47:ウィズベリア・フォン・リッテンベルンですわ
聖氣の盾を展開しながらリッテンベルン宰相が占拠している鍛冶ギルドの壁を突き破るとドンガラガッシャンという盛大な音と共に砂埃が舞い上がりまして……何かしらの結界が張られていた部屋の中には薄気味悪い瘴気が漂っていたのですが、こちらを舐め回すような奇妙な圧迫感はゼブルスが放つ気配と酷似していました。
(なぜこのような場所で…というのは後回しですわ!)
ホールのような場所の真ん中には肉片がこびり付いている拳大の黄色い結晶が浮かんでいたのですが、その横には腋の開いた全身タイツの上にコルセットのようなビスチェタイプのマーメイドドレスを着ている女性がいまして……。
「リッテンベルン宰相って女性でしたの!?」
何となく腹黒で切れ者の男性というイメージがあったのですが、目の前に居るのは疲れきったOLみたいな雰囲気を醸し出している170センチくらいの女性がいるくらいで……その周りには親衛隊っぽい黒騎士達が居るので多分彼女がリッテンベルン宰相で間違いがないのでしょう。
「威勢が良いのが飛び込んで来たみたいだけど…聖勇者と竜滅の騎士…だよね?ようこそと言うべきなのかな?まあ…どうでも良いんだけど」
引き笑いのような表情を浮かべている女性は枯れ木のような杖を弄びながら1メートルくらいの肉塊に腰かけていたのですが、ボワボワと広がる灰白色 の髪の間から覗く死んだ魚のような瞳で私達を眺めてきているだけですし、仕掛けるのなら今がチャンスなのでしょうか?
(最低限の護衛を残して鉱山側の異変を調べに行かせているのかもしれませんが、私達にとっては好都合すぎますわ!)
大剣とタワーシールドを構えたアンジェリカが黒騎士を蹴散らしながらリッテンベルン宰相に向かって斬り込んでいますし、私も遅れてはいけないと思ってインペールを取り出し護衛の黒騎士に斬りかかったのですが、やや紫がかったパワーアップ版の黒騎士は下から掬うような一撃を後ろに下がって避けてしまいました。
(動きが速い…の、です…が、それでも!)
咄嗟の戦闘になったので相手は剣を抜いただけで構えていませんし、私は短くなった剣先を補うためにも踏み込みながら聖氣の盾を押しつけて相手のバランスを崩すのですが、そのまま距離を詰めながら横薙ぎにインペールを叩き込んでおきました。
(特訓の成果が出ました…が、アンジェリカの方は?)
踏み込んだアンジェリカに視線を向けるとリッテンベルン宰相を無力化しようと枯れ木のような杖に向かって大剣を振るうところだったのですが、宰相が座っている肉の塊がヌルリと動いたかと思うと軽々と斬撃を受け止めてしまい……。
「リッテンベルン宰相、貴女には聞きたい事があります…が、あくまで抵抗をするというのならこのまま拘束させてもらいます!」
「おー…そう?」
リッテンベルン宰相が「やれるのならやってみたら?」みたいな感じで笑うとズズズっと部屋中の聖氣が吸収されたような感じがしまして……展開していた聖氣の翼と盾が薄れて消えてしまったのですが、ベルザの地下に配置されていた肉塊の植物もリッテンベルン宰相が作った物でしたし、彼女が腰をかけている肉塊や部屋の中央で浮いている結晶には魔力や聖氣を吸収する力が与えられているのかもしれません。
(少しばかり厄介な能力です…が、これくらいなら…って、ひっ!?)
アンジェリカだけに任せる訳にもいかないと距離を詰めようとしておりますと、黒っぽい何かが割り込み首筋を狙って来まして……咄嗟にインペールで防ぐのですが、上半身に意識が向いている間に滑り込んで来た紐のような物が足に絡んで逆さまに吊り上げられてしまいました。
「少しは動けるようになっているみたいだけど…僕達の相手をするにはまだまだっスね、っていうかあれだけ暴れ回っていて気づかれていないと思っていたんっすか?むしろそっちの方が驚きというか…本当に飛び込んで来るとは思っていなかったというか」
「ノアさん!?」
完全に姿を消していたので気づくのが遅れてしまったのですが、巨大な大鎌を担いだ片メカクレの女の子が影のようなスカートを伸ばしてきていまして……そりゃあ帝国側にも知恵の働く人が居るでしょうし、ノアさんのような隠密行動が得意な人が暗躍をしていたのなら私達の狙いくらいは丸わかりだったのかもしれません。
「って、ちょっと、相変わらず騎士様は喧嘩っ早いっすね、今日はただのメッセンジャーなんで…なかなかアリシア達が来ないからって帝都とジオルドを行ったり来たりで…なのに斬りかかって来るって、マリエラの教えはどうなっているんっすか!?」
「都合よく教義を騙らないでいただけますか?マリエラ教では愛する者や守るべき者の為に戦う事を否定しておりませんし、どうにも貴女とは馬が合わないようで…と、いうわけで、さっさとアリシアを解放してください!」
とはいえまさかこんな所で再会するとは思ってもいませんでしたし……とか考えておりますと、アンジェリカがリッテンベルン宰相の肉塊に取り込まれていた既製品を手放してから新しく取り出した二本目の大剣でノアさんに斬りかかっていたのですが、相変わらずやる気が無さすぎるノアさんはされるがままに防いでから捕えている私を手放してくれました。
「あ、ありがとうございます、ですが…」
「ええ、厄介な事になりました」
放り出されてしまった私をアンジェリカが受け止めてくれたのですが、まさかこんな所でリッテンベルン宰相とノアさんの2人を相手にしなければいけなくなるとは思ってもいなくて……これもリッテンベルン宰相の作戦という奴なのでしょうか?
「元気なのは良い事なのかもしれないけど…止めなさい、飛び込んで来てくれるかは五分と五分…賭けに勝ったのは私達、ようやく来てくれたからこれで動ける」
なんて様子を窺っておりますと、意味の分からない事を言いながらリッテンベルン宰相が部屋の真ん中で浮かんでいた肉片付きの結晶に魔力を流しまして……ドクンと空気が揺らいだかと思うととんでもなく嫌な予感が広がり冷や汗が流れるのですが、薄気味悪い光を発した結晶が周囲の魔力を無尽蔵に吸収し始めたかと思うとこびり付いている肉片がボコボコと巨大化していきました。
「何をし…って、これ、は!?」
肉塊の巨大化に合わせてゼブルスの気配が溢れ出して来るのですが、聖氣で吹き飛ばそうにも生半可な力では吸収されてしまい……質量のあるヌルリとした瘴気が肌に張り付き泥沼にでも嵌ってしまったように体が重くなってしまいます。
「これは…まあ、鉱山から採れる鉱石を精錬して濃縮してを繰り返して作った爆弾で…制御用の肉片に邪竜の因子を埋め込んだ物なんだけど、この辺りの地脈と繋がった後に大爆発、邪魔者と一緒にこの辺り一帯を吹っ飛ばすっていう代物で…このヌメリは因子が強くなってきた事で干渉できるようになってきたからだと思うけど、本当にどこにでもホイホイと…心を強く持たないと精神が蝕まれちゃうから、まあ…頑張って?」
なんて苦虫を嚙み潰したよう顔でリッテンベルン宰相が懇切丁寧に説明をしてくれるのですが、とにかく核となっている黄色い結晶をなんとかしないとジオルグ山脈全域を巻き込むレベルの大爆発を引き起こしてしまうという代物なのだそうです。
(なんとかしないと…なの、です…が、これ、は)
質量を持ったゼブルスの意思が容赦なく私達の身体をまさぐっておりまして、お尻を撫で回したり汗ばんで湿った割れ目をスリスリされているだけで不快感が大変な事になってしまいますし、布面積の少なすぎる下着の上からクリ〇リスを引っ掻くように弾かれると甘い息が漏れて身体が反応してしまいます。
「アン…?」
「ぐっ、ぅう…だ、大丈夫です、これ、くら…ぃッ!?」
私は得体の知れない瘴気擬きに絡みつかれて大変な事になっていたのですが、アンジェリカの方に視線を向けてみるとヌルヌルと絡みついた瘴気擬きが凛々しい肉棒を包み込むように扱き上げていまして……出っ張りに引っかかるようにクチュクチュとされているアンジェリカの膝が笑っていたのですが、振り払う事も出来ないので心を強く持って耐える事しか出来ませんわ。
(リッヘンベにゅん宰相によると、耐えなければひけないの…です、が…おかしい、ですわ…この瘴気擬きの触り方がエッチ…なのですが、それだけでは説明できない気持ち良さがありっ、あり…ますわ!?)
まるで直接性感帯を弄られているような気持ちの悪さがあるのですが、容赦なく入り込んできた瘴気擬きに掻き混ぜられながらだと息が上がって頭が回りませんでした。
「そっちは、駄目…ですわっ、おっぱい…は、よわ…ぁああっ、ムニュムニュしながら、摘ままれたら…ひぃああぁあっ、あぁっあぁああっ!?」
私の弱点を探り当てた瘴気擬きが弱い所を責め立てると戦うどころではなくなってしまうのですが、溢れた聖乳が吸われるとブヨブヨと肥大化した肉塊が成長していってしまい……。
「こんな、物を…爆発、させた…らっ、はっ、ぁああっ、私達、だけっ…では、なく…貴方達まで、大変な事にっ、なり、なりますわよッ!?」
いくら魔物達の比率が多いといってもごく普通の帝国兵も居る訳で……そんな人達が居る場所を吹き飛ばそうとしているリッテンベルン宰相の考えがわからないのですが、絡みついて来る瘴気擬きが邪魔すぎて詰め寄る事も出来ませんわ。
「それが…そんなモノが、重要な事なの?少なからず私にとっては価値の無いもの…万のゴミ屑を消し飛ばしてもたった1人を救う事が出来たらそれで良いの、だから貴女達にもきょ…てもらうだけ」
私の叫びに対して返って来た言葉はどこか気だるげでありながらも確固たる信念のもとに動いているという決意が漲っているのですが、リッテンベルン宰相達の目的がゼブルスを復活させる事だったら私達に構わずを最後の欠片が眠っているというファティエラに攻め込めば良いだけですし、聖勇者をおびき出して殺したいのならさっさと止めを刺せば良いだけです。
(この人は…何を考えておりますの?)
やっている事の割りには思い切りが足りないと言いますか、「協力してもらうだけ」なんて事を言いかけたリッテンベルン宰相の真意がわかりませんし、まだまだ利用価値がありそうなジオルグ鉱山ごと爆発させる理由もよくわからないのですが……語る気がないのか気だるげに息を吐いてから会話を中断させました。
「それじゃあ…ここでやらないといけない事は終り、そろそろ帝都に戻らないと…仕事が山積みだから」
埋め込んだゼブルスの因子が一定以上の大きさまで成長したのを見届けた後、愛憎渦巻く奇妙な表情を浮かべたリッテンベルン宰相がフワリと浮かび上がりました。
「え、ちょっと、置いて行くのは酷くないっすか?頑張って働いている部下に労いの言葉というか、一緒に運んで行ってくれても罰は当たらないと思うんっすけど?」
「別に…働いてはいないでしょ?手を抜いている事はわかりきっている…それとも何?人形ごときが私に歯向かうっていうの?じゃあ…選びなさい、今消えるか、万が一の可能性に賭けるのか…大丈夫、消し飛んだとしても私の力で蘇らせてあげるから…まあ、無事に復活できるかはわからないけど、これ以上の会話は無駄で、貴女はここで見届け役をまっとうする…いい?」
あっさりと爆心地に残れと命じるリッテンベルン宰相の口ぶりから考えると何かしらの脱出手段があるという訳でもないようですし、取り残されてしまうノアさんが途方に暮れながら考え込んでしまいました。
「ぐっ、わ…わかったっす…宮仕えの身としてはお偉いさんの命令を聞かない訳にはいきませんし、しょうがないっス…ね」
「って、そんな簡単に…貴女もそれでいいんですか!?このままじゃあ…待ちなさい、貴女にはまだ聞きたい事が!?」
無茶苦茶な命令にも従おうとしているノアさんなのですが、いくら何でも扱いが酷すぎますわ!
「私には話したい事もないし…そう、ね…もし生き延びる事が出来たらお話をしましょう?それまでは…まあ、それよりも、そろそろソイツも動き出すと思うわ」
立ち去ろうとしていたリッテンベルン宰相がブヨブヨとした肉の塊を示すと天井を突き破る勢いで巨大化していた肉塊が細身のドラゴンみたいな形に纏まっていくところでして、ドロドロと溢れた肉塊の表面には薄気味悪い皮膚が形成されていますし、広げた蝙蝠のような被膜には核となる結晶から流れた魔力が奇妙な模様を描いておりまして……。
「GYUAUAAAAAAxxx!!」
如何にもドラゴンゾンビといった見た目の化け物が濁った眼で私達を睥睨しながら翼を広げ……衝撃波にも似た雄叫びと瘴気を撒き散らしながら襲い掛かってきました。




