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終焉の魔女に言の葉を  作者: みみっきゅ
第二章 襲撃と村、刻を追う旅
13/70

13. 問いの答えと血の契約

最近暑いので体調管理気をつけてください!

光の渦の中に立つ精霊王の姿は、

人の形をしているようで、人ではなかった。

無数の蔦と苔、蝶と光の粒子が人の輪郭をかたどり、

その奥に深い翠の瞳だけが、生きているように瞬いている。



リィナは、言葉にならない声を、喉の奥で震わせた。

問いを発する術はない。

けれど、問いは確かに存在した。


――私は何者なのか。

なぜ、叫びを失わなければならなかったのか。

無詠唱の果てに何があるのか――


声なき問いが、リィナの胸を突き破るように溢れる。



精霊王はゆっくりと片手を掲げた。

青白い光が、蔦のように腕を伝い、空中に古代文字を編んでいく。


その文字は、言葉ではなく、

リィナの脳裏に直接刻まれた。



――お前は“時の器”。

忘れられた叫びの代わりに、世界の残響を背負うもの。


――無詠唱とは、失われた声を外へ出さず、

内側で全てを繋ぎ変える術。

その代償は、記憶、血、命。

時を司る者の、根源の呪い。



ライハが思わず一歩前に出た。


「待て……! ならば――リィナの声は、戻らないのか!?」


精霊王は視線だけを彼に向け、静かに首を振った。


――声は戻る。

だが代償は必ず、血と悲しみを伴う。

叫びとは、世界を繋ぐ鍵であり、

同時に、お前を切り裂く刃となる。



カイが苔の床を蹴り、小さく舌打ちした。


「……つまり、声を取り戻せば誰かが死ぬってことかよ……!」


森の奥で蝶がざわめいた。

光が一層強くなる。


リィナの頭上で、ほんの小さな光輪が再び生まれかけて、すぐに消える。



精霊王の声が、脳裏を貫く。


――選べ。

時を喰らうか、叫びを閉ざすか。

この森の心臓を開き、血の契約を交わすか否か。


森の奥の根が軋む音がする。

大地の奥深くに眠る魔素が、呼吸をするように脈を打つ。



ライハがリィナの肩を掴んだ。


「やめろ……お前はもう十分だ。

代償なんて……もう――」


リィナは、ゆっくりと首を振った。

頬に滲むのは涙ではない。

失った声の奥から、小さな「叫び」が、彼女の心を突き動かしていた。



リィナは、指先を噛んだ。

流れた血が、苔に落ち、青白い光に溶けていく。


精霊王が手を伸ばす。


――血を、刻印に。

お前の叫びを、時の継承に。


リィナはそっと差し出す。

掌から零れた赤は、樹の根へと吸い込まれ、森の奥を青く光らせた。



カイが叫んだ。


「……これでいいのか、リィナ!」


だが、リィナの瞳には、微かな――

“笑み”のような光があった。


声はない。

けれど、その目が全てを物語っていた。



森の奥で、光が渦を巻き、古代の紋様が樹の根に刻まれる。

樹皮の奥で、何かが軋みを上げるように開かれた。



――時は満ちた。

星の棺の座標は、

お前の血と共に開かれる。



森の心臓が開く。

光の奥に、新たな“道”が生まれる。


その先には、リィナが探し続けた真実の残響が――

微かに息づいていた。



 次回もお楽しみに。

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