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終焉の魔女に言の葉を  作者: みみっきゅ
第二章 襲撃と村、刻を追う旅
12/70

12. 森の鼓動、精霊王の呼び声

好きなキャラ教えてね!

霧を越えた先は、思いのほか明るかった。

長い霧の回廊を抜けると、そこには苔むした巨木が広がり、

幹には無数の精霊蝶がとまって淡い光を放っていた。


枝葉はまるで空を覆う大伞のように幾重にも連なり、

差し込む光は緑の海を揺らしていた。



カイが呆れた声を漏らす。


「……ここだけ別の世界みてぇだな。」


ライハは腰の短剣を納め、リィナに目を向ける。


「この先に、必ず“棺の鍵”がある。……けれど同時に、

この森の主――“精霊王”がいる。」


リィナはゆっくりと頷いた。

だが不安はなかった。


霧の奥で確かに感じた。

この森は彼女を試したが、拒絶はしていない。

むしろ――



奥へ進むにつれ、鳥や小動物の姿が増えた。

リィナの足元には、足に絡まるように小さな精霊狐が寄ってきた。

尻尾を振り、鼻をひくひくさせる。


カイがしゃがみこみ、狐に手を伸ばす。


「おいで……!」


がぶり。


「いってぇ!! 噛むのかよ!!」


ライハがため息をつく。


「試されてるのはお前だけだろう。」


リィナは喉を押さえ、声なき笑いをひそめる。



やがて、苔の絨毯が途切れる場所に出た。

森の奥にぽっかりと広がる空間。

そこだけ、巨木の枝が丸く途切れ、空が覗いている。


空に向かってそびえる一本の“王の樹”。

樹皮には古代の紋様が無数に刻まれ、

幹の割れ目から、青白い光が脈動していた。


それを目にした瞬間、

リィナの胸の奥が震えた。



ライハが低く呟く。


「……この中にいる。」


風が吹き抜ける。

樹の脈動が、まるで誰かの鼓動のように響いてくる。


カイが弓を下ろす。


「戦う相手……ってわけじゃないんだよな?」


ライハが微かに笑った。


「相手ではない。“会いに行く”んだ。」



リィナが一歩、樹の根の裂け目に足を踏み入れた。

冷たい空気が胸を撫でる。


一歩ごとに、声を失った喉が疼くように痛む。


エゲリア――

かつて“時の執政”がここに遺したもの。

それが、どんな願いを宿していたのか。


そして――

無詠唱の秘密の奥底に、何が封じられているのか。



樹の中は、外とは違い、広大な空洞だった。

内部の壁を青白い苔と蔦が這い、精霊蝶が道標のように光の帯を形作る。


リィナが手を伸ばすと、蝶が舞い上がり、ひとつの輪を描く。


その中央――

光の渦の中に、白銀の衣を纏った人影が立っていた。



ゆっくりと腕を広げるようにして、その人影が形を持つ。

姿は人に似ているが、顔はどこか霞がかかり、瞳だけが深い翠に輝いている。


声はなく、言葉はない。

だが、脳裏に響く呼び声だけが確かにあった。


――来たか、我が刻の継承者。


リィナは、無意識に膝を折った。

誰に教わったわけでもなく、そうするべきだと身体が知っていた。



ライハとカイも息を呑んで立ち尽くす。


精霊王は言葉なく、ただ視線をリィナに注ぐ。

瞼の裏で何かが剥がれ落ちるような感覚。


霧の村で流した血の残響、

街で交わした小さな笑い、

無詠唱に刻まれた叫び――

すべてが、光の中に吸い込まれていく。



――問いを捧げよ。

失った声の代わりに、お前の奥の奥を、

ここに開け。


リィナの胸の奥で、心臓が脈打った。

声にならない声が、震えながら喉元を叩く。


問いは一つだけ。

無詠唱の真実か、失ったものか。

それとも――



やがてリィナは顔を上げる。

深い緑の光の奥で、精霊王の瞳が揺れた。


その瞳に、リィナの問いが映る。



森の鼓動がひときわ強く鳴り響く。


エゲリアの封印が、ゆっくりと――

その錠を外そうとしていた。


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