39:作戦会議ですわ
「そうですか、彼女はゼブルスの…復活の話もあながち間違いではないのかもしれませんね」
肉人形に集られていたアンジェリカが救助されたのを見届けてから原初の木の根元に戻ってきますと、下まで降りて来ていたセラフィーヌ様が「面倒臭い事になりました」みたいに溜め息を吐きながら瞼を伏せていまして……暗黒竜の復活はマリエラ様が恐れるている出来事ではないのかもしれませんが、大陸規模では十分な脅威となるので何とかしないといけないと頭を痛めているのかもしれません。
「すまん、ゼブルスの事は爺様の世代から嫌という程の武勇伝を聞かされていたからてっきり死んでいるものだと…鉱山や単純な労働力が目当てだと思ってあまり気にしておらんかったが、こうなって来るとワシらの里を襲ったのも十中八九封印されている欠片が狙いだったのだろう」
「それは…仕方がありません、伝承が途切れるのは短命なる者の定め…いくら里長としての役目を引き継いだといっても貴方が戦った訳ではありませんし、口伝だけでは限界があったのでしょう」
やや棘のある言い方にドワーフのリーダーさん……実はドワーフの里長であるギルバ・バルチェミスさんという方だったのですが、ボサボサに伸び切った白髭や短めのモヒカンといった特徴的な髪型をしているずんぐりむっくりの強面ドワーフがどこか納得のいっていない顔をしながら言い返していました。
「そこまで言わんでもいいと思うが…それにそーいう大事な事なら教えておいてくれても…相変わらず勿体ぶりのケチ臭い奴らめ」
私達に伝えていなかったのは箝口令の一種だったと納得できますし、知っていたとしてもリンディさんの進撃を止められなかったとは思いますが、ギルバさんには封印の事を伝えておいた方が良かったというのは私も同意しておきたいと思います。
「何か…言いましたか?」
なのですが、セラフィーヌ様はニッコリと笑って聞こえないふりをしていました。
「なんでもねーよ、都合の悪い時だけ耳が遠くなりやがって」
因みにドワーフ達を率いてつい先ほどの戦いにも参加していたギルバさんなのですが、これはカイル山脈の埋蔵量の相談やワームトレントにくっ付けられていた赤黒い結晶の事を報告しに来ていたからなのだそうで……会話を聞いている限りでは仲の悪さが滲み出ている2人なのですが、これは種族的な問題が絡んで来ているといいますか、エルフはエルフでドワーフ達の事を手当たり次第に森や山を切り崩す騒音発生器と考えているようですし、ドワーフはドワーフでエルフ達の事を事なかれ主義の露出狂と考えているのだそうです。
(仲が良いのか悪いのかですが、今はそれより…ですわ)
考えてしまうのはリンディ・Z・ブラッドさんの事で……彼女はノルニスの民と似たような存在といいますか、邪竜ゼブルスに仕えていた人達の末裔なのだそうです。
より正確に言うと雑用をさせる為に飼われていた奴隷とか竜の因子を埋め込まれた改造人間だったのですが、先の大戦では暗黒竜側についてセラフィーヌ様達と戦い……ゼブルスが倒された後は草木も生えぬ北方の辺境地域に追いやられる事となったのだそうです。
(境遇には同情いたしますし、事情を鑑みると帝国軍の一員として動いているのが謎なのですが…よくわからない事が多すぎますわ)
単純に考えれば女帝がゼブルス側に寝返っているのだと思いますが、リンディさん達が素直に事情を話してくれるとも思えなくて……。
「葬ったはずの亡霊が動き始めているようですし…大陸の危機の再来となれば他種族との協議を早めないといけないのかもしれません」
なんて事を考えておりますと、怠惰なセラフィーヌ様がやる気を見せていたのですが……これは自分達がやり残した事の後始末をつけようとしているのかもしれませんし、昔馴染みの功績に泥を塗ろうとしている連中に対しての怒りが燻ぶっているのかもしれません。
「やる気を見せているのは良い事だが…ダグーの一歩より蟻の万歩とも言うからな、足元を疎かにしていたらすっころぶぞ?」
やや勇み足なセラフィーヌ様をギルバさんが窘めていたのですが、これは物凄くのんびりとしているダグーとかいう生き物と蟻を比べた時の例えでして、私達の世界だと「拙速は巧遅に勝る」という格言と細かな事でも着実に進めて行った方が良いみたいな意味が混ざっている言葉なのだそうです。
「それは…わかっておりますが」
「なら、いい…それじゃあ報告も兼ねて簡単に状況をまとめるぞ?」
長寿すぎてマイペースなところがあるエルフ達より鉱山の開発なんかをおこなっているドワーフ達の方が段取りとかを決めるのが得意なのだと思いますが、簡単にお互いの情報の伝え合った後にギルバさんが話を纏めてくれる事になりまして……まず何をするにしても問題となって来るのが押し寄せて来る帝国軍を撃退する為の武力が必要となってくる事なのですが、武器を作る為の鉱石が不足しているのだそうです。
「カイル山脈の埋蔵量だと日用品を作るのが精一杯だな…しかもエルフ達の魔法はマナの薄い森の外だと火力が落ちるんだろ?」
「それは…はい、遺憾ながら」
渋々というようにセラフィーヌ様が認めていたのですが、黒騎士達を閉じ込めプカプカとさせている泡の魔法はデヴァン大森林に存在している膨大なマナと原初の木を媒体とした大規模魔法であって、森の外ではその効力が著しく弱体化してしまうのだそうです。
「ああ、気にすんな、確認しているだけで責めている訳じゃねえ…でもって、押し寄せて来る連中を撃退できたとしてもゼブルスの封印が解かれたら厄介な事になる…ここまではいいか?」
つまり私達は『押し寄せて来る帝国軍の撃退』と『封印の確認とゼブルスの欠片の死守』という2つの命題がある訳で……。
「んじゃあ話は簡単だ、まずは武器を作るための鉱石の確保と連れていかれた…つーと自分達の不甲斐なさを暴露しているみたいで嫌なんだが、捕まっている連中を助け出す為にジオルグ鉱山の奪取を目指したい」
なんてギルバさんが言っていたのですが、ジオルグ鉱山と言うのはドワーフの里だった場所に広がる大陸最大の埋蔵量を誇る鉱山でして、かなり早い時期に帝国軍の攻撃を受けて制圧されてしまったのだそうです。
「封印されていた欠片の行方を調べる必要もあるし、カイル山脈の埋蔵量が乏しいつー事が分かった時点で奪還の準備は始めていたんだが…いっそこの際だな」
とか言っていたのですが、奪還する事が出来れば武器を作るための鉱石と鍛冶精練に長けた戦士達を手に入れる事が出来る一石二鳥の作戦でして……。
「んでもって、ゼブルスの復活がどうのってなってくると他の連中と手を組む必要があるし、マリエラ教の総本山に封印されている欠片も調べないといけないんだが…相手も馬鹿じゃねーからな、送り出す連中にも気を使わないといけねえ」
ヴァーナルに参加していた私達がデヴァン大森林にいた訳ですし、よほどの楽天家でもなければ協力関係を築こうとしている事が一目瞭然で……連絡網が寸断されたり連絡要員が帝国軍に捕らえられたりしたら面倒な事になってくるのかもしれません。
(と、いうより…全然気がつきませんでしたが、ファティエラにも欠片が封印されていたのですね)
だからこその封印だったのかもしれませんしノアさんの侵入だったのかもしれませんが、対峙した時にそれっぽい気配が無かった事からファティエラの封印は無事だったのかもしれません。
「まあ、教会関連の話はそっちの胸のデケー姉ちゃんの方が知っているんじゃないか?あんた…マリエラ教の関係者なんだろ?」
因みにゼブルスの封印は大本ともいえる亡骸が帝都にありまして、力の源を砕いた時に出て来た3つの欠片は一緒に戦った人達の中でも特に力を持っていた二大勢力……エルフとドワーフの里にそれぞれ一つずつ封印されておりまして、残りの1つをマリエラ教が保管する事になったのだそうです。
「え、あ…私ですか?」
いきなり話を振られて戸惑ってしまったのですが……アンジェリカが振るうランプデトネイターにはマリエラ教のシンボルが描かれていますし、聖勇者がどうのとかいう話を聞いていたら教会の関係者だという事が丸わかりだったのかもしれません。
「お前以外に誰がいるんだよ、連れがマリエラ教の印が入った武器を使っているし…あんたの着ている物も天蚕製の特注品だろ?んなもんが作れるのはマリエラ教の総本山しか…ああそうだ、ピンク髪のねーちゃんの盾が景気よくひしゃげていたみたいだが…ちゃんと直してやるから安心しな」
との事で、雨宮さんの武器もみてくれるようですし、へし折られたインペールも直してくれる事になりまして……とはいえ聖勇者の装備云々で製作者が死にかけるという事件もありましたし、武器を直す場合のお値段は如何ほどになるのでしょう?
「ありがとうございます、ファティエラの封印は大丈夫だと思いますが…その、修理をする場合の代金は如何ほどになりますの?」
「こんな時だ、気にすんな…つーか金が必要ならターナーの野郎から分捕って来るから心配すんな」
なんて気安い感じでターナー神官長の事を呼んでいたのですが、どうやらギルバさんと神官長はお知り合いだったようで……そういえば神官長はドワーフだったようなとか話が早くて助かりますわといいますか、とにかく助かりましたわ。
「2人は…お知り合いだったのですね」
「ちげーよ、ただの腐れ縁で…まあそんな事はいいじゃねーか」
とか誤魔化されてしまったのですが、2人は同じ里で育った幼馴染だったみたいですし、聞いてみるとターナー神官長は子供の頃から自然を愛する文学少年だったようで……すでにドワーフの基準で考えると変わり者の烙印を押されてしまうような変人っぷりだったのですが、鉄や酒ではなく愛を求めてマリエラ教に入信していった友人の事がマジで理解できないので訊かれても困ってしまうのだそうです。
「まああいつの使う神聖魔法はとんでもねーがって、少し脱線したが…てー事を手分けをしていくんだが、まずはヴァー…なんちゃらだったか?帝国と敵対している反骨心ある馬鹿達の事は任せた」
「ええ、迷い込んで来ている人達も居ますし、そちらの解放も合わせて段取りをつけていく事にしましょう…その辺りの実務的な話はヘルムートに一任しても良いかしら?」
「はっ、お任せください!」
ギルバさんとターナー神官長の話は横に置いておくとして、ヴァーナルとの協議はセラフィーヌ様とヘルムートさんが受け持つ事になりまして……。
「マリエラ教の方には俺と…そっちの黒髪のねーちゃんに来てもらってもいいか?」
「構いませんが、また娘と離れ離れに…親子の親睦も深められないのですね」
「すまんな、いきなり出発っていう訳じゃないからその間に好きなだけ親睦を深めてくれ…てーか、今のところ封印が大丈夫そうなのがファティエラしかねーからな、あのおっかないのが襲い掛かって来た時に俺達だけじゃあぶち殺されて終わりだ」
「ええ、ええ…わかっておりますとも、娘の前でグチグチ言っていても仕方がないですし、母としての務めを全うする事にしましょう」
との事で、リンディさんと戦える雨宮さんと神官長の知り合いであるギルバさんがマリエラ教の封印を確認しに行く事になりました。
「んで、獣人達の移住と武器の製造…だっけか?そっちはチビッ子達に任せてもいいか?色々とバタついているんだが、放置している間に連れていかれちまったら面倒だからな」
「わかった、父様への説明は我が承ろう」
「任せて、私がちゃんと案内してあげるから!」
という訳で、レスリーナちゃんとマリーちゃんが獣人達の移住や場所の選定を行う事になり……武器については「今は人手がいるからな」という感じで簡単に許可が下りる事になったのが棚ぼた的なラッキーだったのかもしれません。
「私は何をしたいら良いのですか?自慢ではありませんが一通りの事は出来ると自負しておりますわ!」
このままエルフの森でお留守番をしているなんていう事にならない為にもやる気をアピールしてみるのですが、皆さん渋い顔をしているのですよね。
「あんたか、あんたは~…聖勇者、だっけか?つーても敵に知られているんだよな~…」
私が目立ってしまうのは仕方がない事なのかもしれませんが、攻めて来た帝国軍の反応的にも知名度が上がって来ているようで……そんな人間がウロチョロとしていたら何か企んでいる事が丸わかりですし、色々と悪目立ちしてしまう事を警戒しているのかもしれません。
「まあ…色々と考えてはいるし、鉱山方面に行ってもらう事になると思うが…その辺りは一度ルルと話し合ってみてくれ」
みたいな事を言われたのですが、ルルさんというのはギルバさんのお孫さんの事でして……今はワームトレントの結晶の事を調べていたりするのですが、鉱山の奪還のために色々と動いているのだそうです。
「ルルさん、ですね…わかりました、私も最善を尽くしますわ!」
皆が頑張っているのに聖勇者である私がサボっている訳にもいきませんし、大変な目に合っている人達の為にも頑張ろうと気合を入れなおしました。
※まったくどうでもいいターナー神官長関連のお話なのですが、文学少年だったターナー少年は頭の良さから交渉役や調停役を任されるようになって、成長するにつれて里の外に出て物の売り買いを担当する行商役になりました。そうして旅先で出会ったマリエラ教の巡回神父やマリエラ教の信者達と関りを持つ事となるのですが、その教えに感銘を受けて入信する事になったという少しだけ変わった経歴の持ち主だったりします。




