表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の魔女に言の葉を  作者: みみっきゅ
第二章 襲撃と村、刻を追う旅
16/70

16. 束の間の幸せと次の誓い

九蓮宝燈

森を抜けたのは、夜が深く沈む頃だった。

封印の奥で光と闇を渡った彼らの足取りは、驚くほど静かだった。


リィナは苔むした樹海の縁で立ち止まり、少しだけ夜風を吸い込む。

声を取り戻したと言っても、まだ喉は焼け付くように痛む。

けれど、その痛みは確かに生きている証のようだった。



焚き火の周りには、わずかな荷物とほのかな食事の香り。


カイが森で摘んだ木の実と、ライハが狩ってきた小さなウサギの肉が串に刺され、火にかけられている。


カイは焼き加減を気にせず、木の実を片手にむしゃむしゃ頬張った。



「おいカイ、焼きすぎだ。」


ライハがじっと串を見つめて眉をひそめる。


「いや、これくらいが香ばしくて――あっ。」


言い終わる前に、焦げた肉が火の中に落ちた。


カイの目の前で、肉が小さな火花を立てて燃え尽きていく。



「……お前な。」


ライハは無言で別の肉を串に刺し直し、今度は自分で炙り始めた。


リィナは焚き火の向こうで、そのやり取りを見つめている。


頬の奥がくすぐったくなり、喉の奥が小さく震えた。



「……ふ、ふ……。」


かすかな声が漏れる。


カイは目を見開き、炙った木の実を口から吹き出した。


「今……今、笑った!?声が……!?」


リィナは慌てて唇を押さえる。

喉がまだ痛い。けれど、カイの真顔が可笑しくて、堪えきれなかった。



ライハはくすっと短く笑い、串をカイに突き出した。


「ほら、次は落とすな。」


「うるせぇ!」


焚き火の火がパチパチと弾ける。

深い森の奥で聞いた血の契約の声も、責める幻影も、今だけは遠い。



食事を終えると、カイが背中に弓を立てかけながら地図を広げた。


「さて……これからどこに向かう?

星の棺の封印を解いて、次は?」


ライハが背負い袋から一枚の羊皮紙を取り出す。

棺の奥で刻まれていた古代の碑文の写しだ。


焚き火の赤い光に照らされ、古い文字が滲んで揺れる。



「『時の回廊』――

無詠唱の真源が封じられている場所だ。

エゲリアが最後に隠した“鍵”の座標が示されている。」


ライハの声に、カイが鼻を鳴らす。


「おいおい……また封印か?

今度こそ腹いっぱいじゃ足りなそうだな。」



リィナは小さく息を吸い、焚き火の向こうで地図を見つめた。


喉が痛む。

けれど――今度は震えながらも、言葉が漏れた。


「……行く。」


小さな声。

それだけで、ライハとカイの目が一瞬、焚き火の光よりも優しく揺れた。



月明かりの下、遠く離れた森の入り口には、黒い人影が立っていた。


仮面の奥で微かに唇が笑む。


「束の間の灯火など、

次の夜明けには吹き消してやろう――。」


上位魔人の声は風に溶け、誰の耳にも届かない。



焚き火が小さく爆ぜる。


カイが口を開いた。


「次こそ街の宿で寝ような?

硬い地面はもうゴメンだ。」


ライハが小さく笑い、リィナは喉を押さえたまま、ふっと息を漏らす。


暖かい。

小さくても、確かに人の声の中に、自分の声が戻っている。



でも、心の奥のどこかで、またあの声が囁く。


――守れるか? 本当に?


リィナは唇を噛み、焚き火を見つめた。


声を取り戻すたびに、何かを失う。

それでも――


「……守る。今度こそ……」


かすれた言葉が、夜空に溶けていった。



束の間の焚き火の光が、

まだ見ぬ時の回廊への道を、小さく照らしていた。

感想やブックマークなどなどお願いします!!

モチベに繋がって1日に10話とかあげるかもしれません!!!


お願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ