③
王妃、王、エルネストが深刻な顔で長テーブルを囲んでいる。
テーブルの上には数枚、ビラのようなものがある。
「どうかなさったんですか?」
途端に王妃が狼狽えた表情を引き締め、てきぱきと指示を下す。
「パエリエ。会は中止です。今日は私室から出ぬよう」
「え?」
何故だ。
言わずもがな――問題が起きたのだ。
テーブルの上のビラがその根源なのか――。
そこに近寄ろうと、足を踏み出すが、
「私が付き添います、パエリエさま」
エルネストが立ちはだかり、そうさせようとしない。
「いいえ。わたしも王室の一員です。なにかあったのなら一緒に考えさせてください」
彼だけにでなく、この場にいる全員に訴えるが、国王夫妻は狼狽えたように顔を見合わせるばかりだ。
「ですが、これはあまりにも」
「お願いです、陛下、王妃様。いえ」
口をつぐみ、ゆっくりと発音する。
「お義父さま、お義母さま」
目を覆われ、おぞましいものから守られてばかりではいられない。
自分も家族の一員だと、言ってくれたこの人たちのことでは。
「あ、ちょ、パエリエくん――」
国王の静止の声もきかず、パエリエはエルネストをすりぬけ身を乗り出した。
そこにあったのは数枚の新聞記事とビラだった。
女の裸体を一枚の布で覆う滑稽な風刺画。
その上に描かれている。
娼婦出の姫の醜聞、と。
歩み寄ったグザヴィエが、低く押し殺した声で告げる。
「パエリエくん、落ち着いて聞くんだよ」
いつも笑みを絶やさないその顔が今日は引き締まっている。
「今朝王宮に警告文書が届いた。それがきみに害を与える可能性のあるものだったんだ」
細く、パエリエは息を呑む。
「……どんな内容で」
いくらかためらった後、吐息をついて、グザヴィエは答えた。
「元娼婦が、皇太子をたぶらかして贅沢をし、国庫を浪費していると」
「愚にもつかないデマです」
怒りに燃えた王妃がすかさず付け足す。
「無論だ。怖がることはない」
「それで」
パエリエは顔を上げる。
「続きは? 警告文というからには、なにか要求があるのですよね?」
「——」
グザヴィエはしばらくエルネストと、それから王妃を顔を見合わせ、しぶしぶというようにパエリエに向き直った。
「きみを王宮から追放しろと。さもなければ暴動を起こすとある」
知らずこめかみに手をやるパエリエの背を支え、彼ははっきりと言う。
「巷で広がっている噂は誰かが意図的に流しているものだ。全くのでたらめだということはいずれ明らかになる」
パエリエがかすむ視界を懸命につなぎとめるのを鼓舞するように、たしかな王妃の声音が続く。
「それまでは全力をあげてあなたを守ります。側近も侍女たちも、みな同意見です。ですが」
扇で覆った口元の上から気づかわし気な瞳がパエリエを見つめる。
「しばらく外出は危険です。わかってくれますね」
説き伏せるような声にパエリエは頷くしかなかった。