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「勘違いしないでくれるかな」 


 そっとその身体を抱きかかえると、彼は言う。


 今度ばかりは少し怒っているようだ。


「僕が悲しむのはなにより、きみの不在に他ならないんだが」


 そしてさすがに、今回ばかりは後ろめたい。


 パエリエは決まり悪げに、婚約者を見上げる。






「大罪人さん、後でたっぷりとおしおきをさせてもらうよ」


「リカルド……さん」






 急に立っていられないほどに力が抜け、彼にもたれかかる。


 いつだって、しゃんと一人で立ってきた。


 誘拐された今だって。


 ずっと昔、両親に娼館に売られた時も。


 初めて客を取った晩も。


 だからこんな状態になったのは初めてで、どうにも認めがたく。


 信じられないことだが。






 生まれて初めて、パエリエはほっとしていた。






 そっとその胸にすがり、悟る。


 そうか。


 あたしはこの人のことが。


 もう、ずっと前から。








「違うの。この人たちは、脅されてただけ。悪いのはただ一人。あいつだけなの。だから、あまり重い罰は……」


「まったく。一見冷たく見える癖に」


 困ったように、ポメラニアンに似た彼は笑った。


「相変わらず困ったお人よしさんだね、きみは」


 直後、別人のようにきりっと厳しい目を捕らえられた彼らに向ける。


「彼女が言うようにたしかに僕は自殺反対論者だ。脅されていたことを考慮し極刑にはしない。だが、未来の妻を傷つけたきみたちをしばしの投獄にとどめ死罪としないのは、彼女に免じた特大の恩赦と思ってもらいたい」






 引け、というリカルドの命に従い、男たちを宮廷の者が連れて行き、コリンヌが介抱に抱きかかえられ、牢獄を後にしていく。


 入れ違いで牢獄に入って来たのは、エルネストに捕らえられたシェンデルフェールだった。


 彼にどうも、とにっこり、リカルドは笑いかける。


「引けと、部下の方には言いましたが、あなたはそうはいきませんよ」


 くっと、シェンデルフェールは顔を歪めた。






「なにも知らない若造が。我々はお前たちぽっと出の者と違って、歴史ある貴族だ。援護する民もついている。このようなことをしてただで済むと思うのかな」


 相変わらずにこにこと怖いくらいの笑みを湛えながら、リカルドは続ける。


「そうですね。長い歴史を持つ両家の争いの終止符は、民に委ねるとしましょうか」


 そして細く笑った目をうっすらと見開いた。


「これまでの恐喝を用いた政治手腕、父の批判を受けてもなお続けた娼館の非人道的経営の数々。全て明るみに出させてもらいます」


 心なしか一段、声が低くなった気がする。


「その上で民がどう判断するか。楽しみですね、シェンデルフェール卿」


 呻くような声を発した悪漢を連れ去る際、ぽつりとエルネストが零した。


「だから、笑顔を少し緩めてください。怖いです、殿下」








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