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「それで?両親の知り合いが僕にどんな用事ですか?」
「実はな。お前のスキルを活かして人助けをしてもらいたいんじゃ」
「ひ、人助け?こんなスキルでどうやって?」
雨の中、路地裏を歩いていた僕たち。
おじいさんは廃れた酒場のような場所に入ってそんなことを言った。
僕のスキルで人助け?
僕のスキルでこのスキルでどうやって人を助けるんだろ?
「そんなこと、どうやってやればいいんですか?」
「この前の話だ。モンスターに身体の半分を乗っ取られて言葉を喋れなくなった半魔半人の男と出会ったのだ。そこまで言えばわかると思うが、お主にはソイツがなにを考えているのかを教えてほしいのだ」
「な、なるほど……そうなんですね?」
なんとなくしかわかっていないけど、それなら納得だ。
半魔半人っていうのは魔族になりかけている人間のことだ。
人によってはそのまま魔人になってしまうこともあるらしい。
「その人って、おじいさんの知り合いなんですか?」
「そうだな。ワシの知り合いだ」
「その人がなにを考えているのかを教えてほしい……なるほど……」
そんなことでいいなら僕も手伝いたい。
この人もきっと信用できる人のはずだ。
でも、なんでさっきから心の声が聞こえてこないんだろ?
普通だったらこんなに対面してたら一回ぐらいは聞こえてそうなのに。
「どうする?やってくれるか?」
「はい。わかりました。でも、いつですか?」
「それはお主の予定が合うときでいい。ただ、もしかすると魔族になってしまうかもしれぬからできる限り急いでくれよ?」
僕はこの話に乗ることにした。
というよりも断る理由なんてどこにもないように思えた。
僕のスキルなんて、無駄なスキルだと思っていたから。
「じゃあ、次の休みがある日にします」
「そうか。協力してくれて助かる」
「あの、この日になるんですけど……」
僕はカレンダーを見せながら会話をする。
それで半魔半人の人と会うことがすぐに決まった。
心の準備をしておかないといけないな。
「話ってこれで終わりですかね?もし終わったようだったらもう帰宅してもいいですか?」
「まぁ、そうだな。しかし、もうちょっと話さないか?せっかく久しぶりに出会ったんだ。それに、正直な話をするとまだ足りないんだよ」
「足りないってなにがですか?」
「あえて言うなら文字数かな。まぁ、お前には関係がない話になってしまうな」
なんの話をしているのかはわからない。
でも、せっかく出会ったんだし、話をするのはいいと思う。
僕も、一回くらいはこの人の心の声を聞いておきたいし。
「僕の両親って昔はどんな感じだったんですか?いきなり聞いちゃいますけど」
「そうだなぁ。とっても仲間思いのいいヤツだったよ。だからこそ君もいい人に育ったんだろうな」
「いい人だなんてそんな。僕なんて本当に大した人間じゃないです」
昔の両親の話なんて聞いてもいいのかな。
他人のプライベートを覗いているようか感じがした。
でも、それはしょうがないことではあるよね。
そもそも僕は二人の心の中も勝手に見えちゃうんだしさ。
「そうだ!言い忘れていたが、今回のこれには報酬を支払わせてもらうことになっている。そもそもワシ自体が他人からの依頼でこうしているわけだからな。まぁ、他人といってもかなり近しい存在からではあるがな」
「報酬?いいんですか?」
「当たり前じゃろう?休みを返上して働いてもらうというのだから、それぐらいはあって然るべきだろう」
やっぱり人には優しくするもんだと思う。
報酬がもらえることはとても嬉しい。
でも、どれくらいもらえるのかな?
まぁ、それは後ででもいいか。
「もうそろそろ大丈夫そうだな。よし、それでは次は半魔半人と話す日に会おう。よいな?」
「わかりました。今日は本当にありがとうございました」
「なぁに。別に気にすることではない。むしろ感謝をしなければいけないのはこっちの方だ。ありがとう」
おじいさんから頭を下げられると不思議な気持ちになる。
俺が働いてるホテルはほとんどが冒険者だ。
だから、あんまり他人に親切にされることもなかった。
「それではまたな。今度会ったときにはなにか他の話もしてみてもいいかもしれない」
「他の話?」
「実は他にもお願いしたいことがいくつかあるんだ。それを受けてくれたらこっちとしても助かる」
なにか他にもお願いがあるらしい。
俺みたいなのが役に立てるならなんでも言ってほしい。
役立たずなんだ、根本的に。
「さらば!尺の都合で少し蛇足の話が増えたな!また会おう!」
「また会いましょう、あ、名前は?」
「名前なんて名乗るもんでもないわい。それではな」
名前を名乗ることもなくおじいさんは去っていった。
この廃れた酒場で一人取り残されることになる。
それにしても、なぜか聞こえなかったな。
これだけ話しているのにどうして一回も聞こえなかったんだろう。
聞きたいと思ったときに限って聞けないのだから不便なスキルだ。
まぁ、今からこれを使って人助けをするのだ。
それを考えたら悪いものでもない。
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