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終焉の魔女に言の葉を  作者: みみっきゅ
第二章 襲撃と村、刻を追う旅
15/70

15. 問いの答えと血の契約

7起床

飯食って

12まで勉強

飯食って

18まで勉強

飯食って

23まで勉強

執筆中←今ここ

暗い、暗い、夜空の底。

星の棺の中に引き込まれたリィナは、

まるで自分の胸の奥に沈んでいくような錯覚に捕まっていた。



無数の星の破片が漂う闇。

足元はなく、重力もない。

ただ、自分の心臓の音だけが――遠く、微かに響いている。


リィナは両手を胸に当てた。

冷たい光が指先を照らす。



かすかに聞こえる声――

それは“自分自身の声”だった。


「――もういいんだよ……もう……。」


幻影のように、幼い頃の自分が目の前に立っていた。


まだ声を失う前、村の小さな花畑で独りで花を編んでいた少女。

声は小さくても、確かに言葉を紡いでいた頃のリィナ。



「あの時――怖かっただけ。

みんなに『お前は化け物だ』って言われて……

だから叫びを飲み込んだ。

声なんていらないって……。」


幼い自分は、手に持った花輪をくしゃりと潰した。



あの日、声を閉ざす代わりに、誰かに助けを求めることを諦めた。

禁忌の無詠唱を暴走させ、声帯と一緒に心の奥の叫びを閉じた――

それが始まりだった。



リィナは幼い自分に手を伸ばした。

だが触れた瞬間、その幻は光の粒になって弾けて消えた。



代わりに――

今度は、失ってきた人たちの顔が次々に浮かぶ。


シャドウウルフに襲われた村の人々、

自分を助けようとして死んだ名もない騎士、

笑顔を向けてくれた店主の娘――

血と涙の残像が、リィナの周囲を取り囲んだ。



「リィナ……」

「どうして私たちを救えなかった……?」

「無詠唱の力があったのに……」


幻影が無数の声で責める。


どれも、リィナの心の奥が生み出した自罰の声。



必死に声を出そうとする。

喉が焼けるように熱いのに、言葉が出ない。


息だけが、白い霧になって虚空に溶けた。



そんなとき――

ゆっくりと人影が現れた。


白銀の衣に包まれ、肩幅より大きな光輪を頭上に戴いた、

時の執政――エゲリア。


片翼の羽は、白銀の根元から金色に剥がれ落ちている。



エゲリアは言葉を発さない。

だがその存在が問いかけてくる。


――まだ進むのか?



周囲の幻影が、再び責める声を上げる。


「もうやめろ……!」

「また誰かが死ぬ……!」

「お前のせいで……!」


リィナは胸を押さえ、歯を食いしばった。


――進まなければ、声は戻らない。

進まなければ、私は私を取り戻せない。



幻影の向こうで、

ふと――

ライハの声が聴こえた気がした。



「リィナ――お前の声が、俺たちの希望だ。」


あの日、ライハが震えた声でそう言った。

村の廃墟で、血に濡れた花を握りしめて泣いていた自分に、

そう言ってくれた。



もう一度、リィナは胸を叩く。

喉の奥で、何かが弾けるように脈打った。



エゲリアが腕を伸ばす。

掌から光がこぼれ、星の棺の中心に流れ込む。



――血を、刻印に。

声を、代償に。



次の瞬間、棺の中心に“裂け目”が生まれた。


リィナの胸の奥から真紅の光が滴り落ち、

裂け目に吸い込まれていく。



幻影の声が遠ざかる。

重い沈黙の中で、リィナは小さく――

ほんの、かすれた一言を漏らした。



「……私……」


声が震えた。

喉を突き破るような鋭い痛みと共に、

数年ぶりに響いた、掠れた言葉。



それを聞いた瞬間、エゲリアの残響は薄く微笑んだように見えた。



――契約は果たされた。

星の棺は開かれ、時の鍵は継承された。

だが、これが終わりではない。



周囲の暗闇が崩れ、星の破片が音もなく消えていく。

白銀の衣を纏ったエゲリアは、最後にリィナの額へ触れる。



――代償の果てに、もう一度問いを捧げよ。

その時こそ、お前は“時を超える者”となる。



リィナの瞳に涙が滲む。

喉はまだ焼け付くように痛い。

でも――小さくても確かに、声はそこにあった。



光が弾ける。

意識が森の奥へ引き戻される。



気が付くと、苔の根の空間でライハが必死に肩を抱いていた。


「リィナ! リィナ! 戻ってこい……!」


リィナは震える指先で、ライハの袖を掴んだ。


掠れた声で、小さく。


「……ただいま……。」



森の奥、根の奥。

星の棺の封印は解かれた。


だが、その震える光の残響の奥で、

仮面を纏った上位魔人が――

闇に紛れ、リィナの“覚醒”を嗤っていた。

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