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終焉の魔女に言の葉を  作者: みみっきゅ
第二章 襲撃と村、刻を追う旅
18/70

18. 影の牙、夜の襲撃

悪役出陣!

夜の街外れ。

焚き火を片付けたあとの路地裏は、昼間とは別人のように冷たく沈んでいた。


石畳にこすれる足音だけが、誰もいないはずの路地に小さく反響する。


カイが肩を揺らしながら、前を歩く二人を振り返った。


「今日は、さすがに無事に寝られそうだな――あれだけ派手に笑顔振りまいちゃったしな、な? ……おっと、シルフィアさん?」


シルフィアは笑って黙っていた。

でも胸の奥では、少しずつ冷たいものが張り付いていた。


リィナは手に、小さな花束をまだ握っている。

市場で買った、小さな花。

握りしめすぎて、茎が折れていた。



ライハがその隣で小さくつぶやく。


「……人の温もりを知るたびに、狙われるリスクは増す。皮肉だな。」


それでもリィナは、ほんの少しだけ、唇を揺らした。

声にはならなくても、それは確かに笑みだった。



その瞬間だった。


路地の奥に、音もなく張り付くような気配があった。



ひんやりとした夜気が、突如として淀む。


カイが眉をひそめた。


「……風の音じゃねぇな。」


次の瞬間、石畳に黒い染みが落ちるように――

霧のような影が、道を塞ぐ。



「聖女様――いや、“祝福の泥棒”か。」


声がした。

男でも女でもない、くぐもった声。


影の中心に仮面をつけた人影が立つ。

仮面の表には銀の文様。

口元に刻まれた笑みだけが不気味に歪んでいる。



「上位の御方から伝言だ。“お前は光を撒くな、泥を撒け”――」


刺客の背後から、煙のように別の影が滲み、路地の石壁を這い上がる。


街灯の明かりがその輪郭を照らした途端、リィナは無意識に息を呑んだ。


霧が形作ったのは、人のようで人でない獣のようなもの。

牙の代わりに、割れた仮面の破片が口元に突き立っていた。



カイが即座に矢をつがえる。


「テメェ――ッ!」


矢が放たれ、霧を裂く――が、影はすぐに再生し、笑う。


「無駄だよ。無詠唱の巫女がいても、止められやしない。」



リィナの指先が、小さく光を帯びる。


だが、影は霧の刃を伸ばし、リィナの肩を狙う。

ライハが前に飛び出して魔力障壁を張る。


砕けた光と闇が、路地裏に火花を散らす。



その隙に、仮面の刺客はシルフィアへと手を伸ばす。


「戻って来い、聖女様……お前が戻れば、全て静かに終わる……。」



シルフィアは怯えながらも、リィナの背に隠れる。


「……嫌……! 嫌です……!」


刺客の手が光をまとったシルフィアに届く刹那――


リィナの目が一瞬だけ鋭く光る。


無詠唱の光が、影の腕を弾いた。



その光が街灯に反射し、遠くの通行人の目を引いた。


誰かが声をあげる。


「……あれ、祝福の光……!?」


別の誰かがつぶやく。


「……あの人、修道女じゃ……聖女様……?」


ざわめきが、闇に走った。



カイが矢を放つたび、影は切り裂かれるが、霧はすぐに形を戻す。


そして、霧の牙がカイの死角から迫った。


「カイ――!」


ライハの声が上がるが、一瞬遅かった。


霧の刃がカイの脇腹を裂く。



「がっ……!」


鈍い音と血のにおいが、路地裏に広がった。


カイが膝をつき、矢を取り落とす。


リィナが花束を握ったまま、震える指を伸ばす。

だが、光は間に合わない。



その時、震える声が闇を割った。


「……お願い……届いて……!」


シルフィアの掌が、カイの胸に触れた。


白い光がほとばしり、血に濡れた石畳を洗うように包んだ。



刺客は顔を歪めて笑った。


「ほう……“奇跡”を隠せなくなったな……。」


シルフィアの掌が震え、額に汗が滲む。


光は脈打つようにカイの傷を覆い、かすかに息を戻した。



しかし、路地の奥で人々の声がざわつく。


「……聖女だ……!」


「……あれが本物……!」



逃げ道はもうない。

シルフィアは小さくリィナに向き直り、息を整える。


「……隠れていたのに……ごめんなさい。

 でも、もう……隠れていられません……。」


リィナは花束を握りしめ、折れた花の茎から零れた雫を見つめた。


静かに頷く。


「……一緒に……。」


震えた声は、シルフィアの心をわずかに支えた。



刺客は霧の獣をまとめ、路地裏を塞ぐように手を広げた。


「いいだろう――

 奪って、引き裂いて、光を闇に還してやる。」


だが、その背後で何かがひび割れるように揺らぐ。


リィナの指先が、折れた花を離し、光を宿し始めた。



その頃――

遠くの暗い祭壇のような空間で、上位魔人は仮面越しに小さく嗤った。


「さあ、祝福を棄てろ。“執政の器”よ。

 絶望で縫い止めてやる。」


仮面の奥の瞳には、だが焦燥が滲んでいた。


感想待ってます!!


あ、訂正あったりしたらお願いします!

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