表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/63

 まぶしそうに見上げてくる人々の視線を避けるようにして、いつしか回廊に出ていた。

 歩きながら浮かんでくるのはリカルドの笑顔だ。

 いつだって穏やかに微笑んでいるあの顔。

 考えてみれば笑顔以外はあまり見たことがない。

 怒った顔はいつだってパエリエではなく、彼女を侮辱する誰かに向けられていて。

 あとは強いて言えば、困ったポメラニアンのような表情か。



 ドレスをさばきながら、パエリエは息をつく。

 また、あたってしまった。

 自己嫌悪と惑いが脳内を旋回する。自分で自分がわからない。

 かすかに開いた扉から漏れる、会を楽しむ人々のさざめき。

 大多数の人々はたしかにパエリエを認めている。

 なのになぜもやもやする。



 民衆の人々の支持の理由ならわかる。

 言葉が伝わったからだ。

 うぬぼれかもしれないが、人々の苦しみに逆転をもたらしたいというパエリエの想いを受け取ってくれたのだと思っている。

 それも粗野な彼女の言葉だけで伝わったはずがない。

 彼の支えがあったから。



 ――彼は。

 ――リカルドはなぜあたしを支えてくれる。

 わざわざ娼館までやってきて、女を買うでもなく、皇太子妃にしたいと申し出た。

 無垢でいとけない少女ならいざしらず、人生の場数を踏んできてしまった彼女には、理由のない優しさは不安の要因でしかなかった。

 時々は、その無私の瞳に、安らぎすら感じても。

 結局は、目的があるのだろうと勘ぐってしまう――。

 パエリエは吐息をつき、柱で自身の身体を支えた。



 今は、やめよう。

 堂々巡りだ。

「可憐なる婚約者殿、殿下とけんかでもなさいましたかな」

 暗がりにたたずむ一人の男が、話しかけてきた。

 豪奢な身なり。

 深淵のようなトープの髪と瞳。

 シェンデルフェールだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ