表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/63

 王妃、王、エルネストが深刻な顔で長テーブルを囲んでいる。

 テーブルの上には数枚、ビラのようなものがある。

「どうかなさったんですか?」

 途端に王妃が狼狽えた表情を引き締め、てきぱきと指示を下す。

「パエリエ。会は中止です。今日は私室から出ぬよう」

「え?」



 何故だ。

 言わずもがな――問題が起きたのだ。

 テーブルの上のビラがその根源なのか――。

 そこに近寄ろうと、足を踏み出すが、

「私が付き添います、パエリエさま」

 エルネストが立ちはだかり、そうさせようとしない。

「いいえ。わたしも王室の一員です。なにかあったのなら一緒に考えさせてください」

 彼だけにでなく、この場にいる全員に訴えるが、国王夫妻は狼狽えたように顔を見合わせるばかりだ。



「ですが、これはあまりにも」

「お願いです、陛下、王妃様。いえ」

 口をつぐみ、ゆっくりと発音する。

「お義父さま、お義母さま」

 目を覆われ、おぞましいものから守られてばかりではいられない。

 自分も家族の一員だと、言ってくれたこの人たちのことでは。

「あ、ちょ、パエリエくん――」

 国王の静止の声もきかず、パエリエはエルネストをすりぬけ身を乗り出した。




 そこにあったのは数枚の新聞記事とビラだった。

 女の裸体を一枚の布で覆う滑稽な風刺画。

 その上に描かれている。

 娼婦出の姫の醜聞、と。

 歩み寄ったグザヴィエが、低く押し殺した声で告げる。



「パエリエくん、落ち着いて聞くんだよ」

 いつも笑みを絶やさないその顔が今日は引き締まっている。

「今朝王宮に警告文書が届いた。それがきみに害を与える可能性のあるものだったんだ」

 細く、パエリエは息を呑む。

「……どんな内容で」

 いくらかためらった後、吐息をついて、グザヴィエは答えた。

「元娼婦が、皇太子をたぶらかして贅沢をし、国庫を浪費していると」

「愚にもつかないデマです」

 怒りに燃えた王妃がすかさず付け足す。

「無論だ。怖がることはない」

「それで」

 パエリエは顔を上げる。

「続きは? 警告文というからには、なにか要求があるのですよね?」

「——」



 グザヴィエはしばらくエルネストと、それから王妃を顔を見合わせ、しぶしぶというようにパエリエに向き直った。

「きみを王宮から追放しろと。さもなければ暴動を起こすとある」

 知らずこめかみに手をやるパエリエの背を支え、彼ははっきりと言う。

「巷で広がっている噂は誰かが意図的に流しているものだ。全くのでたらめだということはいずれ明らかになる」

 パエリエがかすむ視界を懸命につなぎとめるのを鼓舞するように、たしかな王妃の声音が続く。

「それまでは全力をあげてあなたを守ります。側近も侍女たちも、みな同意見です。ですが」

 扇で覆った口元の上から気づかわし気な瞳がパエリエを見つめる。

「しばらく外出は危険です。わかってくれますね」

 説き伏せるような声にパエリエは頷くしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ