40:強さへの決意ととんでもない問題ですわ!
さあこれから手分けをしていきますわという事になったのですが、総力戦に近い戦いの後だったという事でバタバタとしていましたし、旅立つのは万全の態勢を整えてからという事になりまして……時間が出来たのでギルバさんにヴァーナルからの親書を渡しておいたり武器の修理をお願いしておいたりしておいたのですが、親書の件については「今更だな」とか笑われてしまい……まったくもってその通りだったので私も苦笑いを浮かべる事になりました。
(それでも…これで頼まれていた用事も終わりですし、ようやく肩の荷が下りましたわ)
なんていう雑務を終えてから診療所として開放されているツリーハウスのとある病室を訪れていたのですが……簡単な傷なら魔法で治す事が出来ますし、帝国軍との戦いは跡形もなく消し飛ぶか連れていかれるかという2択が多いので病室の中に居るのは青白い顔をしているアンジェリカくらいしかいなかったのですが、どれだけ顔色が悪くても無事な姿を見ると安心して無性に涙が浮かんできてしまいますわ。
「不覚を取り…申し訳ありませんでした」
「相手が相手なので仕方がありませんわ…それより怪我は大丈夫ですの?」
ちょっと小突かれただけでも内臓が滅茶苦茶になるかと思ったくらいの相手ですし、おもいっきり蹴り飛ばされていたアンジェリカのダメージは深く……神躯にもかなりの負荷がかかってしまったのだそうです。
「ええ、体の怠さは残っておりますが…診てくれた治癒師の話では一時的な聖氣の枯渇なので数日もすれば治るだろうという事でしたが…武器を壊してしまった事の方が問題で」
薬草臭のする包帯でグルグル巻きにされているアンジェリカの怪我も完治していたのですが、ダメージを受けて転がっている間に聖氣を吸われてしまった事で一時的な衰弱状態になっているのだそうです。
「それは…ええ、大変ですよね、それにあれだけグチャグチャになっていると修理をするのも難しいようですし」
私もワームトレントにおもいっきり吸われた後は寝込んでしまいましたし、武器の方は……雨宮さんの紫雲斬鉄は調整だけで終わるのですが、私のインペールやアンジェリカのランプデトネイターを本格的に直す場合は色々と材料が足りないのだそうです。
(私の方は何とか使えるようにしてもらいましたが…アンの方は)
切っ先部分が引き千切られていたインペールは聖氣の刃を短くする事で安定させる事が出来たのですが、中程から真っ二つになっているランプデトネイターを修理する場合はファティエラに向かう事になったギルバさんが必要な材料を持って帰って来るかジオルグ鉱山の奪還が必要になってくるのだそうです。
「ああ、でも…直す為の材料を取ってきますので、アンは何も心配しなくて大丈夫ですわ」
暗い顔をしているアンジェリカを励ますために鉱山行きの事を伝えたのですが、伝えたら伝えたでアンジェリカの表情が暗くなってしまい……。
「やはり…向かわれるのですね、出来たら大人しく待っていて欲しいのですが…またあの化け物が襲い掛かって来たらどうするおつもりなのですか?今度こそアリシアが殺されたらと思うと…私はこれほど無力だと思った事はありません、それに…こういう事を言うのはどうかと思うのですが、アリシアは怖くないのですか?雨宮…さんがいなければ私も…アリシアもやられていたのかもしれませんよ?」
「それは…」
そんな事を言われるとリンディさんに殺されかけた時の事を思い出してしまうのですが、私が頑張れる理由なんていうのは最初から決まっています。
「だからといって…困っている人を放っておく事はできませんわ、不覚を取ってしまったと言うのなら次回までに鍛えておくだけですし、私とアンの2人でもっともっと強くなればいいだけですわ!」
私の場合はどうしても元居た世界と同じような感覚で戦ってしまうといいますか、翼があるのに直線的な体当たりみたいな戦法しか使ってこなかったりチートくさい聖氣量を活かそうとせずに剣術に頼ったりと駄目駄目なところが多いですし、そういうところを鍛え直していかないといけないのかもしれません。
「勿論、アンにも頑張ってもらいますので…早く体を治してもらわないと困りますわ」
剣術に関してはすぐに上達するというものでもありませんし、魔法に関する事や神躯の使い方なんかをもっともっと教えて欲しいですし……私にはアンジェリカの支えが必要ですわ!
「そう…ですね、私はアリシアが…すみません、圧倒的な実力差を目の辺りにして少しばかりへこんでいたようです…ええ、そうですね…共に強くなっていきましょう」
アンジェリカは何か眩しいものを見たというように目を瞬かせていたのですが、どうやらやる気になってくれたようでして……。
「そのへこたれぬ心、流石わたくしの娘です…よしよししてあげましょう」
なんていうタイミングで雨宮さんが病室に入って来たのですが、音もなく入って来たのでビックリしてしまいますわ。
「え、ちょっと…雨宮さ…お母さん?どうしてこんな所…んっ、タマの事も忘れていた訳ではありませんのよ?」
アンジェリカも驚いていましたし、相変わらず「お母さん」と呼ばないと悲しそうな顔をしてしまう雨宮さんなのですが、いきなりギューッと抱きしめられたり頭をなでなでされるのは心臓に悪いから止めて欲しいです。
「なんだ、もしかしてお邪魔だったか?」
なんてワチャワチャしておりますと、籠一杯のリンゴっぽい果物を持ったレスリーナちゃんが病室に入って来たのですが……別にイチャイチャしていた訳でもないのに無性に恥ずかしくなってしまって顔が火照ってしまいますわ。
「お邪魔どころか歓迎いたしますが…」
どうやら2人とも細々とした用事を終わらせてからアンジェリカのお見舞いにやって来たようで……因みにゴロさんとシンデさんの2人は病室で騒いでもという理由で力仕事をこなしながら移住予定地の視察に向けての準備を進めているのだそうです。
(何はともあれ…皆が無事でよかったですわ)
帝国軍の襲撃によって亡くなられた人達もいますし、肉人形達に連れていかれた人達も多いので手放しで喜ぶ事はできないのですが……これ以上の犠牲者を出さない為にも頑張らないといけませんわ!
とかいう決意を固めていましたし、ぽにょんぽにょんと近づいて来ていたタマを持ち上げてプニプニとしてあげていたのですが、果物の籠をベッド脇の机に置いていたレスリーナちゃんが難しい顔をしている事に気が付いてしまいました。
「どうしました?何か心配事でもありますの?」
なんていう風に気軽に聞いてみたのですが、モジモジとしていたレスリーナちゃんが何とかという感じで言葉を絞り出しまして……。
「その、アリシア達を見ていると無性に身体がムズムズする時があるんだ…これは何かの病気なのだろうか?」
「私達を…ですか?」
そういえばモジモジしている時があったような気がするのですが、よくわからないと首を傾げておりますと……アンジェリカが「あー…」みたいな顔をしていましたし、雨宮さんがニッコニコで手を合わせていました。
「あらあらそれは…おめでたでしょうか?国元に居たらお赤飯でお祝いをしたのですが」
まるで初潮が来たと言わんばかりの浮かれようだったのですが、ムズムズというのは魔法的な成長痛のようなものでして……私達を見てムズムズするというのは強い力を持っている人間に反応しているのではないかという事でした。
「レスリーナの場合は純度の高い魔力を使っていますからね、たぶん魔力の急上昇に体の方がついて来れていないのでしょう」
なんていう説明をアンジェリカ達がしてくれまして、言葉だけを聞いたら大変な事のように思えるのですが……神躯が形成され始めている時に感じるレベルアップ痛なのでどちらかといえばお目出度い事なのだそうです。
「つまり…我も神躯持ちになったという事か?」
「そうですね、まだまだ下級レベルの神躯ですが…この調子で成長して行けばかなりの所まで伸ばしていけるかと…ただ、ムズムズしている状態を放置していると聖氣を求める魔物達が寄って来ますし、調整できるのなら調整しておいた方がいいとは思います」
との事で、成長痛が落ち着くまでは聖氣を狙う魔物達が集まって来てしまいますし、軽い神躯症状が出続けるので結構大変なのだそうです。
「それで…結局どうしたらよいのかしら?」
私の場合は女神の神躯に合うように調整されていたのか成長痛を感じる事がありませんでしたし……さんざん体の方が耐えられるかどうかとは心配されたのですが、その辺りはチートパワーで何とかしてきたので参考にはならないと思います。
「一番手っ取り早いのが自力で発散させる方法で…中には無害な魔物を利用したりする人もいるようですし、後は親しい人にしてもらう事があるようですね」
聖氣の垂れ流しは千害あって一利なしですし、私達がしているような聖氣の調整を行う必要があって……。
「獣人達の中には戦闘後に興奮する人も多いですし、そういうものかと思っていましたが…仕方がありません、これもまた母の役目としてわたくしが承りましょう」
「うむ、よくわからないが梢子なら安心…」
「ちょっと待ってください!雨…お母さんも何を言っているんですか!?レスリーナちゃんの大事な物がかかっているのでもう少し詳しい説明と話し合いを要求いたしますわ!!」
流石に色々とビックリしてしまったのですが、実はこちらの世界では親が手ほどきをする事もよくある事のようで……という程普通の事ではなかったのですが、そこそこよくある事なのだそうです。
(そりゃあこちらの世界にはエッチなモンスターも居ますし、初めてを奪われるのが嫌だから襲われる前に済ましておこうという考えもわかるにはわかるのですが、それでもこんなの…ムードも何もあったものではありませんわ!)
許婚みたいな人がいればその人に手伝ってもらう事もあるようですし、魔物に襲われる確率が低い安全な場所に住んでいる人達にはあまり関係のない話でして……というより魔物に襲われる可能性のある場所に住んでいる人達は子沢山が求められておりますし、戦いに赴くような人達の場合は出発前の景気づけの告白みたいなノリから発展していった風習なのでしょうか?
「むっ、それじゃあ…結局我はどうしたらいいのだ?」
「そ、それは…そもそもレスリーナちゃんは嫌ではありませんの?調整するっていう事は、その…私達とエッチな事をするっていう意味ですのよ?えっと…エッチな事っていうのは、わかっておりますの?」
レスリーナちゃんの性教育具合がよくわかりませんし、知らない仲ではないといってもいきなりエッチをしなければいけないとなったら戸惑うと思ったのですが……。
「ようするに…アリシアとアンジェリカが隠れてやっているような事をやるという事なのだろう?全くもって問題ないぞ?」
「し、知っておりましたの!?」
そりゃあ獣人であるレスリーナちゃんの感覚が鋭いので気づかれていてもおかしくはないのですが、雨宮さんやタマの方を見てみますとこちらもこちらで微笑ましそうに見ていたり「何を今更」みたいな顔をしていたりで……滅茶苦茶恥ずかしすぎて穴があったら入りたいですわ!
(それじゃあアレやコレも知られてて…私ったらなんて破廉恥な事を!?)
なんて事を考えると身体が熱くなって逃げ出したくなってしまい……とにかくこの辺りの奔放さや大らかさは愛の女神でもあるマリエラ様の教えの賜物なのかもしれませんが、鉱山の奪還の前にとんでもない問題が横たわって来てしまいました。




