⑫
駅前通りから十数分、入り組んだ路地を歩き、やってきたのは下町の居酒屋であった。
古びた店の中心の丸テーブルで男たちが集っている。その手にはそれぞれ数枚、不可思議な幾何学模様のカードが握られている。
さりげなくその中にリカルドを腰かけさせると、テーブルの中心——ゲームの賞品を眺め、パエリエは目を細めた。
やはり。
金券、古びた指輪、小箱。
怪し気なものたちのその隣に、ダイヤエナ行きの三等切符が連ねられている。
彼の肩に両手をかけ、耳元で囁く。
「さ、頑張って」
「え。これってまさか、まさかじゃなくても賭け事というやつかい⁉」
意味を理解したリカルドが素っ頓狂な声を上げ、あたりから怪訝そうな視線を買っている。
「なんだ、素人か?」
「ルーキーはひっこんでな」
「あ、はい、そうですね……」
すごむいかつい男衆にもリカルドはあくまで真面目に応対している。
「社会的立場的にはそうしたいのですが、しかし。恋人を連れ目の前に花園に連れていける切符があるとなると、一人の男としてはそういうわけには」
いらいらと、隣の男が二枚のカードを机になすりつけている。
「結局どうすんだ。やるのか、やらねえのか」
リカルドは覚悟を決めたようだ。
「ルールを拝聴しても」
「いいわ」
場違いな王子がそれ以上ごろつきどもをいらつかせる前に、パエリエは助け船を出した。
「カードの意味はその都度あたしが教える。彼の束から一枚、引いて」
はは、女のほうが上手だ、苦労するな兄ちゃん、助っ人つきかとごろつきどもがはやし立てるのをパエリエが一喝する。
「いいでしょこのくらい。あんたたち、よってたかってこの人かもにしそうな顔しているし」
そりゃねぇよ姉ちゃん、と不満を言いつつどっとうける周囲の中、リカルドはうな垂れ一言。
「それはないよパエリエ……」
優し気に、パエリエはその首の後ろに触れてやる。
「あら。不満だった? 守ってあげるって言ったのよ」
じと目で見つめてくる顔を見て、笑いそうになる。
さしずめ餌の待ったに堪えられない子犬だ。
こくりと唾を呑みリカルドは、目の前の老人の手札から一枚、選び取った――。