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⑧
小さくだが鋭く、パエリエは息を呑む。
「誰だねきみは」
厄介そうに手を振るシェンデルフェールと、ぎろりと睨みを利かせる客のその先に。
昨日の彼がいた。
だがいで立ちは白衣だった昨日とはまるで違う。
上物の燕尾服に、シックなクラヴァット。
眼鏡もかけていない。
素で見るとかえって鋭さを増すその目を閉じ、リカルドは目礼する。
「あなたと違って、約束を必ず守る者です」
そう言い、二人の前にそっと開いた手には、紋章が乗っていた。
どこかで見たような、輪でつながれた太陽と月。
それを目にした途端、シェンデルフェールと客が一斉に膝を折る。
「これは……失礼いたしました」
すっかり狼狽し、そそと手を差し出す客。
「くっ。どうぞ。……お連れ下さい」
対するシェンデルフェールの目には不遜の黒い光が宿ってはいたが。
それを確認した時には、
「行こう」
突如現れた着飾った医者に手を引かれ、バエリエは娼館の外の光を浴びていた。