⑥
娼婦たちの朝はそう早くない。
昼頃置き出し、夕方からの出勤時間に備えて念入りに身づくろいを始める。
ところが、パエリエの翌日は、朝日とともに幕を開けた。
客の寝床から持ち場の大部屋に戻ったのが夜明け前。並んだベッドからの同僚の女たちの睡眠の邪魔立てをせぬようつま先で歩き、ずらりと並んだ棚の一つの前に立つ。
衣擦れの音を殺しながら、派手な仕事着を脱いで。
鼻につく異臭に首を振れば、バニラの花びらのような素肌に朝日の黄金を反射した鬼百合の髪が散らばる。
鏡の前、平生は不愛想な顔をしている自分に、今日だけは微笑みかけてみたくなる。
化粧を解けばなおさらの色香だと湛えられた唇はふっくらと、よく見れば幼さを残し。
マスカラのとれたまつ毛はどこか勝気な少女のようにぴんと上を向く。
下賤の女の仕事であっても、よくやったと言ってくれるような。
鏡の向こうの女はそんな顔をしていた。
今日ばかりはそれもいいだろう。初めての外出日なのだから。
棚にたたまれていたワンピースに袖を通す時は、さすがに力んでしまう。
外出用と言っても仕事着しか持っていないから、少ない所持品で精いっぱいめかしこむ。
身を売る女の証である縞模様がなるべく隠れるように、スカートをダークチェリー柄のスカーフで覆って。
ついでに同じ色のハンカチを腕と髪に結んで装飾代わりにしよう。
ハンカチをバンダナ代わりにして肩までの髪をまとめると、普段よりぐんと若く見える。そんな自分に 柄にもなく笑いかけると、レティキュールを手首にひっかけ、パエリエは娼婦用の大部屋を飛び出した。