46:ジオルグ解放作戦ですわ
歩いて踏破する場合は20日ほどかかるといわれているジオルグ山脈の表玄関といえるような場所にある鉱山と鍛冶の街、帝国に制圧されるまではドワーフ達が住んでいた背の低い石造りの家屋が理論整然と建ち並んでいるジオルドに滞在中のリッテンベルン宰相を押さえる事が出来たら芋づる式に女帝の企みを暴く事が出来るのかもしれません。
(あまり積極果敢に挑んでくるような方ではないという事ですが…ここで逃げられる訳にはいきませんわ)
リッテンベルン宰相は恐るべき闇魔法の使い手として知られているのですが、帷幕の中で策をめぐらすタイプのようですし……襲撃に気付いたらそそくさと逃げ出してしまう可能性があるのだそうです。
(現場指揮官として出てくるか、安全な場所まで退避をするのか…運否天賦に頼る訳にはいきませんわ)
因みに作戦の流れとしては三手に分かれる感じでして、ドワーフさん達が率いる主力チームが鉱山で酷使されているという人達を助けに行きまして、酷い目に合っている女性達に屈強な男性陣が押し寄せるのもどうかという事でルルさん達が救出に向かい、そして遊撃戦力である私とアンジェリカが可及的速やかにリッテンベルン宰相を押さえるという手筈になっていました。
「おお、こんな所におったんか…どや?準備の方は大丈夫か?」
「ええ、大丈夫ですわ…って、ルルさんその大荷物は?」
なんて事を考えておりますと、金属の板のような簡素な手斧を大量に詰め込んだリュックを背負っているルルさんが近づいて来まして……ゴテゴテとした魔導機械がくっついている2メートルくらいのハルバードも持っていますし、金属製の帽子に革製の胸当てに識別用のサーコートという物々しい装備に驚いてしまいました
「これか?これは…助け出した奴らに配る武器とかウチの新兵器とか…まあ色々やな」
「ああ、なるほど、そういえばそんな話をしていたような気がしますが…本当に大丈夫なのですか?捕まっている人達は衰弱しきっているという話でしたが」
私達だけでは人手が足りないので助け出した人達にも戦ってもらおうという話でして……かなり無茶苦茶な作戦だと思うのですが、何をするにしても手ぶらのままでは心許なさ過ぎるから武器を配る予定なのだそうです。
「アリシアのおかげで良い感じの気付け薬が作れたからな、効果は保証するし…死にかけていても何とかなるんちゃうか?」
とかなんとか言いながら大きめの瓶に詰め込まれているミルク味の飴玉を見せてくれたのですが、その原材料には何となくの心当たりがありまくりまして……妙な嫌悪感が湧き上がって来てしまうのはどうしたものなのでしょう?
(あくまで混ぜ込んだだけのようですし…気にしたら負けという事にしておきますわ)
既にポーションの原材料として使われてしまったという過去があるのでこれも人助けだと諦める事にしまして……ルルさん達が掴んでいる情報だと10万人くらいが無理やり鉱山で働かされているようですし、それだけの人数を治療する為の薬品替わりの物が必要だったのかもしれません。
(まあそれくらいの人数が居た形跡があるというだけで…生き残ってくれているといいのですが)
因みに10万人と聞いたら物凄い人数に思えてくるのですが、これでも最盛期の4分の1程度ですし、山脈全体に広がっている人数なので密度的にはそれほどでもないのだそうです。
なのでジオルドと隣接している主力の鉱山に居る人達は6万人ちょっとくらいで……その内の半数近くが作戦に参加してくれたら長期的な持久も出来なくはないといった感じですし、ルルさん達の予想では1万人から2万人、最悪の場合は数えられるほどの人数しか残っていないのではないかという話でした。
「まあそれは…ウチらが何とかする事やらからいいんやけど、あんたを探していたのには別の理由があってな」
なんて事を言いながらルルさんが取り出したのは紐がついている三角形の金属板でして……。
「じゃじゃーん、新型ルル結晶による強化魔導アーマーや!これをつけるだけで出力が数倍に跳ね上がるっていう優れものや!」
「却下です!却下!絶対に装備しませんわ!?なんで決戦時にビキニアーマーなんて着ないといけないんですか!」
何故か自信満々で持って来られた物がルル結晶つきのビキニアーマーでして、そんな物を着用していたらまともに戦えませんわ!
「なんでや!?データ収集のチャンスが…じゃ、なくて…パワーアップアイテムやのに!?それにそこまで見えてたら今更やんか!皆でヒートアップでハッスル間違いなしやで!?」
「間違いなしって…余計に嫌ですわ!?この服はこういうデザインだから仕方なく着ているだけで…それにこんな一大決戦でデータを取ろうとしないでください!」
「ぐぅうう、しゃーないなー…じゃあこんなのはどうや?」
とか言いながら出して来たのが妙にゴツゴツとした全長40センチくらいの湾曲した棒状の物でして、直径は5センチ程度、その両端にはツルリと磨き上げられて反り返ったルル結晶が取り付けられていました。
「細剣の調子が悪いんやろ?だからちょっとした補助具っていうか、まあそういう名目の品というか…な?」
「な?と言われましても…警棒代わりに使うには曲がり過ぎていますし、投擲武器…という感じでもありませんのよね?」
緩いブーメランみたいな形状ですし、振ってみるとルル結晶以外は高質なゴムみたいな質感なのですが、この珍妙な物体は一体全体どのようにして使う物なのでしょう?
「もう、いちいち説明させんといてや!それはこう…股の所に入れてズッコンバッコンって」
言いながら腰を振って見せるルルさんなのですが、何でこんな物を作っているのかが理解不能ですわ!
「だから何でよりによってそういう用途の道具を一大決戦前に作っているんですか!?というよりこんなのを使う気はありま…せん!」
断ろうとした瞬間、一瞬だけアンジェリカの顔が思い浮かんでしまったのですが……コレを付けた私がアンジェリカとズッコンバッコン?す、すごく気になりますが、流石にアブノーマルすぎてどうかと思ってしまいますわ!
「にひひ、まあ神躯持ちの方が気持ちいいみたいやし、返されても困るさかい…テストに付き合ってくれたお礼の品っていう事で?」
「ちょ、ちょっと待ってください…こんな物を渡されても、ねえ!」
そんな事を言いながら持ち場に戻っていくルルさんなのですが、両端に取りつけられている反り返ったルル結晶が良い感じに当たるように調整されているといいますか、振動が奥の方に響いて来るのが癖になってしまう逸品のようで……。
「ああ、こんな所に居たのですね…そろそろ時間ですが、どうしました?」
「ったく、またルルの奴が面倒事を押し付けているんじゃねーだろうな?」
「ひゅぃっ!?な、なんでもありませんわ…激励とか?とにかくそういう感じですわ」
なんてルルさんにおかしな道具を押し付けられておりますと、鉱山側の打ち合わせをしていたアンジェリカと重装備を身に着けたドワーフさん……ルルさんの知り合いのドワーフさんなのですが、そういえば名前は何というのでしょう?
まあ今更聞くのもどうかと思いますし、これからもドワーフさんで通す事にするのですが、驚きすぎてルルさんから渡された双頭ディ〇ルを収納魔法で仕舞い込んでおきました。
(何でこんな物を持ち歩かなければいけないのかは謎ですが…収納魔法で仕舞い込める物で助かりましたわ)
たぶん収集したデータがどうのこうのしているのかもしれませんが、こんな物を持っている事がバレたら大変な事になりますし……後で返却をしようとルルさんの後ろ姿に視線を向けておりますと、その視線に気づいたドワーフさんが「やれやれ」というようにため息を吐いていました。
「また碌でも無い発明品でも自慢されていたんだろ?まったく、あいつは…打ち合わせにも顔を出さねーし、ほっとくと碌な物を作らねーってんでギルバが連れ回していたんだが…いつまでたっても変わんねーんだよなぁ」
とか言っていたのですが、どうやらルルさんは昔からああいう性格だったようで……。
「ああ、だから…転々としていたのですね」
研究に没頭するタイプのルルさんがセラフィーヌ様の所に居た理由が謎だったのですが、ずっと同じ場所に居たら碌でもない研究を始めてしまうから色々な仕事や用事を押し付けられているのかもしれません。
「仕事自体は出来る奴だから文句はねーんだが…っと、そろそろ時間だな、しくるんじゃないぞ?と、言いたいが…命大事にだ、無理だけはするなよ?」
たぶんその事を伝えに来たのだと思いますが、ニヤリと笑いながら手を振り持ち場に戻っていきまして……とにかくそういう感じでジオルグ解放作戦が開始される事になったのですが、ルルさんのおかげで緊張がほぐれたといいますか、別の意味でドキドキしてしまったといいますか、とにかく何ともいえない気持ちのままアンジェリカと共に所定の位置で待機する事になりました。
「敵の配置は凡そこちらの予想通りですね、事前情報との齟齬もありませんし…このまま突入すれば良いと思います」
この辺りは魔力を含んでいる鉱石がゴロゴロとしているので魔導眼鏡では判別がしづらいのですが、濃度が濃い場所くらいはわかりますし……事前情報通りであればリッテンベルン宰相は鍛冶ギルドで何かしらの実験を行っているようですし、移動をしたという情報もないのでほぼ確実と考えても良いのでしょう。
「わかりました、後は鉱山側の合図を…始まったようですね」
ドンドンドーン!という連続した爆発音の後に鉱山の方からモクモクと煙が立ち昇るのですが……出入口が落盤で塞がっている間に捕まっている人達を救出する作戦ですし、鉱石の運び出しも始まっているので後は時間との勝負ですわ。
(上手くいく事を祈りますが…失敗したら即時撤退、ですのよね?)
リッテンベルン宰相が滞在しているせいで想定より敵の数が多いですし、鉱山が奪還できるかは捕らわれていた人達がどれだけ動けるかにかかっていたのですが……この期に及んで失敗する事を考えていても仕方がないので上手くいく事を祈っておきましょう。
「では、行きます!」
「お願いします!」
鉱山側の動きに合わせて私達も翼を広げて飛び出すのですが、混乱が街全体に広がり大パニックになっていくのが見えまして……落盤の様子を見にいこうとしていた帝国兵が私達を見上げながら指を差してきていたのですが、咄嗟に攻撃をしかけてくるような練度の高さや統率力は感じませんでした。
(ベルザの代官があんなのでしたし、アンの言う通り質が低下しているのでしょうか?)
数は脅威なので油断のならない相手ではあるのですが、色々なものを魔物達で補っている帝国軍の動きは鈍いようですし、こうして上空を飛んでいるだけでも混乱が広がり他の場所で戦っている人達に向いていた矛先が弛んでいきまして……なんて街全体を見下ろしていると女性達が閉じ込められているという里長の館の方にルルさん達が突入して行くのが見えたのですが、そちらは勝手知ったるといった感じなのでお任せする事にしましょう。
「このまま突っ込みますわ!」
私達は私達のやるべき事をやるだけですし、鍛冶ギルドを根城にしているリッテンベルン宰相を逃がさない為にも速攻を心がけまして、特別魔力が濃い場所に向かって聖氣の盾を展開しながら突入しました。




