暴動-1
プォォォォォォォォォォォォ
船の警笛の音が聞こえる。その音で俺は目を開ける。
「ふわぁぁぁ」
サジ コウキはあくびをしながら、車のシートを上げる。
「コウキさん、起きましたか?」
運転席に座るマスタ ナオが声を掛ける。
「ああ、起きた。ナオちゃんは眠れた?」
「ええ、よく」
嘘である。彼女は一睡もしていない。
横で眠るコウキを横目にひたすら、対象を監視していた。
彼らは今、麻薬カルテルのメンバーである橘 孝夫の内偵調査していた。
そして、今日、逮捕する算段がつき、調査もクライマックスを迎えていた。
「なぁ、ナオちゃん。こっちから仕掛けない?」
「仕掛けません。何の為に、張り込んでいると思っているんですか?」
「え~ 一気に行こうよ。一気に」
「行きません。逃げられたら、それこそ取り返しがつきませんよ」
「取り返しがつかないねぇ~」コウキは首をゴキゴキ鳴らしながら、車を降りる。
「待ってください!」
慌てでナオも車を降りる。
「付いてこなくて良いよ」というコウキはアパートに向かって歩き出す。
「そう言う訳には行かせません!!」
ナオもコウキの後に続く。アパートから目的の人物が出てきた。
「たっちばっな、さんっ!」コウキは階段を降りようとする橘に声を掛ける。
橘はすぐに察したのか、踵を返して部屋に逃げていく。
「あ、逃げた!!」ナオが声を出す。
「逃げたじゃないよ。追いかよう」
動じてないコウキはそのまま橘の後を追いかける。
部屋に鍵がかけられる前に、コウキは部屋に辿り着き部屋の中に入る。
ワンルームの部屋で、一言で言えばゴミ部屋であった。
ゴミを蹴飛ばしながら、部屋に入るとゴミ部屋の中に似つかわしくない銃火器がクローゼットにびっちり詰まって入っていた。
「あらまぁ~」
感心しているコウキを他所に、橘は窓から飛び出した。
コウキも後を追いかけるように、窓から飛び出す。
「え!? コウキさん!!」
窓から下を見下ろすとコウキは地面に着地し、橘を追いかけ始めていた。
「ウッソぉ! マジ!?」感心するナオを他所にコウキは物凄い脚力で追いかける。
「はぁっ、はぁ」
橘は息を切らしながら走り続けていると、一台のタクシーが横に着く。
「ファイトぉ~」
後部座席の窓からコウキが応援していた。
「クソっ! はぁはぁ」遂に力尽き、立ち止まる橘。
タクシーもそこで停車し、コウキは降車し橘を確保する。
遅れてやってきたナオは息絶え絶えに橘の手に手錠をかける。
「ご苦労さん」とねぎらいの言葉をかけるコウキは一枚の紙をナオに手渡す。
「これは?」
「見たら、分かる。じゃ」
コウキはそう言って去っていき、ナオは呼吸を整えながら渡された紙を確認する。
それは、タクシーの領収書であった。
「あいつぅ~」
ナオはちゃっかりした性格のコウキに苛立ちを隠せなかった。