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 私室の化粧台の上に、パエリエは腰かけていた。

 あたりの制止を振り払い受け取った記事を食い入るように読む。

 娼館出身の王妃候補が過去に関係を持った男性のおびただしい数や、堕落に導いた家庭の数など、根も葉もない醜聞が書き立てられていた。



「こんなもの」

 鋭い音を立てて、それを引き裂く者があった。

 パエリエの後ろから、それまでそっと見守っていたコリンヌである。

 ――なんと言われたって。あざ笑われ見下されても。暴力すらも。

「ひっどいです! ふざけんなってカンジ! パエリエさまのご苦労も努力もなんにも知らないで!」

 ――平気だったのに。

 静かに、震え一つない声で、パエリエは答える。

「いいのよ。娼婦だったことは、事実だし」



 それもこれも、みんなが優しくするからだ。

 ――ちょっとだけ平気ではなくなってしまった。

「パエリエさま……」

 ほら、年下のコリンヌにまで心配をかけてしまっている。

 健気な侍女に向けて、パエリエは微笑む。

「ちょっと、出てくるわね」

 国王夫妻に頭を下げ、踵を返す。

「パエリエさま、今外に出るのは」

 どうにか歩を止め、コリンヌにパエリエは応じる。

「だいじょうぶ。王宮の中からは出ないから」

 国王夫妻もエルネストもコリンヌも、あえてのように、それ以上声をかけることはなかった。


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