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終焉の魔女に言の葉を  作者: みみっきゅ
第二章 襲撃と村、刻を追う旅
19/70

19. 代償の記憶、壊れた影

間話ってあったほうがいいですか?


一応章終わりに書く予定です!

路地裏に、遠い鐘の音がかすかに響く。

街の教会が夜更けを告げていた。


カイの血の跡が石畳にまだ生々しく残っている。

その匂いを覆い隠すように、霧の獣がゆっくりと形を変え、孤児院の少年――マルコへと低く唸った。


マルコは、泣きそうな顔で袋を抱えて立ち尽くしていた。

リィナがあげた小さなパンが、少年の胸元で揺れている。



カイが、矢を掴んだまま地面に伏せた。


「……やめろ……こいつは関係ない……!」


声がかすれて届かない。

ライハも魔力障壁を張ろうとするが、リィナの横顔を見て言葉を飲んだ。


彼女の瞳は、まるで遠い夢を見ているように虚ろだった。



シルフィアは泣きそうにマルコへと手を伸ばす。


「……お願い……お願い……!」


だが霧の獣は聖女の光さえ避けるように、別の影となってマルコを囲んだ。



リィナの心臓の奥で、何かが軋んだ。

鼓動の音が、自分の鼓膜の内側で反響していく。



(……あの時……母の声も、父の声も……何も届かなかった……)


(……泣いても、喉が焼けただけ……)


(……でも――)



目の前で、また誰かの泣き声を聞くくらいなら――



花束を握った手が震えた。

花びらが一枚、落ちて血の跡に張り付いた。


リィナの唇がわずかに動く。


「――全部……差し出す……」



空気が、音を失った。


彼女の背中に、肩幅よりわずかに大きな光輪が静かに顕現する。

白銀の翼は片方だけ。

しかし羽の先端は金色に剥がれ落ちるように光を散らす。



彼女の瞳には、もはや誰の顔も映っていない。

幼い頃の思い出の匂い、抱きしめられた温もり――

全てを代償に、エゲリアの魂が開かれる。



時間が止まった。


街の喧騒、遠くの鐘の音すら、石畳に落ちる雫の音すら止んだ。



マルコだけが、涙を流したまま止まっている。


霧の獣の牙もまた、マルコに触れる寸前で凍結していた。



リィナの片翼がゆっくりと揺れた。


彼女の周囲に、無詠唱の魔法陣がいくつも浮かび上がる。

時の執政――時間の支配者が放つ、光と静寂の円環。



光の矢が無数に生まれ、空間を漂う。


そして、静かに指先が下りる。



時間、解放。



凍った世界が、一斉に動き出す。


放たれた矢が霧の獣を何十にも貫き、仮面の刺客の胸元を撃ち抜く。



影の獣は悲鳴を上げることもなく、音もなく塵と化した。


仮面の刺客は、胸から白い光を漏らしながら地面に崩れ落ちた。


仮面が割れ、青白い顔が覗く――

だがそれもすぐに、霧となって消え始めた。



最後の声が、どこか皮肉げに笑った。


「……さすがだ……“器”よ……

 でも……お前も気付いているだろ……

 代償が尽きたとき――お前に残るのは……空だ……空虚だ……」


言葉が霧に溶け、夜風に吸われていった。



リィナの足元に、落とした花束があった。

花びらには血が滲んでいた。

彼女の掌から落ちた血が、白い花を赤く染めていた。


マルコが怯えながら、リィナの影に抱きついた。


リィナは目を伏せたまま、もう何も思い出せない。

ただ、守れたことだけを静かに胸の奥で確認していた。



大理石の間に、月のような光輪が浮かんでいた。

その光を背に、上位魔人が一人、玉座の前で跪いていた。


玉座には仮面をつけた、さらに上の存在――

黒い法衣をまとい、声を漏らさない。


上位魔人は冷たい汗を額に浮かべたまま、必死に言葉を並べた。


「……必ず、“器”を貶めてみせます……代償を積み切らせて……我らのものに……!」


だが玉座の奥の存在は、返事をしない。


沈黙だけが、上位魔人の背を凍らせた。



膝をついたまま、恐怖を押し殺しきれない上位魔人の指先が震えた。


「……失敗は……二度と……」


視界の隅に、自らの影が細くひび割れる幻が見えた。



「――次こそは……次こそは……」


玉座の奥の光は答えない。

ただ冷たい月光のように、すべてを黙して見下ろしていた。


上位存在…好き好き大好き〜♫

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