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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

兄弟悲劇

作者: チャッピー 設定そるた
掲載日:2025/11/26

チャッピーにお願いして話をまた書いたよー

【Ⅰ:兄と弟】


みなとは、生まれたときから「弱いほうの兄」だった。

能力も要領も悪く、どれだけ努力しても、弟のりょうには敵わない。

周囲もそれを当然のように扱い、

「弟のほうが優秀だね」「兄なのにね」

と無邪気に比較した。


それでも遼は兄を馬鹿にしなかった。

むしろ執拗なまでに側に寄り添った。


『兄さんは僕がいないと駄目だから』


それは慰めではなく、事実を確認する声のようだった。

湊はその言葉を否定できなかった。

ずっと、遼がいないと生活できなかったからだ。


家事、外とのやり取り、進路、収入管理。

遼はすべてを代わりにやった。

気づけば湊は「弟の庇護なしでは動かなくなる大人」になっていた。


【Ⅱ:小さな外の世界】


二十代半ばになり、湊はアルバイトを始めた。

遼に否定はされたが、「自立したい」という曖昧な願望が湧いたのだ。


職場は小さなコンビニ。

湊は不器用ながら、一つのレジを任されるようになった。


そこで、唯一世話を焼いてくれた同僚の女性がいた。


「湊くんってさ、弟さんの話になると変な止まり方するよね」

「大丈夫? 兄弟仲……“普通”じゃなさそう」


湊は笑ってごまかした。

誰にも相談しようとしなかった。

相談すれば、遼が傷つくと思ったから。


しかしその“よくない違和感”は、彼女の中で膨らんでいった。


【Ⅲ:すべてを奪われる日】


ある日、湊が出勤しようとすると、店長に呼び止められた。


「例の件、了解したから。身体大事にね」


“例の件”?

湊は理解できなかった。


店長は言う。


「弟さんから連絡あったよ。

もう働けないって。辞めたいって。

ほら、君のスマホ番号、繋がらなかったしね」


湊はその場で固まった。


帰宅すると、テーブルの上に湊のスマホが置かれていた。

SIMカードが抜かれている。


遼は何も悪びれずに言った。


「兄さんは僕と一緒にいないと不安になるくせに。

外の世界なんて向いてないよ。

僕のほうが兄さんの幸せを分かってる」


湊の胸がざわついた。

“これは間違っている”という感覚。


「やめてくれ……遼。僕は……自分で……」


「無理だよ。兄さんは、一人じゃなにもできない」


遼は淡々としていた。

その平坦な声が、湊の背筋を凍らせた。


【Ⅳ:閉じ込め】


その夜、湊が風呂から上がると、

玄関の鍵が新しいものに替わっていた。

窓には補助錠。

外へ通じるあらゆる道が塞がれていた。


遼はソファに座り、こちらを見上げた。


「ねぇ兄さん、外に出ようとするから悪いんだよ」


湊は震えた。


「これは、犯罪だ……やめろ、遼……」


「兄さんは僕のものじゃないの?

僕だけが兄さんを理解してるのに」


遼の目は、情ではなく“観察者の好奇心”で濡れていた。


湊は悟った。

遼は兄が好きなのではなく、

兄という存在そのものの反応を“観察する対象”として愛しているのだと。


【Ⅴ:逃げようとした夜(抽象表現)】


湊は逃げようとした。

バールのようなものを持つわけでもない、ただ必死で。

窓の補助錠を壊そうとして、物音を立ててしまった。


遼が後ろから腕を掴む。


「兄さん、逃げないでよ。

僕は兄さんのためにここまでしたのに」


言葉は通じない。

湊は初めて“力”で遼を振り払おうとした。


狭い部屋で、二人はぶつかり、倒れ、

家具が倒れ、息が荒れ、

互いに必死で――


――その瞬間のことだけ、湊は思い出せない。


気がつくと、遼は床で動かなかった。


湊の手は震え、壁に縋って立つのがやっとだった。


【Ⅵ:取り調べ】


薄暗い取り調べ室。

机の向こうで刑事が湊に問いかける。


「湊さん。弟さんを殺害したのは、なぜです?」


湊は喉を押さえたまま答えた。


「ち、違う……違うんです……

 逃げようとしただけで……

 僕は……僕は悪くないのに……

 遼が……遼が……」


刑事は静かに紙を置く。


「弟さんは、あなたを閉じ込めていたのでは?」


湊は激しく首を振る。


「違う!!

 遼は……

 遼は僕を……観察していただけで……

 僕を……愛して……

 あ、あれ……?」


声が崩れていく。


机の下で震える手。

視線は焦点を失い、

湊はぽつりと呟いた。


「……遼、後ろにいるんだよね……」


【Ⅶ:最悪の余生】


退院した湊は、施設の小部屋で暮らしている。


自分の影が伸びると、その隣に“もう一つの影”が揺れた。

夜になると布団の隣が沈み込み、

誰かが囁く声がする。


『兄さんは僕なしじゃ生きていけないよ』


湊はこわごわと頷く。


「うん……わかってる……

 遼……もう離れないよ……」


窓ガラスに映る自分の肩越しに、

亡くしたはずの弟が微笑んでいた。


現実の遼はもういない。

けれど湊の世界では、

遼は永遠に古びない。


逃れられない。

忘れられない。

終わらない。


そして、湊が死ぬその日まで――

二人だけの世界は壊れたまま、閉じたままだった

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