暴動-16
ナオは咄嗟に避けたお陰で被弾せずには済んだが、その長く伸びる髪を切ってしまった。
ひらりと地面に落ちる髪の毛。
「チッ」春川は舌打ちし、ナオを牽制するように銃口を向けながらバイクに跨るとナオをひき殺すように突進しながら去っていた。
ナオの天性の回避能力のおかげで、事なきを得たが春川には逃げられてしまった。
「逃がしちゃった・・・・・・」
高校生の時、都の代表に選ばれるくらいの陸上選手だったナオですら、走るバイクに追いつけるわけもなくただ、逃がすしかなかった。
「なんにせよ、良かったよ。ナオちゃんに何もなくって」
駆けつけたコウキはそう言った。
「悔しいです。あそこで押さえていれば解決できたものを・・・・・・」ナオは悔しさを滲ませる。
「それより、ナオちゃん。髪型、大丈夫?」心配そうな顔でナオを見つめるコウキ。
「髪型ですか?」ナオは気づいていなく、ピンときていない顔をする。
「これ見てみな」
コウキはブラックアウトしたスマホを鏡代わりにしてナオの顔を映す。
「あ! 私の髪!!」
ナオの左側頭部分の髪の毛が一直線に切れていた。変なおかっぱ頭の途中経過みたいな感じの髪型をしていたのだ。
「あ~あ、可哀想」
コウキがそう言うと、ナオはキッとコウキを睨み付けて「許せない。乙女の髪を」と春川に対して怒りを募らせるのだった。
「で、彼はどこに向かったと考える?」
「どこって、潜伏先じゃないですか?」
「帰るか・・・・・・」コウキはその意見に賛同できかねる顔をしていた。
「違うんですか?」
「いや、ナオちゃんの話を聞くと俺、すげぇ~みたいに思っていそうな子だから。もう一山ありそうな気がしてさ」
「もう一山ですか?」
「そうもう一山。次の正義執行は何するだろうねと思ってさ」
「正義執行・・・・・・」ナオは意味深な顔をして考え始める。
暫くの沈黙の後、ナオは口を開いた。
「男の子がここまでやるからには、何かそれなりの覚悟があると思うんですよね」
「覚悟? 覚悟か・・・・・・」
「はい。その覚悟が何かは分からないですが」
「彼のプライベートってどうだったけ?」
「家庭環境に問題がある子ではなかったと聞いています」
「じゃあ、学校の方は?」
「すいません。そこまでは・・・・・・」
「よしっ、学校に話を聞きに行こう」
斯くして、コウキとナオは春川夏輝が通う高校へと向かった。
「春川君ですか? 最近、欠席が続いておりますがそれが何か?」
学校の教諭は事件の事を知らないようで、只の欠席だと思っているような感じであった。
どうやら、両親の願いで学校には取り調べを辞めるよう頼まれていたらしい。
「いえ、どんな子なのか気になりましてね」コウキは適当な事を言って誤魔化す。
「はぁ」
「春川君がどうしたんですか?」野次馬根性を出した生徒が声を掛けてきた。
「彼ってどんな子?」ナオが質問した。
「普通ですよ」
「普通か。学校で何かあったりした?」
「ああ、つい最近、女の子に振られました」
「女の子? どの子」
「この学校の生徒ですよ」
「どの子か教えてくれないか?」
「わ、分かりました」
生徒から聞き出した情報から、その生徒は家に帰ったというので二人はその生徒の家へと移動した。