④
まぶしそうに見上げてくる人々の視線を避けるようにして、いつしか回廊に出ていた。
歩きながら浮かんでくるのはリカルドの笑顔だ。
いつだって穏やかに微笑んでいるあの顔。
考えてみれば笑顔以外はあまり見たことがない。
怒った顔はいつだってパエリエではなく、彼女を侮辱する誰かに向けられていて。
あとは強いて言えば、困ったポメラニアンのような表情か。
ドレスをさばきながら、パエリエは息をつく。
また、あたってしまった。
自己嫌悪と惑いが脳内を旋回する。自分で自分がわからない。
かすかに開いた扉から漏れる、会を楽しむ人々のさざめき。
大多数の人々はたしかにパエリエを認めている。
なのになぜもやもやする。
民衆の人々の支持の理由ならわかる。
言葉が伝わったからだ。
うぬぼれかもしれないが、人々の苦しみに逆転をもたらしたいというパエリエの想いを受け取ってくれたのだと思っている。
それも粗野な彼女の言葉だけで伝わったはずがない。
彼の支えがあったから。
――彼は。
――リカルドはなぜあたしを支えてくれる。
わざわざ娼館までやってきて、女を買うでもなく、皇太子妃にしたいと申し出た。
無垢でいとけない少女ならいざしらず、人生の場数を踏んできてしまった彼女には、理由のない優しさは不安の要因でしかなかった。
時々は、その無私の瞳に、安らぎすら感じても。
結局は、目的があるのだろうと勘ぐってしまう――。
パエリエは吐息をつき、柱で自身の身体を支えた。
今は、やめよう。
堂々巡りだ。
「可憐なる婚約者殿、殿下とけんかでもなさいましたかな」
暗がりにたたずむ一人の男が、話しかけてきた。
豪奢な身なり。
深淵のようなトープの髪と瞳。
シェンデルフェールだ。