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 当面の問題の解決まで帰国を延期し、宿も兼ねているという居酒屋に、二人は泊まっていくことになった。

 二階に上がる二人の荷物を持ちながら、宿の主人は頭を下げる。

「申し訳ございません殿下。一部屋は確保できたのですが今は繁忙期でして。あと数刻お待ちいただくことになるかと。なんとか頑張って、もう一部屋開くよう試みてみますゆえ」

 なんだったら他を探そうかと申し出るも、主人は激しく首を横に振り、頑張らせてくださいとたくましく腕まくりして去っていった。

 小さなロビーに取り残された二人。

 パエリエは横のリカルドを見てふいに呟く。

「大変そうね。あたしは別に同じ部屋でもかまわないんだけど」

「え?」



 目を大きく見開き、こちらを見つめてくる彼に、問い返す。

「えって?」

 数秒の沈黙の後、はしっと頭を抱え、リカルドは髪をかきむしりだした。

「しまった! そうだったのかい?」

 ああなんということだと今度は聖母に嘆いている。いったいなにだ。

 ぴたりとその手を止めると、この上なくまっすぐな瞳を、彼はパエリエに向けてくる。

「僕は女性やまして愛しい人の前では紳士であれと教わって来たし、そのつもりでいる」

「なんの話?」

「——だが」

 きりりと引き締めた顔で、彼が言うことには。

「きみから来てくれるぶんには、一向にかまわないんだよ。うん、いつでも」

 思わず、口が空いた。

「殿下! どうにかもう一部屋空きそうです! どうぞこちらへ~」

 嬉々とした主人の声を背景に、両手を取られ、熱いまなざしはやまない。

「どうする? 今からでもこっちに来るかい?」

 なぜか。

 顔にまで熱さが伝染していく。

 熱を肯定したくなくて、パエリエはその手を振り払った。



「そ、そういう意味じゃないわよ。ばかっ。あたしはただ宿の人の手配が大変そうだったから」

 はははと軽やかな笑いが降ってきたと思ったら、茶目っ気のある瞳で皇太子がこちらを見降ろしていた。

「冗談さ。真っ赤になって、きみという人はほんとにかわいいなぁ」

 ぎろりと、パエリエは婚約者を見上げる。

「実はすんごく性質悪いでしょ、あんた?」

「おや? 今頃気付いたのかい?」

 笑顔が優しい婚約者は恭しく、案内されたパエリエの部屋の扉を明け、仕草で彼女を中へ促し、ぱたりと戸を閉めた。

 背中に穏やかなその音を聞きながらパエリエは思う。

 ……なんか手の中で転がされてる気がする。



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