⑩
「——見たような顔だね」
震える手で新聞を掴み見入っているパエリエに、声をかける女があった。
しわがれた頬に黒ずんだ肌。
かつての舎監の女だ。彼女はパエリエの相好を見て、あっと声を上げる。
「王妃候補になったとかいう、パエリエだろ。噂で持ち切りだよ」
見下げるように、女は言った。
「見たところ、捨てられたのかい」
まじまじと、新聞の両端にかけられたパエリエの白い手を見る。
「腕の傷を絶えず注意したもんだけど、まぁなめらかになったこと。――ふん、やっぱり王宮帰りは違うってことさね」
満足げな笑みに混じった皮肉を受け取る余裕はなかった。
電撃に打たれたような衝撃が、全身を襲っていた。
毎月彼から送られた手袋。
爪を短く切らされたこと。
直接的なそうした手配ばかりではなく、そんなふうに大切に扱われたことが、自分を痛めつける癖をパエリエから遠ざけていた。
――知らず知らずのあいだに。
くしゃっと皺のよった新聞紙で涙に濡れた顔を隠す。
――こんなのって。こんなのって……。
激しく打ち震える背中が止まらない。
ほんとうは折りたたんで生涯、大事に持っていたいと思った記事を隠れ蓑に、パエリエは激しく泣きじゃくった。