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「——見たような顔だね」

 震える手で新聞を掴み見入っているパエリエに、声をかける女があった。

 しわがれた頬に黒ずんだ肌。

 かつての舎監の女だ。彼女はパエリエの相好を見て、あっと声を上げる。



「王妃候補になったとかいう、パエリエだろ。噂で持ち切りだよ」

 見下げるように、女は言った。

「見たところ、捨てられたのかい」

 まじまじと、新聞の両端にかけられたパエリエの白い手を見る。

「腕の傷を絶えず注意したもんだけど、まぁなめらかになったこと。――ふん、やっぱり王宮帰りは違うってことさね」



 満足げな笑みに混じった皮肉を受け取る余裕はなかった。

 電撃に打たれたような衝撃が、全身を襲っていた。



 毎月彼から送られた手袋。

 爪を短く切らされたこと。

 直接的なそうした手配ばかりではなく、そんなふうに大切に扱われたことが、自分を痛めつける癖をパエリエから遠ざけていた。



 ――知らず知らずのあいだに。



 くしゃっと皺のよった新聞紙で涙に濡れた顔を隠す。


 ――こんなのって。こんなのって……。


 激しく打ち震える背中が止まらない。

 ほんとうは折りたたんで生涯、大事に持っていたいと思った記事を隠れ蓑に、パエリエは激しく泣きじゃくった。


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