⑧
居酒屋のカウンター席で白湯を注文し、パエリエはぼんやりと、日々のニュースの話題に興じる人々を眺めた。
熱心に新聞の王室欄を読む隣の男性をただ横目で見ている。
もう自分には関係のない場所だ。
だがそうしているうち、どうにもその欄が気になってくる。
王室の人たちになにかあったのかもしれない。
——リカルドの身に、なにか。
「なにが書いてあるの?」
気付いたら男性に話しかけていた。
「婚約者にかけられた国庫浪費の嫌疑の釈明、王子が出したらしいよ。なかなかおもしろいんでね」
「——!」
息を呑んでいると、男性の仲間たちが茶々を入れる。
「あんな長ったらしい文章。よく読めるな」
「いやこれが、なかなかに反響を呼んでいるんだぜ」
「貸して」
ひったくるように新聞を取り、見入る。
見ずには、いられなかった。
冒頭には国庫の支出の内訳がわかりやすい表で明示されている。
その後から続く長文が、リカルドの出した声明らしかった。
――以上が国庫の使い道の全てであり、我が婚約者が浪費した事実などどこにも見当たらないことは明白です。
ここでもう一つ、国民の皆様に抱かせている疑念。
僕と彼女との出会いについてつまびらかにする必要があると存じます。
「……⁉」
――話は十五年ほど前に遡ります。皆さまが既にご存じの通り、グランメール王家にはもう一人、本来跡継ぎとなるべき王子がおりました。
初めて語られる、それは彼の物語だった。
――僕と五つ離れ、真面目で誰より優しい兄でした。ところが彼は、民の声全てを聴くことができない自分に失望して、まだ若かったある日、自ら命を絶ったのでした。
「——」
かすかに開いた口が塞がらない。
パエリエは一度新聞から背けた目を、再びゆっくりと戻す。
あの人は、リカルドはなんの苦労も知らないから、人に優しくできるのだと思っていた。
いいや、違う。
うすっぺらい理屈では語れないものを感じていたからこそ。
だがら自分は彼の言葉に惑い、その正体がわからないと、叫んだ。
そして、謎が今、明かされんとしている。