948587582号室は……!」


 有限の喉を張り上げ、有限の足で歩き続けながら、彼は大量についてくる母たちを何とか捌き続けた。

 その度に、大量の母は満面のアイドルスマイルを見せながら、耳元で何百、何千、何万もの甘い声を囁き続けた。

 

「「「「うふふ、ありがとう、良太♪」」」」「「「「「良太が頑張っていてお母さん安心したわ♪」」」」」「「「「「「「良太、素敵よ♪」」」」」」

 

 夥しい数の母による『母性愛』の前に、良太は成す術もなく前進を気恥ずかしさや僅かな嬉しさで真っ赤にするしかなかった。

 それでも、彼は何とか『無限旅館』の一員である、という使命感を燃料として、必死に対応を続けた。


 だが、ふと窓の外の光景を見た彼の視界に飛び込んだのは、更なる衝撃の光景だった。

 斜面の下にある駐車場に、途方もない数のバスが果てしなく並び、更には霧の向こうまでバスの車列がどこまでも続いていたのだ。

 そして、その全てのバスに、アイドル衣装に身を包み満面の笑顔を見せる母=関本美門のラッピングで覆われていた。

 やがて、バスの入り口が開き、その中からラッピングとして貼られた写真と全く同じ衣装に包まれた、全く同じ笑顔、全く同じ姿形をした良太の母の大群が次々と降りてきた。


「「「「「「「良太~♪」」」」」」」「「「「「「泊まりに来たわ~♪」」」」」」」

「「「「「「「良太~♪」」」」」」」「「「「「「泊まりに来たわ~♪」」」」」」」

「「「「「「「良太~♪」」」」」」」「「「「「「泊まりに来たわ~♪」」」」」」」

「「「「「「「良太~♪」」」」」」」「「「「「「泊まりに来たわ~♪」」」」」」」


 『無限旅館』の周りを覆う霧や森の中に響き渡る無数の母の声。視界一面を埋め尽くしながら旅館の建物へと押し寄せる笑顔の海。

 駐車場はあっという間に夥しい台数のバスと、それ以上の数の『アイドル』の大群で覆い尽くされてしまった。

 

 その光景に唖然としている良太の傍に、次々に増え続ける母とは別の存在――緑色の着物に身を包んだ女将、仙台千代が現れた。


「あらあら、素敵な光景ですわね♪」

「す、素敵って……。いやいや、女将さん、こ、これって……!」


 すがるように彼が視線を向けた先で、女将は相変わらずの温和で涼しげな微笑みをたたえていた。


「良太さん、先程も申したでしょう?『無限人』のお客様、『関本美門』様による団体様から、この旅館を貸し切りたいっていう予約が入りました、とね♪」

「そ、それは分かってますよ、無限人のお客さんだって事は……。でも、なんでそれが全員俺の母さんなんですか!?!?」


 混乱の声を上げた良太に返事をしたのは、彼の傍にいた女将ではなく――。


「「「「「「「うふふ、良太、アイドルには秘密がいっぱいなのよ♪」」」」」」」」」」


 ――絶え間なく数を増やし続けている、彼の母たちだった。


 旅館の玄関、廊下、階段、部屋、ロビー、バルコニー。どこを見ても、そこにいるのは緑色の着物を身につけた女将と、フリフリのアイドル衣装を自信満々に身に着けている良太の母だけ。

 どこまでも広がる『無限旅館』は、無限に数を増やし続ける2種類の美女によってびっしりと覆い尽くされていた。

 そして、たった1人だけ『彼ら』と異なる存在となってしまった良太は――。


「ど、ど、どうなってるんだあああああ!!!」


 ――再度の絶叫を、無限に広がる天井へと響かせたのだった……。

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