15. 問いの答えと血の契約
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暗い、暗い、夜空の底。
星の棺の中に引き込まれたリィナは、
まるで自分の胸の奥に沈んでいくような錯覚に捕まっていた。
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無数の星の破片が漂う闇。
足元はなく、重力もない。
ただ、自分の心臓の音だけが――遠く、微かに響いている。
リィナは両手を胸に当てた。
冷たい光が指先を照らす。
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かすかに聞こえる声――
それは“自分自身の声”だった。
「――もういいんだよ……もう……。」
幻影のように、幼い頃の自分が目の前に立っていた。
まだ声を失う前、村の小さな花畑で独りで花を編んでいた少女。
声は小さくても、確かに言葉を紡いでいた頃のリィナ。
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「あの時――怖かっただけ。
みんなに『お前は化け物だ』って言われて……
だから叫びを飲み込んだ。
声なんていらないって……。」
幼い自分は、手に持った花輪をくしゃりと潰した。
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あの日、声を閉ざす代わりに、誰かに助けを求めることを諦めた。
禁忌の無詠唱を暴走させ、声帯と一緒に心の奥の叫びを閉じた――
それが始まりだった。
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リィナは幼い自分に手を伸ばした。
だが触れた瞬間、その幻は光の粒になって弾けて消えた。
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代わりに――
今度は、失ってきた人たちの顔が次々に浮かぶ。
シャドウウルフに襲われた村の人々、
自分を助けようとして死んだ名もない騎士、
笑顔を向けてくれた店主の娘――
血と涙の残像が、リィナの周囲を取り囲んだ。
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「リィナ……」
「どうして私たちを救えなかった……?」
「無詠唱の力があったのに……」
幻影が無数の声で責める。
どれも、リィナの心の奥が生み出した自罰の声。
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必死に声を出そうとする。
喉が焼けるように熱いのに、言葉が出ない。
息だけが、白い霧になって虚空に溶けた。
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そんなとき――
ゆっくりと人影が現れた。
白銀の衣に包まれ、肩幅より大きな光輪を頭上に戴いた、
時の執政――エゲリア。
片翼の羽は、白銀の根元から金色に剥がれ落ちている。
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エゲリアは言葉を発さない。
だがその存在が問いかけてくる。
――まだ進むのか?
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周囲の幻影が、再び責める声を上げる。
「もうやめろ……!」
「また誰かが死ぬ……!」
「お前のせいで……!」
リィナは胸を押さえ、歯を食いしばった。
――進まなければ、声は戻らない。
進まなければ、私は私を取り戻せない。
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幻影の向こうで、
ふと――
ライハの声が聴こえた気がした。
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「リィナ――お前の声が、俺たちの希望だ。」
あの日、ライハが震えた声でそう言った。
村の廃墟で、血に濡れた花を握りしめて泣いていた自分に、
そう言ってくれた。
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もう一度、リィナは胸を叩く。
喉の奥で、何かが弾けるように脈打った。
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エゲリアが腕を伸ばす。
掌から光がこぼれ、星の棺の中心に流れ込む。
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――血を、刻印に。
声を、代償に。
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次の瞬間、棺の中心に“裂け目”が生まれた。
リィナの胸の奥から真紅の光が滴り落ち、
裂け目に吸い込まれていく。
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幻影の声が遠ざかる。
重い沈黙の中で、リィナは小さく――
ほんの、かすれた一言を漏らした。
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「……私……」
声が震えた。
喉を突き破るような鋭い痛みと共に、
数年ぶりに響いた、掠れた言葉。
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それを聞いた瞬間、エゲリアの残響は薄く微笑んだように見えた。
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――契約は果たされた。
星の棺は開かれ、時の鍵は継承された。
だが、これが終わりではない。
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周囲の暗闇が崩れ、星の破片が音もなく消えていく。
白銀の衣を纏ったエゲリアは、最後にリィナの額へ触れる。
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――代償の果てに、もう一度問いを捧げよ。
その時こそ、お前は“時を超える者”となる。
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リィナの瞳に涙が滲む。
喉はまだ焼け付くように痛い。
でも――小さくても確かに、声はそこにあった。
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光が弾ける。
意識が森の奥へ引き戻される。
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気が付くと、苔の根の空間でライハが必死に肩を抱いていた。
「リィナ! リィナ! 戻ってこい……!」
リィナは震える指先で、ライハの袖を掴んだ。
掠れた声で、小さく。
「……ただいま……。」
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森の奥、根の奥。
星の棺の封印は解かれた。
だが、その震える光の残響の奥で、
仮面を纏った上位魔人が――
闇に紛れ、リィナの“覚醒”を嗤っていた。
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