②
日々の公務に勉学に、そして夜な夜な贈物の制作にと励むうち、その日はあっという間に訪れてしまった。
二月。皇太子の誕生日は冬の晴天で、宮廷内には朝から静謐な空気が漂っていた。
パエリエは厨房で、侍女たちに交じり、食事の準備にいそしんでいた。
正午になったら会場である大広間に来てくれと王妃に言われている。
会場の飾りつけならば手伝いますと申し出たが、はじめての皇太子誕生会の華やかさを見て、パエリエにもびっくりしてもらいたいのだと王妃は笑った。もはや誰のための会かわかったものではないと思ったが。
苦笑しつつ特大ケーキを盛りつけながら、思考は宙を漂う。
あの人への贈物、ほんとにあれでよかったかしら。
あんなささやかな小物で……。
眼鏡越し、ぐっと目を細めたリカルドの笑顔が浮かんできて。
「楽しみですね、パエリエさま」
隣でクッキー生地をこねていたコリンヌがウインクを送って寄越した。
「え。別に。楽しみにしてもらわなきゃならないのはあたしじゃないし」
契約の婚約なのだしとは胸中で付け加える。
「ふふふふ」
こらえきれないようにコリンヌは笑い出した。
「そんなこと言って、わくわくが抑えきれないの、仕草に出ちゃってますよ?」
「え?」
初めて、パエリエは気付いた。
少しでも手が空くと、流行る鼓動を抑えきれないように、胸元に片手をあてている自分に。
待ち焦がれた正午になり、後ろにコリンヌを伴ったパエリエは大広間の扉に手を添える。
直後、得体の知れないためらいが襲う。
扉の向こうに、王の王妃の、人々の笑顔が想像できる。
あたりまえのようにそこに居並ぶ自分。
いいのだろうか。
こんなにふつうに、居場所があって。
半年前は掃きだめの娼婦だった、自分が。
「ああ陛下。なんということなのでしょう」
「落ち着きなさい、オルタンシア。だが、めでたき日にこのような――」
国王夫妻の深刻そうな声音が、意識を現実へと引き戻す。
何事かあったのだろうか。
まさか――リカルドの身に、なにか。
数秒前のためらいが嘘のように、パエリエは扉を押し開けていた。